不動産業者が代理人の代理権の確認を怠ったことによる損害賠償
不動産業者が居住用の土地の購入について買主から媒介の依頼を受けたが
代理人の代理権の確認を怠ったため、損害賠償を命じられた事例。
今回の事例は、買主Cから居住用の土地の購入の媒介の依頼をうけたY不動産が
所有者Aの土地の自称代理人のBと買主Cとの土地の売買契約を行い、手付金を
買主Cが自称代理人Bに支払ったが、物件を取得できず多額の損害を被った事例
です。
この場合の問題点は、自称代理人Bの所持する委任状をY不動産が安易に信用して
土地の所有者であるA本人に売却の意思確認を怠ったことにあります。
これは媒介業者の善管注意義務違反に当たる行為です。
善管注意義務違反とは、善良な管理者としての注意義務違反です。
※業務を委任された人の職業や専門家としての能力、社会的地位などから考えて通常期待される注意義務のこと。注意義務を怠り、履行遅滞・不完全履行・履行不能などに至る場合は民法上過失があると見なされ、状況に応じて損害賠償や契約解除などが可能となる。
今回の売買に関しては、東京地裁判決でY不動産の善管注意義務違反を認め、買主Cの損害賠償が認められた事例です。
なぜかというと、売買の媒介を行う宅建業者は、取引の専門家として買主が売買の手付金を
自称代理人Bに渡すにあたって、本当に所有者Aの委任を受けているかを調べる必要があります。
所有者Aからの委任状が本当に所有者Aが出したものか、所有者Aの印鑑証明書や権利書等代理権の存在を証明できるものの確認できる書類の提示を求めることが必要ですが、今回のY不動産は書類の提示も求めず、安易に買主Cに手付金を支払わせてしまった点で、媒介業者としての業務を行うにつき過失があったとして買主Cに損害賠償をするように命じられました。
不動産の取引が自称代理人によって行われる場合には、媒介業者の善管注意義務としてその者が本当に代理権限を持っているのか、範囲はどのくらいなのかを正確に調査することが基本です。
無権代理人の場合、表見代理が成立する例外的な場合を除き、本人に効力が及ばず契約自体が無効です。
よって、今回の場合は、この不測の結果をもたらしたY不動産の調査義務違反ということになります。
不動産の売買では、印鑑証明書を添付した実印による委任状を求めることにより代理人の権限を確認するが、必ず所有者本人の意思確認は必要です。
なぜなら、実印が偽造されたものだったり、盗難されたり他の目的に使用するための印鑑証明書が悪用されることも多く、委任状が偽造されるケースもあります。
特に、不動産というものは高額になるものも多く、媒介業者は、代理権の存在を疑う余地が全くない事情がある場合は別として、所有者本人に照会して代理権授与の事実確認を行うことが適切です。