連日、日経新聞を賑わせている“キオクシア”について、わかりやすく解説します
最低限に知っておいて欲しいニュースを、経済誌の現役記者・編集者がこれ以上ないくらいにわかりやすく解説します。
日経新聞を読まない君でも「キオクシア」という会社の名前は耳にしたことがあるんじゃないでしょうか。2024年12月18日に東証プライム市場に上場が決まり、大型上場として話題になっています。このキオクシアという会社、なぜこんなに話題になるのでしょうか。今回はキオクシアについて、最低限押さえておきたいポイントを見ていきます。
ポイントの1つ目は、キオクシアは何の会社かということです。キオクシアはもともと東芝の半導体メモリ事業部門で、今は世界的な半導体メーカーの1社になっています。2015年に不正会計問題が発覚し、経営危機に陥った東芝は、虎の子の事業を切り売りして延命に奔走します。その1つが半導体メモリ事業でした。2017年に東芝メモリとして分社化し、2018年には米投資会社のベイン・キャピタルなどが出資する会社に2兆円超で売却。東芝メモリは2019年にキオクシアへと社名変更しました。現在、キオクシアの筆頭株主は56%を握るベイン・キャピタルで、東芝も4割くらいの株式を持っています。
2つ目のポイントは、なぜキオクシアは上場を目指すのかです。一言で言えば、設備投資のためのお金が必要だからです。キオクシアはNAND(ナンド)型フラッシュメモリというスマホやPCのデータの保存に使う半導体の一種の世界的大手です。東芝は1987年に世界で初めてNAND型フラッシュメモリを開発、1990年代には三重県四日市に工場を建設し、フラッシュメモリを量産してきました。現在もトップ企業の一社ですが、韓国のサムスン電子なども追い上げてきており、世界の競合と伍(ご)していくためには大規模な設備投資が必須。そのお金を調達するための上場でした。
上場の目論見書にも、調達した資金の使い道は、四日市工場や北上工場での次世代フラッシュメモリの生産設備拡充だと書かれています。半導体事業は設備投資がキモと言われている産業なので、できる限り早期に設備を拡充して競争力を強化したいという思いがキオクシアにはあるようです。
データ保存に使う半導体にはDRAM(ディーラム)という種類もあって、こちらはデータセンターのサーバーなどに使われています。AIのブームを背景に、データセンターで使うGPU(画像処理半導体)向けのDRAMの需要が拡大中ですが、DRAMの生産設備を持っていないキオクシアはこの波に乗れません。新たな投資によって、DRAMなど次の事業の柱を作っていけるかどうかは経営課題のひとつになっています。
3つ目のポイントは上場の時期です。キオクシアは売却された当初から上場を検討してきた経緯があり、2020年には東証に上場を承認されましたが、コロナ禍や米中対立、半導体市況の悪化などにより延期になっています。2024年10月にも上場の話がありましたが、それも実現しませんでした。ようやく2024年12月の上場が決まった格好です。
ただ、資金調達の額という意味ではベストなタイミングではないでしょう。以前は上場によってキオクシアの時価総額は1.5兆円規模になるとみられていましたが、今上場した場合の想定時価総額は7,500億円。日経新聞は「半額上場」と表現しています。半導体銘柄の株価が高い時とそうでない時とでは、金額にかなりブレがあるんです。このタイミングでの上場は、2025年にはAI(人工知能)の需要拡大を受けて半導体市況が上向くと判断したためと報じられていますが、もはや待っていることはできないという事情もありそうです。
半導体は現在の世界経済の中で最も重要な産業のひとつ。その中で、世界で戦える貴重な日本企業の1社がキオクシアです。その意味では注目が集まるのは当然と言えるでしょう。加えて、キオクシアには東芝という戦後の日本を代表する大企業が解体されていくというストーリーに一抹の寂しさを覚えるところが人々を惹きつけるのかもしれません。