管政権の経済政策について考える
「日経新聞くらい読めよ」社会人なら誰もが一度は言われたセリフです。そりゃ、客先で経済ニュースを語れるとかっこいいですもんね。でも、「だって、みんな読んでないしな…」と、何となく済ませている人も多いのではないでしょうか。それでは、心許ないので最低限に知っておいて欲しい経済ニュースを、経済誌の現役記者・編集者がこれ以上ないくらいにわかりやすく解説します。今回は、7年8ヶ月の長期政権が終わり…。心機一転して始まった管政権の経済政策について考えます。 (リビンマガジンBiz編集部)
みなさんこんにちは。菅内閣がいよいよ発足しましたね〜。というわけで今回は、菅政権になって何が変わるの?ということについて、経済政策を中心にかるーく見ていきたいと思います。
まず、菅さんのこれまでの主張なども踏まえて、焦点になりそうな話題をまとめてみましょう。
・最低賃金の引き上げに意欲
・地銀再編をすすめる
・携帯電話料金引き下げを進める(通信大手の寡占状態の解消も)
・統合型リゾート施設(IR)は観光政策を進める上で大事
・行政改革(デジタル庁の創設、縦割り行政の打破)
・中小企業改革
・規制緩和いろいろ
このような感じで個別具体的な政策については実績や発言はありますが、「スガノミクス」の全体像はまだ見えてきていません。ここではとりあえず、注目されている話題についていくつか見ていきたいと思います。
❶デジタル庁
自民党総裁選の時から菅さんが最優先課題に掲げていたのが、「デジタル庁」です。デジタル庁は何をやるかというと、各省庁のデジタル化を推進する司令塔になるそうです。改革を託された平井卓也デジタル改革担当相は「来年にはスタートさせたい」と発言しているので、看板政策として早期に実現しそうな勢いを感じます。
そもそも、新型コロナは日本の行政のデジタル化が遅れていることを嫌という程あぶり出しました。振込みまでに1カ月かかる地域もあった10万円給付、結果の処理に時間がかかるPCR検査(保健所からの報告をFAXで受診して処理しているとの話もありますね)などなど、紙ベースで非効率なお役所仕事の問題を浮き彫りにしました。これをどうにかしないとまずいよねという話です。
IT化のさらなる推進は、国に限った話ではなく、民間企業も同様です。「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」ってやつです。単なるIT化ではなく、IT化によってビジネスモデルとか、産業の構造とかをガラッと変えていくことを言います。「IT化」と呼んでもいいと思うのですが、DXって言った方がイマドキな感じでおすすめです。
今や企業にとって、DXは最大の市場の一つ。不動産業界もデジタル化を進めることで、営業をもっと簡略化したり、不動産価格の分析・予測をの精度を高めたり、いろいろな商売が出てきそうです。
政府がこうしたDXの旗振り役になることで、日本全体で新しい市場を掘り起こしていこうという、壮大な話のシンボル的な存在が、このデジタル庁ってわけです。たぶんね。ちなみに菅首相は、警察庁は運転免許証のデジタル化も進める意向のようで、身近なところでデジタル化が進むことが期待されます。
❷携帯電話料金の引き下げ
菅さんといえば、元号を発表した「令和おじさん」で、令和おじさんといえば、「携帯料金の引き下げ」です。今回の総裁選でも度々、携帯料金値下げの必要性を口にしていましたし、過去には「携帯電話料金は4割程度引き下げられる余地がある」などの発言もありました。実際、そこから2019年10月の電気通信事業法改正につながり、通信大手は携帯料金を引き下げさせられた訳です。つまり、菅さんは携帯料金を引き下げた実績をすでにお持ちで、さらにこれをやろうとしているわけです。
2018年の家計調査によると、電話料金の平均年間支出額は12万2624円で、このうち10万3343円が移動電話、つまり携帯電話料金です。確かに日々の大きな負担になっているのは確かです。
この携帯料金は、さまざまな市場の衰退の「元凶」として槍玉に挙げられることがあります。例えば車。若者の車離れがよく指摘されますが、その理由として「若者は携帯料金の負担があるので車を買えない」などの説明をよく目にします。
このように家計を圧迫し、消費を冷え込ませている要因の一つが携帯料金で、これを下げればもっと景気がよくなる。携帯料金の引き下げを支持する人の中にはそんな考えの人が多く感じます。
しかし一方、民間企業のビジネスに政府が介入してくることに抵抗を感じる人が多いのも確かで、この点は今後も議論になりそうです。
❸地銀再編
「数が多すぎる」として、菅さんに名指しで再編の必要性を指摘されているのが、地方銀行です。地銀再編は今に始まった話ではなく以前から必要性が指摘され、また一部で統合なども始まっていますがこれが一気に進む可能性が高まっています。
実際のところ、地銀は多すぎますし、近年は低金利も相まって、非常にやばい状況にあります。上場する地銀78行の2020年3月期の業績は、7割に当たる54行が前期比で現役でした。3行に至っては赤字でした。経営的にたちゆかない状態の銀行が増えているということです。
実はすでに、地銀再編のお膳立ては進んでいます。今年5月には地方銀行同士の統合・合併を独占禁止法の適用除外とする特例法が可決・成立しています。同じ地域の地銀同士が合併すると寡占の可能性が高まって独禁法違反になる恐れがあるのですが、地銀についてはそれを例外的に認めようというものです。
これまでの地銀の合併問題では、ことあるごとに公正取引委員会が横やりを入れる形で議論が難航し、時間がかかってきました。この障害を取っ払って、M&Aによる再編をどんどん進めようという訳です。
この分野ではSBIグループがすでに複数の地銀を傘下に入れていますし、家電量販店のノジマがシェアハウスの不正融資で問題になったスルガ銀行の筆頭株主になるなど、銀行以外の民間企業の参入も事実上許しています(これは以前に比べると、金融行政が非常に柔軟になっているということです)。
あなたの街のメインバンクでも大きな動きがあるかもしれません。金融とゆかりの深い不動産業には大きな影響がありそうです。