2019年7月、東京都内で弁護士ドットコム(東京・港区)が主催する「建設業のための電子契約実務セミナー」が開かれた。客席は100名を超え、満席という盛況ぶりだ。
未だに紙やアナログな手法が多い不動産・建築業界にも、電子化・デジタル化の波が徐々にと押し寄せ、課題を感じている事業者は多い。なかでも電子契約は、契約効率化やコスト削減など、受けられるメリットや恩恵がたくさんあると言われている。
しかし、電子契約に関する記事や報道では、電子契約の良い部分だけがフォーカスされている感が否めない。本当は、語られていないリスクやデメリットがあるのではないかと、ついつい勘ぐってしまう読者も多いのではないだろうか。
登壇したのは、住宅・建築・土木設計・不動産など、土地と建物に特化した法律実務を行っている匠弁護士事務所代表弁護士・秋野卓生弁護士だ。
建設業法のなかでも「建設工事請負契約」は、リフォームや注文住宅、原状回復工事など、不動産事業者でも決して無縁ではない。今回は、セミナーの様子を紹介するとともに、電子契約のメリットだけではなく、リスクについても考えてみよう。
国をあげた電子化促進の流れが生まれている
セミナー冒頭、秋野弁護士は「いま、法律がスピーディに動こうとしている」と、法律が電子化を含めた変化の潮目に差し掛かっていることを強調した。
大きな理由として、2019年5月に可決・成立した「デジタル手続き法(デジタルファースト法案)」がある。これは、行政手続きを原則的に電子申請に統一するというもので、引っ越しや相続に関する手続きがネット上で完結できるというものだ。2019年度から順次実施され、住宅業界の補助金を申請や、法人の設立にあたっての手続きの簡略化などにも注目が集まっている。
「デジタル手続き法案が動き出そうとしているなかなかでは、契約のデジタル・電子化には高い期待があります」(秋野弁護士)。
申請者の本人確認など、これまで事業者にも煩雑で手間がかかっていた業務が、電子化されていくことは、政府が進める「働き方改革」にも関係している。そういった世情が、不動産・建設業法の電子化に追い風になっているという。
熱心にメモを取る参加者も多かった
電子契約できる契約・できない契約とは
では、現在「電子契約できる契約」と「電子契約できない契約」とはどういったものなのだろうか。
秋野弁護士によると「電子契約ができない」とされている契約は「法律上で書面による契約の締結を義務づけられているもの」「書面を交付されることが必要とされているもの」が対象になるという。
【電子契約による締結が不可能な契約類型(※)】
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■法律上否定さているもの
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・定期借地契約(借地借家法22条)
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・定期建物賃貸借契約(借地借家法38条1項)
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■書面交付が必要とされているもの
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・訪問販売等において交付する書面(特定商品取引法4条等)
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・宅地建物売買等の媒介契約書(宅建業法34条の2)
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・宅地建物売買等における重要事項説明時に交付する書面(宅建業法35条1項)
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・宅地建物売買統計約締結に交付する契約書等の書面(宅建業法37条1項)
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・マンション管理業務の委託契約(マンション管理法73条)
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【電子化が可能な契約書類】
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・請負契約書
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・売買契約書
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・業務委託契約書
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・賃貸借契約書
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・秘密保持契約書
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・代理店契約書
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・保証契約書
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・発注書、発注請書
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※注=類型とは、民法で定められた契約の種類
「定期借地契約」や「定期建物賃貸借契約」は、借地借家法により「公正証書」による書面によって契約することが定められているため、電子契約が不可能とされている。「宅地建物売買等の媒介契約書」なども、書面による交付が規定されており、電子契約の利便性を活かすことが難しいとされている。
