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日経新聞を読んでいなくても、巷で話題の「大麻グミ」のことは知っていますよね。このグミを食べて体調を崩したことが続出して、国が規制に乗り出しています。一方で、大麻を使った医療用大麻の解禁について法改正の議論が大詰めを迎えているんです。いろいろと話題の大麻について、問題を整理してみましょう。
危険な薬物であり、医療で使われる薬にもなり、日々の生活を癒すサプリメントにもなる。海外では娯楽の手段でもある。大麻にはいろいろな側面があって、それゆえに議論が複雑になっています。その辺りを紐解いていきます。
まず、一口に「大麻」といっても、その成分はかなり多岐にわたります。大麻草の成分の「カンナビノイド」は104種類あり、その中で主な成分とされているのが、「THC(テトラヒドロカンナビノール)」と「CBD(カンナビジオール)」です。
THCは陶酔感をもたらす一方で、幻覚作用や吐き気などを引き起こすとされています。そして依存性があると指摘されています。こうしたことから、日本ではTHCは大麻取締法や麻薬取締法の規制の対象とされています。
話題の「大麻グミ」に含まれているとして問題になっているのは、「HHCH(ヘキサヒドロカンナビヘキソール)」という成分で、THCに似せて作られた人工的な化合物です。化学構造がTHCによく似ていて、意識障害や幻覚などの症状を引き起こすといわれています。厚生労働省は、HHCHを医薬品医療機器法の「指定薬物」に指定し、12月2日から所持、使用、販売を禁止します。若者を中心に大麻の問題が広がっていることが問題になっていたこともあり、かなり早めに規制に打って出た形です。
THCに似せて作られた人工的な成分の問題は過去にもあって、「THCH(テトラヒドロカンナビヘキソール)」という成分を含んだグミを食べて体調が悪くなった人が報告されています。THCHは今年8月に医薬品医療機器法で「指定薬物」に指定されています。
つまり、幻覚などの精神作用をもたらすTHCに似た物質は、規制を逃れるように新しい化合物が次々に作られ、発見されたら取り締まりの対象になる、という具合にいたちごっこになっているんです。
一方、もうひとつの大麻の主成分である「CBD」は、海外でてんかんの治療などに使われている「医療用大麻」の主成分です。WHO(世界保健機関)は、CBDは依存性や乱用性の報告はないとしていて、一般的に毒性が低いものと考えられています。日本でも、CBDが含有されたオイルや食品などが販売されていて、CBDを体験できるカフェもあります。リラックス効果があるということで、サプリメントとして日常的に使用している人も多い成分です(ただし、CBDを使った製品の中に、違法な物質のTHCが含まれていることもあるなど、問題が指摘されていて、こちらも使用にあたっては十分な注意が必要です)。
そして、日本では大麻から作られた医薬品の使用は認められていませんが、医療用大麻を解禁する大麻取締法などの改正案がいま、国会で議論されています。
大麻はもともと、1961年に制定された「麻薬単一条約」で、依存性が強い薬物の中でも「特に危険」に分類されていました。しかし、医療用大麻の広がりを受けて、国連の麻薬委員会は2020年に大麻をこの分類から外しています。
国連の決定は、医療用大麻がかなり広く使われるようになってきたために、適切に使用することが目的でした。しかし世界的には、医療用大麻を認めるとともに、使用を認める範囲を娯楽目的の大麻まで広げる動きが広がっています。
近年、アメリカやカナダ、タイ、ドイツなどが大麻の使用を「解禁」してきました。危険なドラッグを違法にしてしまうと、製造や流通が社会から見えないところに隠れ、闇社会での取引が拡大することになる。それならば、大麻については合法化してしまって、流通や使用を把握しやすくしようという考え方の政策です。こうした大胆な政策の背景には、そもそも社会に大麻が広がり過ぎているという実情がありました。合法化によって大麻の使用を追認して、その代わりに他の違法薬物については厳しく取り締まるスタンスです。
ただ、大麻を解禁すればそれで終わりかというと、実際のところは難しい問題もあります。たとえば、タイは医療目的や個人での使用について大麻を合法化しましたが、中毒者が増えて問題になっています。
このように、世界では医療用から娯楽用へと大麻の解禁が広がる流れがある中で、日本もついに医療用が解禁となります。この中で、大麻の使用の範囲内を適切にコントロールできるのか。次から次へと出てくる違法な化合物を確実に規制できるのか。日本の社会は大麻とどう向き合っていくのでしょうか。