「建築士」は建築設計に関する技術を認められた国家資格の名称ですが、「建築家」という言葉は法律では定義されていません。では建築家とは何をする職業なのでしょうか。
建築家は建築設計の専門家です。その建築設計という職能には大きく二つの要素が含まれていて、ひとつは「構造・工法や法規など技術的な要素の統合」、もうひとつは「美しさや気持ちよさといった意匠性の統合」です。海外、とくに西欧では建築設計者は二種類に分かれていて、技術的な側面の専門家が「エンジニア」、意匠的な側面の専門家が「アーキテクト」と呼ばれるのですが、日本ではあまりこの分類は明確ではありません。しかしそんなにすべての知識や能力を備えることは実際には不可能であるため、規模の大きな建築や複雑な建築では、構造設計や設備設計などさまざまな分野の専門家がチームを組んで設計を行なうことになります。
難しいのは、この技術と意匠という要素は明確に分離して考えられるものではなく、それぞれの専門家がばらばらに設計を行なったらとても建築として調和したものにはなり得ないというところです。また設計の意図に沿った適切な施工も必要です。そこでリーダーとなって設計・施工プロセス全体をコントロールし、意義深い建築の生成を目指すのが「建築家」であると考えていただければよいと思います。
不動産の価値は、一般的には土地と建物のセットで決まるものです。ある土地の価値は、そこにどんな建物が建つかによって判断されるべきものです。またすでに建物が建っている場合でも、現在の法規や社会にどのくらい適合しているか、リノベーション・増改築・建て替えをするとどのような建物になるか、といったことが潜在的な価値として影響します。
建築家は、そのように建築可能性の側面から不動産の価値を検証できます。実際にデベロッパーの方から、売りに出ている土地を買うかどうかの検討のために、そこにどのようなオフィスビルやマンションが建てられるのか仮に設計してほしいというご依頼を受けることがあります。しかも土地売買は早い者勝ちなので、2~3日、短いときには一晩で設計、というようなこともあります。その検証設計のやり方にも注意点やコツがあるのですが、それはまた改めて書きたいと思います。
というように、このコラムでは建築家という建築設計の専門家の視点から、不動産の価値というものを考察してみたいと思っています。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。(了)