不動産のお仕事を始める前の若いころ、不動産を所有していると言う人は何かすごいものを持っている、と感じて勝手に尊敬していました。その所有物件を売却することができる方は、神様ではないかとも思っていました。
当然高額で取引され、資産となり財産を築くのですから、すごいこと間違いなしです。ただ、どんなに物件が高額であっても、不動産の売却も売買という契約行為の1つです。モノを売る際、購入者に買ってよかったなぁと感じてもらえると嬉しいですよね。
今回は、「この物件を買って良かった」と買い手に言わせた感動の売主様についてお話しします。
一昨年の夏に、投資物件を所有して賃貸事業を始めたいという30代のお客様の担当になりました。サラリーマンですが、給与額や預貯金などの資産背景などの属性が良い方で、賃貸アパートの購入を希望されました。3000万円くらいの物件であれば、銀行の融資は受けられると判断し、物件探索しほどなく、3200万円の物件を買付しました。銀行の融資も承認され、1か月くらいで売買契約を成立することが出来ました。
この物件は、2階建て木造で、築27年、ワンルーム10部屋というよくあるアパートです。売却の公開時には、一部屋空室で募集中の状況でした。情報公開後、顧客が購入を検討してから売買契約までそんなに時間にかかっていませんが、その間に買い手の想像を超えた売主のオーナーさんの対応がありました。
まず、私の顧客が買付を行った頃に、空室のリフォームを始めていました。当初は、売却を決めたので買い手が見たい時に案内できるように清掃するだけの予定だったそうです。ところがすぐに買付が入ったことで、これまでの入居者の声や他の所有物件から学んだことを活かして、リフォームして引き渡してあげようと考えられたそうです。引渡しの後に部屋に入ると、フローリングの床材のグレードをあげたり、ロフトに上がる階段を新調したり、キッチンなどの水回りを新しくなっていました。
さらに売買契約も済み、あと二週間で引渡しという時期に、共用の廊下にある電灯を架台の部分からすべて取り換えて新しくなりました。契約時に買い手が修繕を依頼したことでもなく、前の年からやろうと思っていたので修繕したとのことでした。
こういった売主のオーナーさんの対応に私の顧客もすごく大喜びでした。決済を行い物件の引渡しの日に、売主と私の顧客が初めて会うことになったのですが、挨拶と同時に顧客より思わず、「なぜ、売却が決まっているのに、手を加えていただけたのですか?こちらの要望以上に様々な対応していただけて感動しています。」と質問が飛んでしまいました。この唐突な質問に、オーナーさんは笑顔で「この物件は、私が最初に購入した投資物件で思い入れが強いのはたしかです。それを手放すときにはできる限り綺麗にしてお渡ししようと思っていたので。」と答えてくれました。
ともすれば、自分のものでなくなるのであれば、そのあとは知らないという無関心になっても仕方がないご時世で、売主の鏡だなと隣で聞いていた私も感動しました。
引渡しのあと、顧客と一緒に物件へ行きました。新しくなった空室も廊下も確認して、ホッと一息ついて、顧客が「買ってよかったです。ありがとうございました。」と静かに言っていました。売主のオーナーさんとはすでに別れた後でしたが、その思いは確実に届いたと思います。
私自身、清々しい売買契約を仲介させてもらったなと感動しました。