不動産の取引は、様々なルールや法律によって厳しく規制されています。不動産業は扱う領域が広く、プロである宅地建物取引士でも、分からないことが少なからず存在します。そこで、不動産売買仲介にまつわる、よくある質問事例をまとめました。(リビンマガジンBiz編集部)
不動産適正取引推進機構には、年間1万件近いトラブル相談が寄せられています。多くは一般消費者からの相談ですが、不動産事業者から寄せられる質問も2割近くを占めています。不動産適正取引推進機構によると、不動産からの質問では重要事項説明(重説)に関する質問が多いようです。まずは、重説に関して多い質問を見てみましょう。
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■重要事項説明に関する相談
■既存不適格建物
Q. 2年前に仲介した建物の買主から、法律の改正により、既存不適格建物になっており、建て替えをしようと思ったら今より小さな建物しか建てられない。購入時にそのような説明は一切なかったと連絡があり、損害賠償を求められています。どうすればいいでしょう。
A. 取引対象が既存不適格建物であることを説明していなかったので、違反がないとは言えません。しかし、買主の建て替え計画を知らされていなかったので、どこまで不動産業者に責任があるかはっきりと言えません。しかし、説明不足があったのは確かです。現況の建物が、法令に適合していないことは、しっかりと説明しておく必要があります。そうしないと建て替えの際に今回のようなトラブルが発生しやすいです。
■暴力団事務所の存在について
Q. 仲介した住宅の買主から向かいのビルに暴力団事務所がある。重要事項説明で、そんな話はなかった。暴力団事務所が目の前にあるなら購入しなかったと連絡が来ました。
A. 取引物件の近くに暴力団事務所が存在することを知らなければ説明義務はありません。ただし、暴力団事務所の存在については、契約の判断に重要な影響を及ぼす事項として説明すべき項目です。知っている場合は当然、説明義務があります。不動産業者に積極的な調査義務があるわけではありません。また、暴力団事務所の存在を伝えるべき距離・範囲は不明確です。後々にトラブルにならないように、生活範囲内に事務所があれば伝えておくのが無難でしょう。
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■ペット飼育禁止マンション
Q. ペット飼育可能のマンション購入依頼を受けました。しかし、良い物件が見つからず、代わりにペット禁止のマンションをご紹介しました。ペット以外の条件は満たしており、買主にも満足して購入いただきました。契約時に管理規約等でペットの飼育が禁止されている旨は改めて伝えました。しかし、買主はマンション内でペットを飼っている住人を見かけたことがあるようで、「何人か飼っている人もいるみたいですね」と言われました。私は雑談程度の気持ちで「小型犬なら良いのかもしれませんね」と答えました。買主はそれをペット可と取ったようで、入居後にペット飼育を始めたようです。それから数か月後に管理組合で問題が取り沙汰されることになってしまいました。そこで買主から「ペットを飼えると言ったのだから、責任を取りマンションを買い取ってほしい」と言われ困っています。
A. ペット飼育禁止のマンションの場合、雑談程度でも、ペットが飼えるという話をしてしまうのは厳禁です。不動産業者は、動物の飼育が禁止されている場合、管理規約等の該当箇所を示し、禁止の旨をしっかりと説明しなければいけません。本件のように、尋ねられても、安易に返事をしてはいけません。管理規約で禁止されていることを強調すべきです。
■契約の解除、手付金の返還についての相談
■強引な営業行為によって結んだ契約について
Q. 「将来に備えて投資用にマンションを購入したい」と、お客様からの問い合わせをいただきました。お客様は上場企業にお勤めのエリートサラリーマンです。これは有望なお客様になると思い、こちらから頻繁に電話を入れて、メールにて物件の提案をしました。先方はどうやらご多忙のようで、なかなかアクションがありませんでしたが、その間もこちらからは電話などで連絡をとり続けていました。そのうち、ようやく面談の機会をいただきまして、先方のお勤め先の近くで商品の提案をさせていただきました。お客様は少しお疲れのようでした。迷っていらっしゃったので、お客様の属性なら金融機関からも良い融資条件が引き出される点を強調して、後押したところ契約していただけることになりました。すぐに手付金を支払っていただき、契約書にサインもいただきました。しかし、1週間ほどたってから、お客様からクレーム電話が入りました。「何度も電話が来て、強引にハンコを押させられた!契約を取り消したい」とのことです。もっと慎重にはなしを進めれば良かったと反省していますが、お客様の要望にそった物件提案をしたつもりです。これで契約解除は納得いきません。
A. 契約は成立すれば効力があります。そのため、一方的な都合で契約を解除することはできません。しかし、あなたの落ち度がなかったというわけではありません。契約は信頼関係で成り立ちます。購入の意思のない消費者に対して、強引に勧誘行為を続けることは宅地建物取引業法で禁止されています。相手方が納得した上で契約しなければ、本件のようなトラブルになりがちです。自分の話しがしっかり伝わっているかどうか、確認しながら進めましょう。
■融資承認後の手付解除
Q. 新築マンション購入を検討しているお客様が店舗にいらっしゃいました。予算が少しオーバーしていましたが、銀行から融資が受けられるので、手付金を支払っていただき契約に至りました。しかし数日後、そのお客様から、契約を解除したいと連絡が来ました。話を聞くと、ローン返済に余裕がなく心配になり、手付金を放棄してもいいので解除したいということでした。しかし、こちらで融資を代行し、すでに銀行から承認を得ています。この時点で履行の着手があり、違約金が発生すると伝えました。それでも向こうは頑なに解除したいとの一点張りです。売主はすでに新居の手続きをしています。どうすればよいでしょうか。
A. 本件では、違約金は発生せず、手付放棄のみで契約を解除できます。契約を締結した後にやむを得ない事情が生じることを想定し、手付金を放棄すれば契約を解除できると民法で保証されています。しかし、履行の着手があった場合、それを保護する義務が出てくるので、手付金放棄では契約を解除することはできません。したがって今回は、履行の着手があったかどうかが問題となります。売主は、融資の承認を履行の着手と捉えています。しかし、融資手続きは買主の義務であり、売り主の履行の着手ではありません。宅地建物取引業法では、正当な理由なく買主の契約の解除を拒むことを禁止しています。残念ながら、違約金は発生せず、手付金放棄で契約解除できます。
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■瑕疵担保責任に関する相談
■売主の告知どおりに説明しても責任を負いますか
Q. 中古一戸建て住宅購入の仲介をして、引き渡しも終了しました。入居した買主から「雨漏りはないと説明を受けたが、雨漏りがあった。修復費用に100万円かかる。説明を受けてないので全額負担してほしい」と連絡がありました。売主の報告書では雨漏りがないと説明を受けていたので、重要事項説明でも雨漏りの話はしませんでした。現在、買主からの申請は拒否しており、トラブルになっています。
A. 雨漏りやシロアリなどの建物の瑕疵は発見が困難です。したがって、不動産業者は調査の義務はありません。しかし、通常の調査義務は果たしておかなければなりません。通常の調査義務とは、建物所有者(売主)への物件確認や自ら建物の現況調査をおこなうことです。売主から雨漏りはないとの告知があっても、実際に目視で調査をします。通常に注意して発見できた瑕疵であれば、調査不足を指摘されても文句は言えません。
■まとめ
トラブルが起こる前に、伝えるべき点をしっかりと説明をしましょう。また、自ら調査できるものに関しては怠らず、やり遂げましょう。不動産業は人との繋がりが大事な仕事です。少しのミスが噂となり一気に広がる可能性もあります。誠実な接客を心掛けましょう。