辞任した東京五輪・パラ 森元会長に関する疑問
「日経新聞くらい読めよ」社会人なら誰もが一度は言われたセリフです。そりゃ、客先で経済ニュースを語れるとかっこいいですもんね。でも、「だって、みんな読んでないしな…」と、何となく済ませている人も多いのではないでしょうか。それでは、心許ないので最低限に知っておいて欲しい経済ニュースを、経済誌の現役記者・編集者がこれ以上ないくらいにわかりやすく解説します。今回は、あの問題発言おじさんについて考えましょう。 (リビンマガジンBiz編集部)
日経新聞を読まない君たちでも、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の会長人事が揉めに揉めていることは知っていますよね? 今回はちょっと趣向を変えて、この問題を考えてみようと思います。
2月12日に森喜朗氏は辞任を表明、後任を要請されていた日本サッカー協会相談役の川淵三郎さんも辞退しました。2月13日時点でまだ、後任の会長は決まっていません。
ことの発端は、2月4日の日本オリンピック委員会(JOC)の臨時評議員会での発言でした。
「女性理事を選ぶというのは、日本は文科省がうるさく言うんでね。だけど、女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります。ラグビー協会、今までの倍、理事会に時間がかかる」
女性にとっては本当にひどい発言で、こんな人が五輪組織委員会のトップにいるなんて本当に恥ずかしいことです。世論はもちろん、国際オリンピック委員会(IOC)やトヨタ自動車などのスポンサーからも非難轟々(ごうごう)、ボランティアや聖火ランナーも自体が相継ぎました。
若い方はご存知ないかもしれませんが、そもそも森喜朗さんは、失言だらけの政治家でした。2000年4月から2001年4月にかけて首相を務めた間にも、無党派層について「そのまま関心がないといって寝てしまってくれれば、それでいい」と発言するなど、数多くの失言で批判を集めてきました。当時、支持率は9%で、歴代内閣で最低の水準です。
「子どもを一人もつくらない女性の面倒を、税金でみなさいというのはおかしい」と発言したり、ソチ五輪ではフィギュアスケートの浅田真央選手について、「あの子、大事なときには必ず転ぶ」と言ってみたり。森氏による上から目線の、保守的で他者への配慮に欠けた発言は枚挙にいとまがありません。
ではなぜ、歴代最低支持率の森氏が、五輪組織委員会のトップにいるのか。一言で言うと、スポーツに強いからです。早稲田大学ラグビー部に在籍した経験のある森氏は、議院時代からスポーツ周りの活動に尽力し、日本ラグビーフットボール協会会長を務め、2019年のラグビーワールドカップ大会の誘致にも成功しました。国内外でスポーツに関して顔が広く、さまざまな面で交渉・調整ができる。こうした実績を買われて東京五輪の組織委員会のトップに就いたようです。
この森氏の人脈と交渉力が、五輪を開催する上で非常に重要ということで、自民党内からは森氏の続投支持の声が挙がっていました。世耕弘成参院幹事長は「余人を持って変えがたい」「新しい会長の下で準備を進めるのは極めて困難」として森氏を支持、萩生田光一文科相は「国際社会とのやりとりは、ああいった経歴の人でなければ難しかった」と森氏が果たしてきた役割を強調しています。オリンピックという大舞台を実現するためには、国際的な人脈を持ち、国内外で調整ができる実績豊富な人物が組織のトップに立つ必要があるという主張です。
しかしやはり、国際的なイベントだからこそ、環境への配慮やダイバーシティの実現に目配せをすることは欠かせませんし、それをアピールする場にもするべきでしょう。日本ならではの「男社会」を如実に反映した組織と人事が、今回の失言騒動の根底にあるように見えます。
五輪の組織委員会は、JOCと東京都によって設立された団体です。その大もとのJOCからして、そもそも男性優位の構成です。理事25人中、女性は5人。ダイバーシティや男女平等が重視される現代にあって、このバランスにはもともと問題がありそうです。組織委員会は今回の事態を受けて、女性の役員を増やしたり、副会長以上に登用することを検討していくそうです。
コロナ禍の中、開催自体が危ぶまれている東京五輪。会長人事などで揉めている場合ではないはずです。この問題を自民党と組織委員会はどう収束させるでしょうか。