株価は持ち直したのにJ-REITが下がったままなのはなぜか
「日経新聞くらい読めよ」社会人なら誰もが一度は言われたセリフです。そりゃ、客先で経済ニュースを語れるとかっこいいですもんね。でも、「だって、みんな読んでないしな…」と、何となく済ませている人も多いのではないでしょうか。それでは、心許ないので最低限に知っておいて欲しい経済ニュースを、経済誌の現役記者・編集者がこれ以上ないくらいにわかりやすく解説します。コロナショックで乱高下しているJ-REITについて勉強しましょう。 (リビンマガジンBiz編集部)
日経新聞を読まないみなさん、こんにちは。商売の調子はどうですか。不動産業界は、ホテルからオフィス、住宅まで幅広くコロナの影響を受けています。商業施設やホテルは、人の賑わいが戻るまで業績の回復を期待するのは難しそうです。住宅販売も、完全に元に戻るには時間がかかるでしょう。一方、在宅勤務やリモートワークが一気に広がったことで、今後はオフィス需要が縮小すると予想する人もいますが、こちらは足元の業績には大きく影響していません。
さてそんな中で、大きく動いたのがJ-REIT(不動産投資信託)の投資口価格(今回はわかりやすく、株価と表記していきます)でした。
コロナ禍で金融市場が大きく崩れた今年2月から3月にかけて、Jリートの値動きを示す東証REIT指数は大暴落しました。1月中は2200ポイントを超えていたものが、3月半ばに5割下落しました。その後、その半分くらいまでは戻していて、今は1600超ポイントくらいです。
だいぶ戻ってきてはいるものの、日経平均株価の2月、3月の下落率が3割程度で、なおかつ現在は下落前の水準に近いところまで戻ってきていることを考えると、J-REITは株式以上に売られて、なおかついまだに投資マネーが戻ってきていないことがわかります。
このように株式よりも大きく乱高下するJ-REITですが、J-REITはそもそも、投資家から集めたお金(そして借金で調達したお金)で不動産に投資して、家賃収入や売却益から得た分配金を投資家に分けるという、不動産投資を金融商品化した割とシンプルな設計の投資商品です。年2回、分配金を出す銘柄が多いので、お小遣いを期待しながら投資することもできます。分配金を出す月をずらして6銘柄投資することで、毎月分配金が入る、なんて投資の仕方も一応、できます。
本来、J-REITの株価の動きは、家賃収入や地価動向、あるいは金利などの影響を強く受けるはずです。しかし近年は、株価(日経平均株価)の影響を大きく受ける傾向が強まっています。日経平均が上がればJ-REITも上がり、日経平均が下がればJ-REITも売られるという具合に連動しています。
J-REITがこんなにも値動きが激しい投資対象になった理由の一つは、低金利が続き、投資する商品がなくなった投資家たちが利回りを求めてJ-REITに群がったという事情がありました。金融緩和政策でもはや買ってもしょうがないところまで利回りが低下した国債と比べると、3~6%代の利回りを確保できるJ-REITは魅力的です。特に運用のために購入する地方の金融機関によって、J-REITは買い支えられてきました。
ちなみに今回のコロナ禍での暴落は、地方の金融機関が一斉に売却したためとみられています。金融機関の運用部隊は、保有している資産が一定の基準まで値下がりした場合、売却しなければならない決まりがあることが多いんです(損切り=ロスカットといいます)。だから一定のところまで株価が下がると、みんな一斉に売却するというわけです。
さて、コロナで大きく売られたJ-REITですが、これからどうなるでしょうか。すでにホテルに投資するリートの一部には、買い戻しの動きも出ています。これは売られ過ぎからの戻りを期待した投資と言えます。株価が下がったホテルリートの中には、分配金利回りが大きく上昇している銘柄もあります。ジャパン・ホテルリート投資法人の分配金利回りは8.43%、大江戸温泉リート投資法人は6.44%です。この利回りだけで買いたくなる投資家がいるのはわかりますが、観光需要、とくに外国人観光客の需要は回復の目処が立っていません。想定通りの収益を上げられなければ、分配金の支払いにも影響が出るはずで、今の段階では安心できる状態ではありません。
では、withコロナ、afterコロナのJ-REIT市場はどうなっていくでしょうか。テナントの収入によって賃料収入が変動する契約が多いホテル、または一部の商業施設は、分配金が計画通りに支払われるかどうか不透明感が強く、目先の割安感だけで投資するのは危険でしょう。
一方で、人気を得そうなのは、物流施設に特化したREITです。コロナで物流インフラの重要性が見直される中、今後も手堅く需要を維持していきそうです。
世界的な金融緩和を背景に、今後もJ-REITへの資金流入は続きそうです。ただし、変われる対象は「コロナ」前後で大きく変わるはず。不動産に求められる社会的な役割が大きく変化する中、投資家は不動産市場の変化を注意深く観察しながら、J-REITの銘柄選びをするべき時期を迎えています。