業界大手である野村不動産で男性社員が過労によって自殺していたことが朝日新聞によって報じられた。自殺した男性社員は留守宅管理の担当で、月間180時間もの長時間労働があったとされる。不動産業界の過酷な勤務実態が垣間見える。(リビンマガジン編集部)
(画像=リビンマガジン Biz編集部)
■賃貸管理業の過労自殺 裁量労働制とは
不動産会社の男性社員自殺は大きな波紋を呼んでいる。
裁量労働制を違法に適用しているからだ。
裁量労働制は、実際にどれだけ働いたかに関係なく、定めた時間だけ働いたとして、賃金を支払う仕組みのことだ。裁量労働制が適用された社員は出社時間や退社時間を自分で決められるようになる。原則として会社側は労働時間を指示できない。
タイムカードなどがなく、労働時間把握が難しくなるため、みなし時間制が取り入れられることになる。例えば、みなし時間を1日8時間とした場合は、一日4時間働いた場合も、10時間働いた場合もどちらも8時間働いたとみなすのだ。
比較的、自由な働き方ができる反面、残業時間などが特定しづらくなる。そのため、専門的な業務をするなど一部の職種にのみ許されている制度だ。
厚生労働省労働基準局監督課によると
“業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として厚生労働省令及び厚生労働大臣告示によって定められた業務の中から、対象となる業務を労使で定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度です。(厚生労働省ホームページより)”
厚生労働省令及び厚生労働大臣告示によって定められた業務とは、以下の19業務だ。
①研究開発者。または人文科学もしくは自然科学に関する研究の業務
②情報処理システムエンジニア
③新聞、出版、テレビの取材記者、編集者
④衣服、室内装飾、工業製品、広告等のデザイナー
⑤放送番組、映画のプロデューサー、ディレクター
⑥コピーライター
⑦情報システムコンサルタント
⑧インテリアコーディネーター
⑨ゲーム制作者
⑩証券アナリスト
⑪金融工学を用いる金融商品の開発者
⑫学校教育法に規定する大学教授(研究に従事する)
⑬公認会計士
⑭弁護士
⑮建築士
⑯不動産鑑定士
⑰弁理士
⑱税理士
⑲中小診断士
これは裁量労働制を認められている。
一方、男性社員の業務については、
“関係者によると、男性は転勤者の留守宅を一定期間賃貸するリロケーションの業務を担当する社員だった。東京本社に勤務し、入居者の募集や契約・解約、個人客や仲介業者への対応などにあたり(後略)(朝日新聞 2017年3月4日付け)”
とあり、留守宅の賃貸管理を担当していたとみられる。
労働基準局によると、男性社員の業務は裁量労働制の専門業務ではなかったことや、全社的に行われていたことに違法性があるという。賃貸管理業務には裁量労働制を適用してはいけないのだ。
男性社員は15年11月後半から1カ月間で180時間以上の残業があったという。
一般に、残業80~100時間が過労死ラインとされており、政府が成立を目指す働き方改革法案ででも残業時間を100時間未満とする内容を盛り込んでいる。
そうした基準から大幅に超過した過重労働があったことがわかる。
■裁量労働制如何ではない 賃貸管理の煩雑すぎる業務の実態
亡くなった男性社員に限らず賃貸管理は過重労働が起きやすい業務だ。
入居者、オーナー、そのほかの関連会社との調整が必要で、それぞれの業務が重なることも多い。主な業務は下記になる。
入居にかかわる業務
①入居者募集
②入居審査
③入居に関する手続き、賃貸借契約業務、入居一時金受け取り
入居中の業務
④家賃の回収、督促
⑤入居中のトラブル対応(主にかぎ紛失、水道漏洩、ガラス割れなどの居住に関すること)
退去の業務
⑥退去の受付
⑦退去時の立会い
⑧原状回復工事の発注
そして、すべてにオーナーへの報告が必要になる。
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なかでも入居者同士のトラブルや設備のクレームには随時対応しなければならない。担当している部屋の入居者から水漏れやガラス割れといった相談があると、昼夜休日関係なく呼び出される。業務は多岐にわたり煩雑だ。
賃貸管理業の従事者にとって、自殺した男性社員は決して他人事では済まされない。
■不動産業界には労働組合が少ない
不動産業界は、他の業界と比べて労働組合が少ないことも過重・長時間労働を引き起こす要因ではないだろうか。
総務省統計局の「産業別労働組合数と組合員数(平成27年)」によると、平成27年の不動産業における労働組合数は177(単一労働組合)、組合員数は27,000人、推定組織率(※)は2.9%と、全20産業の中で2番目に低い数字だった。
※注1:推定組織率:単一労働組合員の労働者数が、雇用者総数の何割に当たるかを推定したもの。
これは、同年全業界の推定組織率が17.4%だったことを考えるとかなり低い数字だ。
おりしも国会では働き方改革法案が議論された最中で発覚したが、不動産業界に突き付けている課題は普遍的なものだ。
業界をあげて働き方を見つめなおすべきだろう。