暑い…暑過ぎる夏に、なぜか金(ゴールド)を取り上げます

「日経新聞くらい読めよ」社会人なら誰もが一度は言われたセリフです。そりゃ、客先で経済ニュースを語れるとかっこいいですもんね。でも、「だって、みんな読んでないしな…」と、何となく済ませている人も多いのではないでしょうか。それでは、心許ないので最低限に知っておいて欲しい経済ニュースを、経済誌の現役記者・編集者がこれ以上ないくらいにわかりやすく解説します。今回は、何だか知らないんですが…金が高騰しているるようなんです。その背景を解説します。 (リビンマガジンBiz編集部)

画像=PIXABAY

みなさんこんにちは。暑すぎて仕事をする気力がわきませんね。当然、日経新聞も読んでいないと思いますが、そんなみなさんでも、最近、金(ゴールド)の価格が過去にないくらい高くなっているという話を耳にしていると思います。

金の価格は、2019年末の1トロイオンス=1524.96ドル(約1万6000円)から値上がりを続け、史上最高値を突破し、2020年7月末には2000ドルを超えました。年初からの上昇率は30%を超えており、同じ期間の株式(ダウ工業株30種平均)の上昇率を上回っています。コロナ禍で世界のマネーが注目しているのは、株式よりも金だということです。

ちなみに、1トロイオンスは31.1グラム。1グラム当たりの金価格は約64ドル、日本円で約6800円です。

金は、身近なところでは宝飾品だったり、一部は工業製品の素材になっていたり(電子部品や半導体に使われています)、そしてお金持ちは延べ棒を持っていたりします。つまり、実需と、資産形成の手段、両方の需要があるのが金の特徴です。そしてその価格の最も有名な目安は、NYの金先物価格です。

ではなぜ、コロナの時代に金が買われているのでしょうか。

①「有事の金」

歴史的に、戦争や経済危機などヤバい局面で金は買われてきました。1979年のソ連によるアフガニスタン侵攻、1997年のアジア通貨危機などの後に金価格が上昇しています。

なぜ、ヤバい状態になったら金なのかというと、金は非常に希少価値が高い資産だからです。人類がこれまでに採掘した金は、長さ50メートルの競技用プール3〜4杯分と言われています。すごく少ないんですね。紙幣や通貨は、それを発行する国がなくなれば紙くず・鉄くずになります。でも、金はその希少性そのものに価値がある。その究極の安全性が長らく評価されているわけです。

コロナウイルスという未知の感染症で景気が低迷し、どれだけの経済的な影響が生じるかわからない中、有事の金として金が注目を集めているというわけです。

②お金が余っている

実は、有事の金という言葉だけでは昨今の金価格の上昇を説明するには不十分です。なぜなら、株式も買われているから。他の資産が売られて、金だけにお金が集まっているのではなく、株式も、金も買われている。それが今、起きている現象なんです。

つまり、世の中にお金があふれていて、行き先がないので、株式や金への投資にお金が回っていということです。

コロナで経済活動が停滞する中、企業がお金を調達できるように、各国政府は世の中にお金を供給する政策を矢継ぎ早に打ち出してきました。中央銀行(日本の場合は日本銀行ですね)が行う金融緩和政策もその一つです。そうして溢れたマネーが、株式市場や金市場に流れ込んできました。だから、株も金も価格が上昇するという現象が起きているわけです。

③もはや「国家」を信用できない

これは①と②の合わせ技みたいな考え方です。

希少な金に注目が集まるのは、お金(通貨)の価値を将来にわたって信じ続けることが難しくなりつつある、という人々の不安心理の表れと見る専門家もあります。日頃使っているお金(法定通貨)の信用が揺らいでいるということです。

金の価値の拠り所が希少性だとしたら、法定通貨の拠り所は国の信頼そのものです。日本円をお金として使えるのは、日本政府がその価値を保証しているから。でも最近は、金融緩和をしすぎてお金があふれており、なおかつコロナ禍で経済が壊れないように国のお金で色々と支援しているため財政が悪化しています。「お札を刷りすぎたら、1円あたりの価値が低下するんじゃないの?」「財政破綻はしないの?」「この国の政府は大丈夫なの?」……お金を持つ人って、どうにかして資産を守りたいと考えるものなので、こういう信用できないものからお金を逃したくなるんですね。だから、法定通貨ではなく、金を買う。そういうことです。

法定通貨の信任低下によって重要性が高まっているのは、金だけではありません。ビットコインなどの仮装通貨の価格が上昇しているのも、国の将来性を信用できないためだと説明されています。

国家を信用できないから、希少性という価値の裏付けのある金を買う。一方で、実態がなく価値の裏付けもない仮想通貨を買う人もいる。いやはや、非常に複雑な現象が今、世界の市場では起きているわけです。

ではこの金価格、どこまで上がるでしょうか。実は金には「適正価格」というものが存在していません。もともと、先物市場の価格は、宝飾品や工業用途での取引価格はあまり考慮されませんし、採掘コストから積み上げで価格が決まるものでもありません。金には金利がつかないので「利回り」の概念もありません。だから割安・割高を図る物差しがないんです。

ゆえに専門家も、価格の見通しを予想するのが難しい資産なのですが、多くの専門家は「コロナによる先行き不安を反映した値上がりなので、コロナ情勢が落ち着くまでは、値上がりの大きなトレンドは続く」と見ているようです。

金に投資する方法は、かつては田中貴金属のような現物金を扱うお店で延べ棒やコインを買うのが定番でした。今でももちろん有効な投資方法ですが、日本で販売されている金は円換算されているので為替の影響を受けること、そして延べ棒やコインなどの現物金は、換金に手間がかかる(手数料もかかります)点に注意が必要です。

買いやすさで注目を集めているのは、金価格に連動するように運用されているETF(上場投資信託)です。グラム・円建ての金価格に連動する「純金上場信託(現物国内保管型)」(1540)、世界最大の金ETF「SPDRゴールド・シェア」(1326)などがあります。株式と同じように市場で売買できるので、買いやすく・売りやすいのが特徴です。

 
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