トイレットペーパー騒動から経済問題を学ぶ
「日経新聞くらい読めよ」社会人なら誰もが一度は言われたセリフです。そりゃ、客先で経済ニュースを語れるとかっこいいですもんね。でも、「だって、みんな読んでないしな…」と、何となく済ませている人も多いのではないでしょうか。それでは、心許ないので最低限に知っておいて欲しい経済ニュースを、経済誌の現役記者・編集者がこれ以上ないくらいにわかりやすく解説します。今回は..失敗の尻拭いは自分でしろよ!といっても、無い。トイレットペーパーが無いんですよ!というトイレットペーパー騒動をもとに経済問題について学びます。(リビンマガジンBiz編集部)
画像=PIXABAY
みなさんこんにちは。体調は大丈夫ですか。日経新聞の紙面も新型コロナウイルス一色ですね。すでに「コロナ倒産」とか、業績予想の下方修正などの話題が出てきていますが、世界的に感染拡大が収束しない限り、どれほど経済に影響をもたらすのかを考えるのは難しい状態です。
世界の金融や、企業活動だけではなく、私たちの日々の生活に直接的に大きな影響をもたらしているのがコロナの怖いところですが、特に困っているのがトイレットペーパー不足でしょう。マスクと消毒液に並び、トイレットペーパー、ティッシュペーパー、そしてキッチンペーパーなどの紙類は今、手に入りにくくなっています。
そこで今回は、トイレットペーパーはなぜ不足するのか?というテーマで二つのことを勉強してみる特殊な構成でお送りします。
トイレットペーパーが不足する理由を説明するコラムなどで、「合成の誤謬(ごびゅう)」という言葉を時々目にします。これ、経済学の用語なんです。知っているとかっこいい感じがするので、一度覚えるとみんな使いたがる用語でもあります。
誤謬とは、あやまり、まちがいの意味です。個人あるいは企業単位(ミクロ)では合理的な行動を取ったつもりが、社会全体(マクロ)ではよくない結果をもたらす、というのが合成の誤謬です。
個人個人が自宅のトイレットペーパーがなくなると困る、だから早く確保しようと動くと、結果として市場からトイレットペーパーがなくなり、みんな手に入らなくなる。ということで、これって合成の誤謬だよねという解説が出てきているわけです。
こうしたミクロの行動がマクロではよくない結果をもたらす合成の誤謬の例で、最も有名なのは、貯蓄の話です。みんなが消費を控えて貯蓄に回すお金を増やし、貯金を増やそうと行動すると、個人が消費を控えた分、企業の売り上げは減少し、業績も悪化し、結果として社会全体では景気が悪くなる(国民全体の総所得が減る)という現象です。これを「貯蓄のパラドックス」と言います。
コロナの感染拡大が収束しない現在も似たような状況で、外出ができないだけでなく、先行きの不安もあるので、皆、むやみにお金を使うのを控えようとします。これによって一層、景気を悪化させてしまう恐れがあります。
というわけですが、トイレットペーパーの例は、そもそもの発端はデマです。トイレットペーパーを買えなくなるかもしれないという焦りから、多くの人が買占めに走りました。合成の誤謬という小難しい言葉を使わずに、「デマでパニック買いが起きた」と説明する方が素直で現状を正しく説明しているような気がします。
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さて、トイレットペーパーの買い占めが起きた直後、トイレットペーパーメーカーの業界団体が「在庫は十分にある」と呼びかけ、経済産業省も同様の発表をして騒動の沈静化に動きました。しかし、いまだ店頭には十分な量のトイレットペーパーがありません。生産しているのに、お店に回ってこない。なぜでしょう?
理由の一つは、物流にあるという指摘があります。日本の物流の9割はトラック輸送と言われていますが、そのトラック業界はずいぶん前からドライバーの人手不足が深刻化しています。メーカーがトイレットペーパーの生産を頑張って増やしたところで、トラックドライバーの確保が難しく、運ぶ力が追いつかないわけです。
また、ドラッグストアの在庫管理を効率化するために、お店に在庫を積んでおくのではなく、毎日必要な量のトイレットペーパーを納入する仕組みが構築されていたことも、急な供給増加に対応しきれない原因だと言われています。
物流の問題は、アマゾンをはじめとしたEC(電子商取引)の拡大や送料の値引き合戦などで以前から指摘されていた話です。今回の騒動をきっかけに、モノの流れを支える物流インフラの軋(きし)みに、真剣に耳を傾ける必要がありそうです。