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日経新聞を読んでいなくても、または仮想通貨やビットコインの取引をしていなくても、ビットコインの価格が2024年12月に史上最高値を記録し、その後に急落したことは知っていると思います。そしてそんなニュースの裏側で、日本の暗号資産(仮想通貨)交換業者のDMMビットコインが廃業をひっそりと発表していたことも、ニュースで目にしたかもしれません。ビットコイン周りが大きく盛り上がる中でなぜ、廃業を決断することになったのか。今回はDMMビットコインの件について解説します。

画像=写真AC

ビットコインなどの暗号資産を取引するには、取引所や交換所を運営している会社に口座を作る必要があります。それらの取引を行う窓口の会社は暗号資産交換業といって、金融庁への登録が必要です。2024年11月末現在の暗号資産登録業者の数は29あります。そしてそのうちの一社が12月に廃業を発表したDMMビットコインです。DMMビットコインの設立は2016年、2024年3月期の事業報告によると、顧客の口座数は約45万、顧客の預かり資産は962億円まで拡大してきました。

さて、廃業へと追い込まれた発端は、ビットコインの不正流出事件でした。2024年5月31日、DMMビットコインから4502.9BTC(約482億円相当)のビットコインが不正流出しました。DMMビットコインはすぐに顧客の損失補填(ほてん)に動き、6月にグループ会社から借入や増資の形で資金支援を受けて550億円を調達。流出したビットコインを全額補償しました。

早期の顧客対応に動いたこともあり、この不正流出問題は社会的にそれほど大きな話題になることはありませんでしたが、結局、事業の立て直しは難しいと判断したようです。12月2日、DMMビットコインは顧客の口座と預かり資産を2025年3月目処にSBI VCトレードに移管すること、そして廃業することを発表しました。同社は5月末の不正流出以降、顧客の暗号資産の出庫処理や買い注文の受付など一部のサービスを制限してきました。DMMビットコインは「このような状況が長引くことは、お客さまの利便性を大きく損なうと判断」として廃業を決めたと説明しています。

暗号資産の中でも、とりわけビットコインは、時に暴落しながらも、長い目で見ると右肩上がりの値上がりが続いてきました。ビットコインの価格に連動するETF(上場投資信託)も登場して、仮想通貨を持たずにビットコインに投資できるようになったことで、投資マネーがさらに集まり、価格を一段と押し上げています。値上がりが続くビットコインは投資家にとって魅力的な存在でしょう。しかし、ビットコインを取引する時に欠かせない取引所や交換業者では、これまでに何度も資産が流出するトラブルが発生しています。規模の小企業だけでなく、業界大手と言われる企業も流出事件を起こしています。2014年にはマウントゴックスがサイバー攻撃を受け、約470億円相当のビットコインが流出、12万7000人の顧客が被害にあい、マウントゴックスは破産に追い込まれました。2018年にはコインチェックから約580億円分のNEM(ネム)という暗号資産が流出しています。

こうした事件を教訓に、2017年に交換業が登録制になり、インターネットに接続しない「コールドウォレット」による管理などが行われるようになるなど、監視体制も、管理体制も強化されていきました。しかし、それでも流出事件が起きてしまうんですね。

DMMビットコインから488億円ものビットコインが、誰によって、どこに流出したのか。その原因はまだわかっていません。12月、アメリカの暗号資産の分析会社「チェイナリシス」は、北朝鮮がサイバー攻撃によって盗んだ疑いがあるとのレポートを発表。NHKの報道によると、チェイナリシスの担当者は「(DMMビットコインの不正流出は)北朝鮮がこれまでに行ってきた戦術と一致していた」と指摘しています。

暗号資産交換業者を管轄する金融庁は9月、DMMビットコインに対して資金決済法に基づく業務改善命令を出し、原因究明や管理体制の強化を指示していました。不正流出が相次いできた業界なだけに、専門家などの解説では、万全なセキュリティの体制を構築できる業者だけが生き残るべきという意見が散見されます。暗号資産交換業は再編の只中にあり、今後は資本力のある大手に集約が進む可能性が高いとみられています。

 
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