中居くん、長瀬さん…芸能人の事務所離脱が相次ぐ背景について知っておこう
「日経新聞くらい読めよ」社会人なら誰もが一度は言われたセリフです。そりゃ、客先で経済ニュースを語れるとかっこいいですもんね。でも、「だって、みんな読んでないしな…」と、何となく済ませている人も多いのではないでしょうか。それでは、心許ないので最低限に知っておいて欲しい経済ニュースを、経済誌の現役記者・編集者がこれ以上ないくらいにわかりやすく解説します。最近、ジャニーズ事務所おかしくない?と思った方に経済ニュース視点で解説します。 (リビンマガジンBiz編集部)
日経新聞を読まないみなさんでも、芸能人の事務所からの独立のニュースが相次いでいることはご存知ですよね。最近も、TOKIOの長瀬智也さんが2021年3月末でジャニーズ事務所を退所することが発表されました。ジャニーズ事務所からは、20年3月に中居正広さんが、同6月には手越祐也さんが退所して、まさに退所ラッシュです。
事務所からの独立の動きはジャニーズだけに限りません。女優の米倉涼子さんはオスカープロモーションから、柴咲コウさんはスターダストプロモーションから、20年3月にそれぞれ独立しています。
表舞台で活躍する芸能人と、裏から活動を支える芸能事務所は表裏一体のものだと思われてきました。芸能事務所の実態が社会的に明らかにされていないことも相まって、トラブルや問題が表沙汰になりにくかったということもあります。
しかし、そんな芸能人と芸能事務所の関係は大きく変わりつつあります。今回は、なぜ芸能人の独立が相次いでいるのかについて考えてみます。特に、「干される問題からの解放」と「活躍の場の多様化」の2つに絞ってみていきます。
芸能人が事務所から独立する時、関係がこじれて契約を解消すると、テレビや映画、CM等への出演の機会が限られる「干される」おそれがあります。事務所から芸能人を売り込む機会がなくなりますし、芸能人を起用する側が事務所との関係を考慮して、該当する芸能人をキャスティングから外すということもあるでしょう。そういった圧力こそが、芸能人を事務所につなぎとめる「見えない力」になってきた面があります。レプロエンタテイメントから独立した後、一時期露出が減っていた女優ののんさん(元の芸名は能年玲奈さん)がその一例でしょう。
この見えない力はインターネット上などではさんざん指摘されてきましたが、うちわの問題ゆえ、実態が明るみになることはなく、問題が是正されることもありませんでした。
しかし、ある人気者の独立をめぐり、社会的な注目度が一気に中まります。
稲垣吾郎さん、香取慎吾さん、草なぎ剛さんの元SMAPの3人のジャニーズ事務所からの独立です。
3人は2016年末にジャニーズ事務所を退所した後、テレビのレギュラー番組があいつぎ終了するなど、明らかに活躍の場が減りました。これに対し「ジャニーズ事務所の圧力のためだ」と社会的な批判が高まっていきました。
この問題に対して動いたのが、公正取引委員会(公取委)です。2019年7月、元SMAP3人のTV出演に対して圧力の疑いがあるとして、がジャニーズ事務所に注意を行いました。
また同じく19年7月には、公取委の事務方トップに当たる山田昭典事務総長が吉本興業について「(所属芸人との間の)契約書面が存在しないということは、競争政策の観点から問題がある」と定例会見で言及しています。
公取委はさらに踏み込みます。公取委は19年11月、芸能事務所を辞めたタレントの芸能活動を禁止・制限することは、独占禁止法違反にあたるため原則禁止とする見解をまとめました。
お茶の間で知名度が高い芸能人であっても、事務所との関係では弱い立場にあります。この問題に対して独占禁止法を盾に公取委が踏み込んできたことは、芸能事務所と芸能人の関係は大きく変わるきっかけになりました。
二つ目は、活躍の場の多様化です。一言で言えば、YouTubeをはじめとするネット上の動画プラットフォームが拡大したことで、芸能人側が自ら情報を発信する機会を持つことができるようになりました。
いわゆる「闇営業」問題で2019年7月に吉本興業から契約を解除された宮迫博之さんは、YouTubeにチャンネルを開設しています。ジャニーズ事務所をやめたばかりの手越さんは、たった4本の動画を投稿しただけでチャンネル登録者数が100万人を突破しました。そのほか、事務所所属の芸能人にもYouTubeチャンネルを開設する動きが広がっています。
テレビやラジオ、映画に出演するには、テレビ局や製作会社にキャスティングされる必要がありますが、YouTubeは自分で動画をあげればいいので、そもそも「干される」心配がありません。観たい人がいれば再生回数が増える、それだけです。
本来の活躍の場がテレビや映画、舞台などの芸能人の場合、YouTubeにいくら動画を投稿しても本業の仕事にはならないかもしれません。しかし、露出の場を作っておくことで、人々の記憶に残ることができれば、次の仕事につながる可能性が広がります。
YouTubeといえば、最近は木下ゆうかさんなど有名YouTuberが業界最大手の所属事務所UUUMから独立する動きが続いてます。芸能事務所と同じような動きが、YouTuberの事務所でも起きているわけです。
事務所がなくても動画を投稿できる点はYouTuberも同じです。そして、彼らを支持する人がいれば、動画は再生されます。
テレビ番組も映画も舞台も、観る人がいなければ始まりません。ただ、誰をキャスティングするかの決定権は、製作側が握っていました。観客側は芸能人を指名することはできなかったわけです。
一方、YouTubeをはじめとしたSNSは、発信したい人が発信し、ユーザーは見たい人のコンテンツだけを見ることができます。つまり、何を見るかを決めるのは、あなた次第です。
芸能人、制作、お客の関係性が大きく変わろうとしている。そんな大きな流れが、芸能人の事務所独立問題の裏側にはありそうです。