ーーー豊洲市場の土壌汚染問題ーーー
浄化したはずの有害物質が再調査の結果、環境基準を上回ることが判明しました!
どうしてこういうことになったのでしょうか?
<豊洲移転と浄化の経緯>
この土地は東京ガスの製造工場跡地で、当初から土壌汚染があることがわかっていました。
そのため、東京都と東京ガスとで土壌汚染の状況について協議し、
その対策も行われてきました。
ところが、どういう経緯か昨年になって盛土をするはずの対策が十分になされておらず、
建物ピット内に汚染地下水が滞留していることが判明しました。
東京都ではやむを得ず移転時期を延期し、入居業者に対して
総額90億円の損害賠償を行うことにしました。
ここに至るまでの経緯は次の通りです。
- ● 平成13年:東京都が築地市場の豊洲地区への移転整備を決定、東京ガスも同意。
● 平成17年:都と東京ガス間で「豊洲地区用地の土壌処理に関する確認書」締結。 - AP(東京湾平均海面)+2mについて環境基準以下とする追加対策
- を行うことで合意。
- ● 平成19年:東京ガス「汚染拡散防止措置完了届出書」を提出、
- これによって東京都環境確保条例に基づく対策措置を完了した。
● 平成21年:「豊洲新市場整備方針」策定 -
- (整備方針パースと当初の高濃度汚染ポイント)
● 平成23年3月~4月:都と東京ガス間で売買契約を締結
● 平成23年3月31日:都と東京ガス間で「豊洲地区用地の土壌汚染対策費用負担に関する協定書」を締結、
汚染対策費用78億円についての費用負担で合意(東京ガス:2.4億円、東京ガス豊洲開発:75.6億円、)
● 平成26年11月:「技術会議」が土壌汚染対策工事の完了を確認。
● 平成26年12月:豊洲6丁目の一部を「形質変更時要届出区域」に指定
● 平成28年8月:盛土がなされていないことが判明
● 平成29年1月:地下水含有物質分析、環境基準超過を確認
<実施された汚染対策>
汚染対策として実施された措置は以下の通りで、大掛かりな工事で総額586億円もかかっています。
これだけ万全の対策をとれば安全だろうと考えたのでしょうが、
浄化したのは地下水まで含めたものではなく、表層土壌が中心でした。
土壌中の有害物質は取り除いてもその下に滞留している地下水まですべて
浄化したわけではなかったからです。
<環境基準超過の意味>
東京都による第9回目の調査の結果が1月14日に発表されましたが、
ベンゼン、ヒ素、シアンが検出されました。青果棟の地下では国の環境基準の79倍の
濃度のベンゼンが出たほか、有害物質の検出範囲も調査地点の3分の1以上と
前回調査の3か所から大幅に増加しています。
地下水の環境基準は飲料水の基準と同レベルですので、かなり厳しいといえます。
厳しいのはそれだけ有害物質の毒性が強いからで、食品を密封せずに露出して
取り扱う食品市場では基準達成には大きな意味があります。
豊洲において今回検出された物質や過去に検出されたことのある物質についての
環境基準とその毒性を下記にまとめました。
浄化前のベンゼンは最大で環境基準の43000倍でしたので、
浄化前には0.01mg×43,000=430mg/Lあったことになります。
ベンゼンの致死量は50~200mgとされていますので、500mlのペットボトル1本を
飲んだだけでほぼ確実に死亡する濃度でした。
現在は最大で79倍ということですので、「直ちに健康被害が生じるレベルではない」
としても長期的には影響はあるでしょうから、これを放置することはできません。
また、シアンは青酸カリの原料物質であることから「検出されてはいけない」というのが
環境基準ですが、39か所で最大1.2mg/Lもの高濃度の汚染となっており、
とても安全性には問題ないとは言えないレベルです。
<原因と今後>
このような事態は実は豊洲への移転を決めた時点から危惧されていましたが、
老朽化施設の改修だけではもはや対応できないという東京都の方針に押し切られたという経緯です。
杞憂ではなく現実に危険性が露呈してきたもので、関係者の衝撃は大きいと思います。
しかし、責任問題も重要でしょうが、これを追及したところで、浄化されるわけではありません。
すでに用地費を含めると6000億円をつぎ込んでいる新市場の稼働を断念するという
社会的損失は避けねばなりません。
表層土壌は問題ないので、地下水の管理体制を徹底し、地下水が地表に噴出すること
が無いように封じ込め措置等を実施するととともに、汚染の残っている帯水層については
長期間かけて浄化を継続していくほかはないのではないでしょうか。