世界を揺るがす中国恒大集団の問題とは

画像=Pixabay

こんにちは。日経新聞を読んでいなくても、中国の不動産大手、中国恒大集団(China Evergrande Group)の経営危機が世界的な話題になっていることはさすがに知っていますよね。2008年のリーマンショックの再来かと金融市場は警戒を強めています。再び金融危機が起きれば、不動産市場への影響は計り知れないわけですが、とりあえずは、そもそも恒大集団の問題って何なのかをおさらいしてみたいと思います。

恒大集団は中国の大手不動産デベロッパーで、2020年12月期の売上高は7.8兆円、純利益は約1,300億円に上ります。設立は1996年。広東省広州市で許家印会長が立ち上げました。マンション開発で事業を拡大し、中国の不動産ブームによって急成長しました。2009年には香港証券取引所に上場し、7億2200万ドルを調達しています。

2017年10月ごろは、5.8兆円の時価総額がありました。三井不動産と三菱地所の時価総額がそれぞれ2.5兆円くらい、住友不動産が1.9兆円なので、恒大集団がどれだけ株式市場で評価されてきたかがわかります。

恒大集団は不動産事業にとどまらず、EV(電気自動車)の会社を買収したり、サッカークラブのチームを運営したり、ヘルスケア、動画制作など、M&Aで会社を買いまくって短期間で事業を急拡大しました。中国の資産運用商品「理財商品」の事業も展開していたことは、オフィスに詰め掛ける投資家の映像などを通じて皆さんも知っていると思います。

恒大集団は、社債などで市場からお金を集めて、新事業に投資をする手法で多角化をしてきたわけです。レバレッジを効かせた経営は、短期間での成長を可能にしますが、その影では負債が膨らみ続けてきました。2021年6月末の有利子負債は約10兆円規模まで拡大していたといいます。

しかし、株式市場が好調で、金融緩和を背景にした低金利でお金も借りやすく、売上げや利益が拡大しているときには、放漫経営のヤバさはかき消されるものです。成長は痛みや傷を隠す。問題は、そうした市場環境が変化をしたときに、対応ができなかったことでした。

転機になったのは2020年8月。中国政府は不動産への過剰投資や住宅価格の高騰を抑えるために規制を強化しました。新型コロナの救済策のために行った金融緩和で市場にあふれたお金が不動産市場に向かい、バブル的な様相を呈していたのを国は危険だと判断したんですね。この時の規制では、3つの超えてはならないラインが引かれました。

①負債の資産比率が70以上

②純負債の対資本比率が100%以上

③手許資金の短期負債比率が100%以下

この3つのラインを超えた企業は、高リスク企業に分類され、有利子負債を増やすことができなくなりました。このレッドラインを超えていた恒大集団はこの時点で、負債でお金を調達することができない状態に追い込まれました。

この規制を出した時点で、中国政府はすでに恒大集団のヤバさに目をつけていました。規制の発表とほぼ同時期に、中国人民銀行(中国の中央銀行)などが、恒大集団に対して、経営の安定維持や債務リスクの削減などをしなさいよと指導をしているんです。金融機関ではない恒大集団に対して、金融当局がわざわざ指導するのは、それだけ恒大集団の債務リスクが巨大で深刻だと国も捉えていたということになります。

いまや、世界の注目は恒大集団が綱渡りの資金繰りを乗り越えられるのか、中国政府は恒大集団に助けの手を差し伸べるのか、または金融市場の安定のためにどんな政策を取るのかということです。恒大集団は9月23日に利払いが予定されていた米ドル建て社債8353万ドル(約92億円)の利払いを延期したとの報道もあります。他にも利払いの期限が迫っている社債があり、この状態が続けばデフォルト(債務不履行)に陥る可能性も十分にあります。

世界の金融市場の関係者は、恒大集団の問題を発端に金融市場に不安が広がり、これが金融危機の引き金を引くことになるかに注目をしています。専門家の見解は「リーマンショックのような金融危機にはならないだろうう」ということでおよそ一致していますが、こればかりはまだわかりません。リーマンショックの時だって、あれが世界中に広がって日本のデベロッパーが次々と倒産することになるなんて、当初はどの専門家も予想していませんでしたよね。※消費増税にも影響する「リーマン・ショック(級)」って何か分かっている?

気をつけたいのは、恒大集団の株式や債券に投資しているのは中国人や欧米の金融機関だけではないということです。私たちの年金を運用している年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)も、恒大集団の株式や債券にお金を投じています。その規模は、今年の3月末時点で株式・社債の合計で約96億円に上ります。GPIFの運用資産全体から見れば微々たるものですが、恒大集団の問題はめぐりめぐって、私たち自身の老後の生活に影響を及ぼすということです。こんな具合に、幅広く影響がどこまで広がるかわからないので、これからの本当の展開はまだ、誰にも読めないわけです。

というわけで、金融市場を通じて世界とつながっている恒大集団の経営危機問題は、どこまで影響が広がるでしょうか。中国政府がどこかで救済に乗り出すと期待する投資家も多いようですが、習近平政権は沈黙を貫いています。

何らかの事情で世の中にお金が溢れる→バブルになる→規制をかけて市場をコントロールしようとする→負債を抱えた企業が経営破綻する、という一連の流れについて、中国は日本のバブル崩壊とその影響について高い関心を抱いて研究をしてきたと言われています。だからこそ、バブルを助長する危険な企業には忠告もするし、安易な救済はしない。中国政府は、放漫経営の国営企業や、金融リスクの高い理財商品などのシャドーバンキングについては厳しく取り締まってきました。

しかし、不安が広がり経済全体がクラッシュしてしまうと、その影響は計り知れません。中国政府は恒大集団の問題にどう決着をつけるでしょうか。

 
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