皆さま はじめまして!
市ヶ谷の坂の途中で細々と会計事務所を営んでおります、LR会計の税理士&会計士の山田幸平と申します。
この度、ご縁を頂きましてこちらのサイトでコラムを書かせていただくことになりました。
なるべく具体例を用いて書いてほしいと編集サイドから要望を受けておりますが、守秘義務を負う立場なので
そのままズバリではなく、多少アレンジしつつもヤマダがこれまで学んできたことを読者の皆さまと
共有できたら素敵やんって思いつつ書いていきたいと思います。
「会長を説得してほしいんです!」
普段は温厚な2代目社長のAさんが、開口一番に切り出してきました。
X社は東京の北の方にありまして、そこに本社兼工場があります。
その辺りのエリア、今は住宅街というイメージがあるのですが、
昭和30年代まではほぼ畑、たま~に町工場といった感じのエリアだったそうです。
X社の創業者であり、A社長の親父さんであるB会長が裸一貫で始めた事業がある程度軌道に乗った後、
購入した土地に本社兼工場があります。
当時の事業規模にしては広めの土地を購入されたということですが、事業規模が順調に拡大してきた今となっては
だいぶ手狭になってきたという話は3年前に社長を継いだAさんから聞かされておりました。
そこで以前は大企業に勤務していたことのあるA社長は、B会長の了解をとるべく、
分かりやすく数字を並べた書類を用意して、いかに現在の本社兼工場の土地を売却して、
その資金をもとに別の場所に移転することが合理的かを説明しました。
しかしB会長は首を縦には振ってくれません。
A社長としては、自分の考えが合理的であると確信されているため、
さらに別の数字を持ち出して、書類を積み重ねてみたものの、
相変わらずB会長の同意がとれない状況。
そこで顧問税理士のヤマダにお鉢が回ってきたわけです。
とはいえ
(d´Д`)<A社長が合理的な説明をしているわけだからさらに言葉を積み重ねても・・・
(d´Д`)<それにしてもB会長はなぜ反対するのだろう・・・
(d´Д`)<考えても分からない時は直接聞けばいいじゃない
そんなわけで久しぶりにB会長のお部屋を訪問したところ、時間は午後4時。
B会長は大相撲のテレビ中継を見ておられました。
ついポロっと
(d´Д`)<今日は稀勢の里、勝ちますかね?
と言ってしまったところ
(B会長)<相撲好きかね?じゃあ僕と一緒に相撲を見よう。
といって午後6時までただひたすら大相撲中継を見て終わりました。
(B会長)<また明日も遊びに来なさい。
と帰り際に言われたので、翌日も午後4時に会長室を訪問。
最初の30分くらいは普通に大相撲を見ていたのですが、
B会長は視線はテレビに向けつつも、X社を創業してからの思い出話をぽつりぽつりと話し始めました。
・創業からしばらくは毎月のように金策に走り回っていたこと
・ライバル企業が先に自社ビルを建てて悔しかったこと
・今はプレハブの倉庫があるところが最初は空き地で昼休みに従業員と相撲をとっていたこと
・夜中に工場でボヤが発生。自宅に工場長から電話があって真っ青になったこと
・ボヤの謝罪で近隣を回ったことがきっかけで地域との絆が深まったこと
(B会長)<だからね、本当に僕は今のこの場所にいるからこそX社はここまで来れたと思っているんだよ。
(B会長)<別のところに移ったら、これまでの積み重ねが失われてしまいそうで。
気がつけばテレビから「はね太鼓」の音が流れており、ヤマダは一礼して部屋から出ました。
その翌日、A社長に会った際にお伝えしました。
(d´Д`)<社史を作りましょう
戸惑うA社長にB会長の思いを伝え、移転に反対する理由は別に数字の問題ではなく、
今日に至るまでのX社の苦労の歴史が忘れ去られてしまう危機感に起因していることをお伝えしました。
当初は顔に?マークが浮かぶA社長でしたが、次第に
(A社長)<そうだったんだ、ああだからあの時・・・
と御自身の幼少時代を思い出しつつ、神妙な顔でヤマダの話を聞いておりました。
つい最近、別件で東京の北の方に行く用事があったので、X社の旧本社の前を通ってみました。
今では立派なマンションが建っております。
A社長はそのマンションの眺めの良い部屋から埼玉南部のX社の現在の本社に通勤しております。
(A社長)<先生には不動産売却の相談をしたはずなのに社史作れって言われてあの時は驚いたよ。
(A社長)<でも社史を作る過程で親父の苦労が分かったのはほんと良かった。
(A社長)<社史の編纂がきっかけで親父ともよく話ができたし。
本社移転というと、つい資金の手当や売却益の課税問題に意識が向きがちですが、
何十年も同じ場所にいたからこその土地への愛着や忘れえぬ記憶など、
数字では示せないけど大事なことが不動産にはたくさん詰まっているのだなと感じました。
また、事業承継というとこちらもやはり自社株の相続税の問題などが注目されがちですが、
後継者に承継するのは「財産」だけでなく「記憶」も大切!
というのが本件での学びとなりました。