アメリカ大統領選と経済への影響について

「日経新聞くらい読めよ」社会人なら誰もが一度は言われたセリフです。そりゃ、客先で経済ニュースを語れるとかっこいいですもんね。でも、「だって、みんな読んでないしな…」と、何となく済ませている人も多いのではないでしょうか。それでは、心許ないので最低限に知っておいて欲しい経済ニュースを、経済誌の現役記者・編集者がこれ以上ないくらいにわかりやすく解説します。今回は、アメリカ大統領選挙について、解説します。 (リビンマガジンBiz編集部)

画像=PIXABAY

こんにちは。日経新聞を読んでいない君でも、アメリカ大統領選でいまだに混乱が続いているのは知っていますよね。民主党のジョー・バイデン候補は勝利宣言を出しましたが、共和党のトランプ大統領陣営は不正投票があったとして法廷闘争を続ける構えで、11月15日時点でいまだバイデン候補の勝利は確定していません。

といってもまあ、日本を含む各国首脳がバイデンに祝辞を送っていますし、2021年1月からバイデン政権が始まるという前提で、これからアメリカがどう変わるのかをざっとおさらいしていきましょう。

バイデン政権を理解するポイント①は、「投資家からはあまり歓迎されていない」ということでしょうか。選挙戦の期間中は、トランプ氏が得票でリードしていると予想する投資家が株式を買っていたと言う話もあります。つまり、「トランプ勝利なら買い・バイデン勝利なら売り」という空気がありました。蓋を開けてみると逆の現象が起きているのですが、その理由は後で述べます。まずはなぜ、投資家はバイデンの政策を恐れているのかを見てみましょう。

バイデン陣営の大枠の目標は、米国内の格差是正です。そのために、最低賃金の引き上げ、大規模なインフラ投資、オバマケアの拡充、製造業の国内回帰などの政策を掲げて選挙を戦いました。これらの政策のための財源をどう確保するのかと言うと、増税です。大企業や富裕層への課税を強化するとしています。

トランプ政権は減税で企業を優遇してきましたから、大きな方針転換です。企業にとって増税はネガティブな要素なので、市場は非常に警戒していたわけですが、ここにきて、急速に増税が進む可能性は低くなってきました。米国議会の多数派が「上院は共和党、下院は民主党」という、いわゆる「ねじれ」の状態になると見られているからです。「ねじれ」の状態では、バイデン政権は共和党が多数を占める上院でとんがった政策を通過させることができず、結果として増税なども公約ほどの内容にはならないのではないかとみられているわけです。そこにワクチン開発への期待が重なって、連日の株高につながりました。

ポイント②は、環境問題です。大規模なインフラ投資の目玉は、クリーンエネルギー関連の投資(4年で2兆ドル)なんです。温室効果ガスの排出を2050年までに実質ゼロにすることを目指し、再生可能エネルギーにも投資します。離脱を通告している地球温暖化の国際的な枠組み「パリ協定」にも復帰するとしています。トランプ大統領は石油生産を行う地域を票田に持っていたこともあり、化石燃料(石炭とか原油とか)に関する規制を緩和してきましたが、バイデンでもう一度、アメリカは環境対応を重視する方向に舵を切ります。

ポイント③は、国際社会における米国主導の復活、同盟の再構築への転換です。トランプ政権の外交は、「自国第一主義」とか「孤立主義」と呼ばれる政策で、国際的な協調や、リーダーシップを取ることよりも、とにかくアメリカの利益を最重要視する政策を進めてきました。パリ協定の離脱はその典型的な例です。バイデンはこれを元に戻そうとしているようです。米中の対立もおそらくは緩和するでしょう。しかし、バイデン政権も海外への投資よりも国内への投資を重視して製造業を復活させると言っていますし、引き続き内向きな側面は残ると見られています。


さてところで、バイデンってどんな人なのでしょうか。オバマ政権の副大統領として覚えている人は多いかもしれませんが、「白人の高齢男性」程度の印象しか持っていない人も多いのでは。

1942年生まれの現在77歳で、11月20日に誕生日を迎えます。来年1月の就任時点では78歳。アメリカで最高齢の大統領になるんです。

バイデンは、一生のほとんどを議員として送ってきた人で、アメリカの典型的な政治エリートと言われています。政治人生の仕上げ(たぶん)に、大統領に就任すると言うわけですね。

ペンシルベニア州生まれのバイデンは、デラウェア大学を卒業後、弁護士になり、1970年に28歳で郡議会の議員になります。2年後には連邦上院議員選挙に出馬、29歳の若さで上院議員になりました。議員時代にはセクハラ問題なども経験しつつ、民主党内で影響力をつけていきます。1988年と2008年に大統領選に出馬しますが、敗退。3度目の正直でようやく、大統領の座を掴みました。

バイデン陣営の顔ぶれでいえば、バイデン本人よりも、副大統領になるカマラ・ハリス上院議員(56歳)の方が注目を集めているでしょう。女性として、黒人として初のアメリカ副大統領が誕生することになります。そして選挙戦で人気を集めた民主党の注目株といえば、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス(通称AOC)、31歳。若者から熱狂的な支持を集める史上最年少の下院議員です。という具合に、民主党は次の世代の方が面白い政治家が多いような気がします。

今回の大統領選挙では、アメリカ国内の分断が深刻化していることが浮き彫りになりました。選挙の結果が出てもなお、この分断は終わりません。バイデン大統領は、アメリカをもう一度、「United States」として立て直すことができるのか。アメリカはいま、とっても重要な岐路に立たされています。


 
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