一方で、「請負契約書」や「賃貸借契約書」、「秘密保持契約書」などは電子契約が可能だ。「建設工事請負契約」においても建設業法の要件を満たすことができれば可能であることにも注目しておきたい。
建設工事請負契約 電子化のリスク
では、建設工事の請負契約にリスクはないのだろうか。
秋野弁護士は、「なりすまし契約」と「下請けへの架空発注」が、今後電子契約が普及していくなかで、問題として現れる可能性があると言う。
【なりすまし契約】(例) “注文住宅の営業担当者が顧客との信頼関係を気付き、建設工事請負契約を電子契約で締結することになった。顧客にも入力してもらう項目がある契約書だったが、顧客がPCやスマホといった機器に不慣れなことから、営業担当が代わりにキーボードで入力した。” この場合、発注者の欄に打ち込んだのは社員で、企業側の項目を打ち込んだのも社員になる。顧客の名前をかたって自身同士が契約をしたことになってしまうのだ。これは、後に顧客が解約を申し出た際などに、そもそもの契約意思が認められない可能性があり、リスクになるという。 |
【下請けへの架空発注】建設業界の元請けと下請けといった繋がりにおいては、元請け業者の現場監督と下請け業者が互助関係にある場合がしばしば見られる。 「この現場で赤字を出してしまったから。次の現場で補てんする」というやりとりがなされ、下請けが被った赤字を別の現場で埋め合わせるといったことも商慣習として行われている。 ところが、穴埋めができず下請け業者の赤字が連続してしまったときに問題が起こる。元請け業者は下請け業者に架空の工事を発注し、架空の請負代金を支払うといった手法がとられるのだ。 近年では、架空発注によって建設業者の会社員が逮捕された事件もあり、コンプライアンスを重視する企業が増えている。しかし、現場監督に電子契約の発注権限が与えられている場合、誰のチェックもなく、架空発注を行うことができてしまうのだ。電子契約によって契約が容易に締結できてしまうことが利便性に繋がる一方で、リスクに繋がっているのだ。 |
秋野弁護士は、「電子契約はメリットも大きいが、会社の中のコンプライアンスの内部統制体制が必須になる。企業が新しいことに取り組むのだから、同時に内部統制を考えることは当然です」と語る。
企業は、単に電子契約を取り入れるだけではなく、運用方法やサービスの利用権限といった社内体制を見直す必要性があるのだ。逆を返せば、電子契約が適正に普及することは、業界の健全化にも一役買うことになる。
電子化の意外なメリット
電子契約がある程度のリスクを持っている一方で、秋野弁護士は「書面の保管において、電子化は非常に効力を発揮する」と、電子化が持つ意外なメリットを紹介した。
建設関係は、契約書や図面など書類が膨大だ。
建設業法施行規則28条1項では、「当該建設工事の目的物の引渡しをしたとき(当該建設工事について注文者と締結した請負契約に基づく債権債務が消滅した場合にあつては、当該債権債務の消滅したとき)から五年間(発注者と締結した住宅を新築する建設 工事に係るものにあつては、十年間)とする。」と、定められている。
つまり、建設業者は帳簿などの書類を、最大10年間保存しなければならない。
また、2020年4月に予定されている民法改正では、通常の瑕疵ではなく、「不法行為に該当する瑕疵」の場合、建築時から20年間の責任追及を受けることになり、トラブル対応を考えると20年間保管しなければならないのだ。
現状でも、十分に書類を保管できていない業者が多いという。
秋野弁護士が、建設業者から相談を受けるなかでも、建設当時の証拠・資料が全く残っておらず、証拠がないままで裁判を起こされるといったケースもままあるのだ。
これらの膨大な書類を保管するには、当然コストが発生する。そのため電子化することは非常に効果的なのだ。
「訴訟リスクが高まる中では、電子化は契約書だけではありません。あらゆる書面の電子化が必要だと思っています」(秋野弁護士)。
建設業法をクリアした電子契約なら「クラウドサイン」
そもそも電子契約を締結するには契約書の送信者・受信者双方が、「電子証明書」を持たなければならない。「電子証明書」とは、国が発行する公的な証書で、インターネット・電子上での法人や個人の存在を証明し、信頼や正当性を証明する身分証明書のことだ。
通常であれば、発注者・受注者が手数料を支払い、電子証明書を取得する必要があり、これが、電子契約が業界に浸透しない背景として大きな課題となっていた
しかし「クラウドサイン」なら、電子証明書を用意せずに利用できるという点が大きな特徴だ。第三者である「クラウドサイン」が自己の電子証明書を用いて電子署名をする仕組みによって業法をクリアしている。
現に、2018年1月には、経済産業省と国土交通省に対し「クラウドサイン」が建設業法を満たすかを書面で問い合わせ、書面で回答を得た。
規制について規定する法律及び法律に基づく命令の解釈等に関する回答書
また、同サービスは建設業法だけではなく、不動産業界でも重要な役割を果たすかもしれない。国交省が発表した、2019年に実施される「IT重説の社会実験」に関する書面の中で、クラウド電子署名サービスの例として「クラウドサイン」の名前があがっているのだ。
国交省「重要事項説明書等(35条、37条書面)の電磁的方法による交付に関する社会実験の実施について(案)」より
「クラウドサイン」は紙と印鑑を使わずに、安全かつスピーディに契約を締結できるクラウドの電子契約サービス。使い方も簡単で、専用のソフトをインストールする必要もない。
契約業務の迅速化や、郵送費の削減、請負契約時に発生していた印紙が不要など、メリットも多い。
電子契約を検討するのであれば、弁護士ドットコムの「クラウドサイン」を検討してはどうだろうか。
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