コネ入社、7万円、総務省が過剰接待される理由
「日経新聞くらい読めよ」社会人なら誰もが一度は言われたセリフです。そりゃ、客先で経済ニュースを語れるとかっこいいですもんね。でも、「だって、みんな読んでないしな…」と、何となく済ませている人も多いのではないでしょうか。それでは、心許ないので最低限に知っておいて欲しい経済ニュースを、経済誌の現役記者・編集者がこれ以上ないくらいにわかりやすく解説します。今回は、あの問題発言おじさんについて考えましょう。 (リビンマガジンBiz編集部)
菅義偉首相の長男が総務省の幹部を接待したとされる問題で大騒ぎになっていることは、日経新聞を読まない君でも知っていますよね。騒ぎは収まるどころか、さまざまな人に拡大して問題の根深さがどんどん明らかになっています。
しかし、登場人物が多過ぎてよくわからなくなってしまっている人も多いのでは。そこで今回は、首相の長男による総務省幹部問題と、電波行政の問題について整理してみたいと思います。
ことの発端は2月3日、週刊文春が菅首相の長男が総務省幹部を違法に接待していたことをすっぱ抜いた記事から始まります。放送関連会社の東北新社(本社・東京都港区)が総務省幹部を複数回にわたって接待したという内容で、すべての会食に東北新社に勤める菅首相の長男、菅正剛氏も同席していたとしてます。
接待を受けていたのは、放送行政の担当者や局長以上の幹部で、総務事務次官就任が確実視されていた谷脇康彦総務審議官なども含まれていました。公務員が許認可先の会社から接待を受けるのは国家公務員倫理法違反です。
今回のスキャンダルでまず、目を引くのはコネ入社でしょうか。バンドマンで無職だった菅正剛氏は、父である義偉氏が総務大臣だった2006年に大臣秘書官に抜てきされました。この頃に総務省の官僚とつながりを持ったようです。その後、東北新社に就職しています。義偉パパは、自分が大臣を務める総務省の許認可先にコネで息子を就職させたわけですね。マスコミ、なかでも放送関係の企業に政治家の子息がコネ入社するのは珍しくありませんが、これはちょっと露骨です。
しかし今回の問題の本質は、コネ入社ではありません。
マスメディアの中でも、テレビやラジオは特殊な存在です。それは、国から電波の割り当てを受けて、放送事業を営んでいるということです。東北新社は放送局ではありませんが、衛星放送事業者として、法律の縛りの中にあります。企業は、認可を取り消されると、放送事業を継続できなくなります。この許認可を担当しているのが総務省です。これは国の許可を必要としない、新聞や雑誌、ネットメディアとは大きく異なる点です。
放送に関連する規制をめぐる議論にはさまざまなものがあります。例えば、安倍前政権では「放送法4条」の撤廃をめぐる議論が話題になりました。放送法4条は、政治的な公平性を保つこと、公序良俗に反しないこと、事実を曲げないで伝えること、などを定めています。この条文の撤廃をちらつかせながらメディアを牽制(けんせい)していたなどと言われていますが、結局、条文撤廃は実現しませんでした。
より大きなテーマとしては、昨年、ノーベル経済学賞を受賞した電波オークションがあるでしょう。電波オークションとは電波周波数の利用を入札で決めるもので、OECD(経済協力開発機構)加盟国の中でこの電波オークションを採用していないのは日本だけ。これまでも議論の遡上に上りましたが、実現していません。日本の電波行政は透明性、公平性がないと言われても仕方がないかもしれません。
政府は、法改正や制度改正の可能性をちらつかせながら放送局や放送事業者にプレッシャーをかける。放送局は自分たちに有利な制度設計をのぞみ、あるいは例外的な扱いを求める。この緊張関係は、みなさんが日々視聴している番組づくりにも影響を与えかねないものです。「知る権利」を歪める可能性だってあります。政治と放送局の間には、そんな緊張関係があるからこそ、総務省の接待は通常の官僚スキャンダルよりも深刻で根深いわけです。
さて、一人7万円を超える高級料亭での度重なる接待で、東北新社は何を総務省官僚に求めていたのでしょうか。
東北新社は衛星放送の「スターチャンネル」や「囲碁・将棋チャンネル」などを運営していて、総務省から業務認定を受けています。今回のスキャンダルの中で総務省が認めているものの一つは、2018年にCS放送に認定した12社16番組のうち、東北新社子会社の番組のみハイビジョン未対応で認定したことです。東北新社が「特別扱い」を受けたことになります。
今回の件を受けて、東北新社は2月26日、二宮清隆社長の退任と、メディア事業部趣味・エンタメコミュニティ統括部長の菅正剛氏が人事部付となることを発表しました。
当然、これで幕引きになるわけがなく、事実関係の究明が続きそうです。
それにしも携帯会社には値下げを迫って支持率を稼ぎながら、息子の勤め先には優遇する……あまりにも国民をナメすぎていませんかね、菅首相。