「アドテク」という言葉をご存知だろうか。
「アドテクノロジー」の略称で、インターネットの広告技術を指す言葉だ。広告の配信効果の最大化を目指して日々進化しているテクノロジーだ。
現在、Web広告は各企業の広告予算の多くを占めている。不動産業界でも、紙のチラシよりもポータルサイトへの広告費率が高まり、運用型広告などにも挑戦している企業も増え、アドテクの向上により、様々な広告が可能だ。
アミューズエンターテインメント(東京都・千代田区)は、スマートフォン向けアプリを開発し、2012年の設立以後、成長し続けるベンチャー企業だ。その大きな利益は無料アプリによるアプリ内広告によるものだ。
今、アプリ内広告にあらゆる業界が注目している。
Web広告以上の効果が見込めるというのだ。いったいどういうことだろうか。
そもそもスマホアプリってどうやって儲けている?
アミューズエンターテインメント、ちょっとした空き時間についつい遊んでしまうパズルなどを中心に、ゲームアプリを開発している。
読者の中にも、スマートフォン向けアプリゲームで遊んでいる人がいるだろう。
では、そもそもスマホゲームはどうやって利益を生み出しているのだろうか。スマホゲームはいくつかの収入モデルがある。
・有料販売モデル
ダウンロード時に料金が発生するタイプ
・アプリ内課金モデル
ゲーム内のアイテムや通貨の購入などに課金するタイプ
・広告収入モデル
ゲーム内に広告バナーや動画を表示し、広告収入によって利益を得るタイプ
アミューズエンターテインメントでは、広告収入モデルのアプリゲームを開発している。アプリをダウンロードしたユーザーには一切の費用はかからず、完全無料で遊べるゲームのみだ。
アプリ内広告がなぜ注目されているのか。アプリ内広告の実態について、同社・斉藤隼人社長に話を聞いてみた。
大注目のスマホアプリ内広告。狙うのは「微妙なつまらなさ」!?
アミューズエンターテインメント・斉藤隼人社長
1989年生。2011年にアミューズエンターテインメントを設立。
―事業について教えてください。
当社はゲームを開発している会社です。ゲームと言っても大手が作るようなソーシャルゲームではなく、パズルゲームやちょっとした時間に遊べるゲームを中心に開発しています。我々は「カジュアルゲーム」と呼んでいます。
―ちょっとした時間で簡単に、「楽しい」ゲームを作っているのですね?
「楽しい」というとちょっと弊害があります。
我々がリリースしているアプリは無料で提供しており、広告モデルで収益化しています。あまりにも楽しすぎるゲームだと、広告に遷移(広告をクリックしてページに飛ぶこと)させることができなくなります。つまり、「微妙につまらない」ぐらいがちょうど良いんです(笑)。
絶妙なバランスなのですが、「ゲームに飽きた頃に広告が表示されて、広告先に飛ぶ」ことを目指しています。
―これまでどれぐらいのゲームアプリを制作してきたのでしょうか。
これまで300本以上制作しています。
総ダウンロード数は、iOS・Androidあわせて「700~800万くらい」です。
―具体的にどういった広告によって収益が上がるのでしょうか。
スマホアプリの広告には、いくつかの種類があります。
まず「バナー広告」です。Webなどでもよく見るかと思います。
次に「インタースティシャル広告」です。
ゲームをしていて次の画面へ遷移する前に、全画面に近いサイズで表示される広告のことです。「×ボタン」や一定時間動画を見なければ消えない広告ですね。
これらの広告のほとんどは、クリック課金モデルです。
広告内容が、新しいアプリや新商品の紹介であれば、クリックされて広告効果が高いでしょう。しかし、一定期間を過ぎれば、同じような広告ばかりで、当然クリック率も低下していきますよね。
クリック率が低ければ、ダウンロードユーザーが増えたとしても売上が落ちてきます。
そこで我々が目をつけたのが動画広告です。
アプリ内広告はWeb広告以上にターゲットを絞り込める!
―スマホアプリ内に動画広告を流すのですか?
Web広告の指標に「eCPM」というものがあります。これは広告が1,000回表示されたときの収益性がいくらかというものです。
バナー広告だと、eCPMベースで300円、これが動画だと1,000円以上にもなります。単純に売上3倍ですよね。
―なぜ動画広告の方が、eCPMが高いのでしょうか。
動画の方がユーザに与える情報量が多く、表現できることが多いからでしょうか。我々のアプリでは15~30秒の動画を流しています。その動画を視聴することによって、コンティニューやゲーム内通貨などを付与する形式にしています。
また、現在は大手通販サイトと提携して、動画を視聴することでポイントを付与する形式の動画広告も配信しています。
―アプリ内広告で、効率良く動画配信が可能なのはなぜですか。
スマホのアプリ内広告は、「RTB(リアルタイムビッティング)」という仕組みによって配信されることが多いです。「RTB」は通常のWeb広告にも利用されていますよね。運用型広告として、入札形式で広告枠を買ったりしている仕組みです。
しかし、スマホには通常のWeb広告にはない膨大な情報があります。
―Web広告にない膨大な情報?
スマホとそのユーザーに関する情報です。
スマホアプリをダウンロードするときに、いろんな項目のアクセス許可を求められることはありませんか?カレンダーやカメラ、連絡先、位置情報、電話などです。
―確かにそういった表示が出ることがありますね。
これらのデータを活用して広告配信しているのです。
実は、iOSやAndroidにはスマホそれぞれに対して広告識別IDが与えられています。iOSは「IDFA」、Androidは「AAID」といいます。基本的にスマホは1台につき1人が所有していますよね。だから、個人単位でのデータを取得することができます。
そういった、年齢や性別、どういったことに関心があるのかなど、あらゆるデータを集積して分析し、効果的な広告を配信することができるのです。
広告主からすれば、広告にあったユーザーに配信できます。また、その広告が情報量の多い動画であれば、当然クリック率も良くなりますよね。
Web広告では絞りきれなかったユーザーに動画を配信することができます。Webのターゲティング広告よりも高い精度です。
―それほどまでにターゲットを絞ることができるのであれば不動産業界でも活用できそうですね。
十分に活用できると思います。
例えば不動産の取引は、エリアや年収、趣味など、様々な条件が複雑に絡み合って成立していますよね。
そういった条件を細かく、狙って配信する広告手法はあまりありません。
アプリ内広告なら、十分に効果的な広告を配信することができるのではないでしょうか。
アプリ内広告は、Web広告以上の膨大なデータを活用して広告を配信することができる。これまでの広告手法に手詰まりを感じているのであれば、一度アプリ内広告を検討してはどうだろうか。
次回は、アミューズエンターテインメント・斉藤社長が起業した経緯について紹介する。