6年ぶりの大型上場。東京メトロ上場の目的や背景とは
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日経新聞を読んでいない君たちも、東京地下鉄(東京メトロ)が株式を上場したことは知っていますよね。上場で東京メトロはどう変わるのか。株式投資をしていない人にもわかりやすく、今話題の東京メトロのIPO(新規株式公開)について解説します。
東京メトロは2024年10月23日に、東京証券取引所のプライム市場に上場しました。上場前の株式の売り出し価格は1,200円だったのに対して、個人投資家も注目する銘柄とあって公開初日の初値は1,630円、終値は1,739円でした。時価総額は約1兆円で、2018年に上場したソフトバンク以来の大型上場になりました。
東京メトロの前進は1941年設立の営団地下鉄で、国や東京都が運営してきました。その後民営化され、2004年に株式会社となり、現在の東京地下鉄株式会社(東京メトロ)になっています。そうした経緯のある会社なので、株主は国と都です。国が53.4%、都が46.6%を保有していました。実は民営化が決まった時点で国と都は速やかに株式を売却する方針だったのですが、都営地下鉄との統合案をめぐって議論が難航し、上場が先延ばしにされてきた経緯があります。それが今回、上場することになった大きな理由が、国や東京都が計画していた有楽町線と南北線の延伸計画でした。メトロが延伸計画を引き受ける形で話がまとまり、上場へと至っています。
これから東京メトロはどう変わるでしょうか。一つは有楽町線と南北線の延伸です。
有楽町線は、豊洲駅から東陽町駅を経由し、住吉駅に至る区間を整備して、4.9km延伸します。豊洲~東陽町と東陽町~住吉間に2つ新駅を設置する計画もあります。一方の南北線は、白金高輪駅から分岐して品川駅につなげて2.5km伸ばします。二つの沿線の延伸にかかる総事業費はあわせて4,000億円に上ります。工事が終わるのは2030年代半ばの見通し。延伸が実現すると、空港へのアクセスが大幅に向上すると期待されています。国と都はメトロ株の上場時に半分を売却していますが、この延伸事業への関与を続けることから、残りの株式は当面の間保有することになるようです。
もう一つが、不動産業など鉄道以外の事業の拡大です。
東京メトロの山村明義社長は上場後の記者会見で、「上場をきっかけに、不動産や流通といった事業も強化していく」と話していました。その背景をちょっと見てみましょう。東京メトロは人口密度の高い都内を走る地下鉄を運営する会社なので、JRなどと比べると路線の距離は短いですが、輸送密度が高い、つまり利益をあげやすいという特徴があります。一方で、他の鉄道会社が不動産や商業施設の運営など多角化を進めているのに対し、東京メトロは売り上げの9割を運輸事業が占める構造です。コロナ禍ではこの構造の弱さが露呈する形になり、2021年3月期は営業収益が前期比1,374億円減の2,957億円、経常損益は前期から1,226億円減の476億円の赤字に転落しました。こうした鉄道一本足打法からの脱却は東京メトロにとっての課題であり、多角化を目指して強化していく事業が不動産や流通というわけです。すでにホテル事業を始めたり、食品販売の会社を買収したりしています。
東京メトロについて気になるもう一つのポイントは東京メトロ株への投資でしょうか。6年ぶりの大型上場ということで個人投資家も東京メトロ株に興味を持っている人が多いと思います。
ただ、二つの延伸計画や多角化の方針を打ち出しているとはいえ、今後急速に業績が拡大していくとみている専門家は少ないようです。むしろ堅実な稼ぎをして、配当を出していく利回り株という位置付けになるのではないかという見方が一般的でしょう。東京メトロは配当性向40%以上を目標に掲げており、配当を積極的に出していく会社といえます。ただし、公表されている予想配当40円を初値の1,630円で割った配当りまわりは2.4%程度。私鉄各社の配当利回りと比べると高めですが、日本電信電話(NTT、配当利回り3.5%)、日本郵政(3.6%)など個人投資家に人気の利回り株と比べるとやや劣ります。利回り狙いの銘柄という位置付けを脱しない限り、株価は上がりにくいかもしれません。