若い夫婦が、妻の実家近くに家を建てるのが増えているらしい。意外に聞こえるが、実はメリットが多いらしい。(参考記事:家を建てるなら断然、妻の実家より!実はメリットたくさん!理由を聞いた!)
その一方で、夫婦仲が悪くなると、思わぬトラブルに発展することもあるようだ。一般社団法人かながわFP生活相談センター理事 當舎緑氏にトラブル事例と、その対処法を聞いた。(リビンマガジンBiz編集部)
トラブルその1〜離婚編
(画像=写真ACより)
私が相談をお受けしたのは、3歳児を筆頭に、2歳、0歳の3人の子どもがいるAさん(女性)でした。Aさんの父親が「実家の土地は広いし、敷地内に家を建てて住んだら子育ても楽になるよ」と勧めてきたことから、今は実家の敷地内に建てた家に住んでいます。
親名義の土地の上に、夫名義の家が建っている状態です。住宅ローンは夫が支払っています。夫はまだ年齢も若く、給料も高くありません。そこで、頭金なしのフルローンで住宅資金をまかないました。
ところが、新居に引っ越し後、夫の浮気がわかります。しかも、これが初めてではないことも発覚しました。Aさんは「もう夫の顔を見たくない。離婚したい。」ということで、ご相談に来られたのでした。
この場合、問題となるのは離婚後の住宅ローンはどうなるのか、ということです。
離婚をする際は、婚姻期間中に築いた財産の清算を考える必要があります。
引っ越し費用も掛かっていますし、そもそも立て続けに子どもを出産していますので、子供関連の出費が多く、貯金もほとんどありません。
離婚をするのに財産を清算するといっても、妻は専業主婦ですので、夫婦の実収入は夫の給料のみでした。離婚時に清算される財産は借金の方が多くなってしまいます。一番の問題は、離婚後、だれが住宅ローンを払うのかということで、もし夫が住宅ローンを滞納した場合には、せっかく建てた家が差し押さえられることもありえました。
さあどうなるのでしょうか?
その前にもう一つ事例を紹介します。
トラブルその2〜相続編
(画像=写真ACより)
次にトラブルとしてご紹介するのは、50代のBさん(女性)です。
「母の葬儀が終わったのだが、相続の手続きはまだ終わっていないので、今後の流れを教えてほしい」とご相談にいらっしゃいました。
母の財産は「土地と少しの現金のみ」という典型的なご家庭でした。相続税の申告も不要となる程度の相続財産で、一見すると問題はないように見えました。ところが、よくよく話をお聞きすると、相続財産の土地の上には、Bさんの夫名義の家が建っていることが分かりました。
Bさんには妹がいましたが、結婚して外国に住んでおり、行き来はほとんどありませんでした。しかし「これまであまり助けてもらっていないので、これを機に少しの財産を分けてもらいたい」との希望を伝えてきたと、更に説明は続きました。
土地は最初に父が購入し、その後、父の相続の時には、母一人がその土地と預貯金全てを相続しました。妹も母が住んでいることを考慮し、父の死亡時には、父の財産がすべて母の財産になることを了承しました。しかし今回は事情が違うようです。母の土地にBさんが実際住んでいるからと言っても、実家を全て相続するのは、簡単に納得してくれそうにありません。
トラブルになる前に考えておくこと
その1のケースでは、家を購入する時に離婚を考える人はなかなかいないでしょうし、収入があるのは夫ですので、住宅ローンを夫が負担するのは自然な流れと言えます。
ただ、離婚後に住宅ローンを、専業主婦の妻が払うことも、親が住宅ローンを一括返済するということも不可能に近いでしょう。実家の土地に家を建てた場合には、離婚後、自宅を売却して婚姻期間の財産を清算する選択肢もなかなか考えづらいでしょう。
ですから、実家の土地の上に住宅を建設する時には「実家の親に贈与をしてもらう」「妻も働いて一定の住宅ローンを組む」などの妻分の持ち分の登記をしておく工夫など、普通の住宅購入よりも対策が必要だったといえます。
その2のケースでは、亡くなった母親に現金があれば、土地をもらう代わりに現金は妹にという選択肢がありました。父の相続時に、母親が財産のほとんどを相続すると、その後、母の相続時に財産はあまりないのに、もめるということがあります。
母親が亡くなったとたん、兄弟だけで話がまとまらないというのは、実はよくあるケースです。相続対策は、父の死亡時から始まっているという意識を持つべきでした。「うちには相続対策なんて必要ない」「実家に財産なんてほとんどないから相続なんて関係ないでしょ。」と考える人が沢山いらっしゃいます。でも「親の土地を売却して、売却代金を兄弟で分ける」ということが想定できない場合には、遺留分(*)程度の現金を用意しておくよう、親に勧めておくべきです。
生前であれば、現金の手持ちが少なくても、相続対策として生命保険の加入も一つの選択肢になったはずです。現金がなくても生命保険に加入し、母親の死亡時に、一定の現金を確保しておけば、Bさんは妹に遺留分程度の現金を渡すことで、遺産分割協議は円滑に進んだはずです。
*遺留分
相続人のために、最低限遺留しておくべき財産。(兄弟には遺留分はない)。
遺留分の割合は以下のようになります。
・ 直系尊属のみが相続人である場合
(例えば,配偶者や子がおらず,父母のみが 相続人となるような場合)
→ 被相続人の財産の3分の1(民法第1028条第1号)
・ それ以外の場合
(例えば,配偶者と子が相続人となるような場合)
→ 被相続人の財産の2分の1(民法第1028条第2号)
小規模宅地の特例にも注意
不動産を相続する際の対策に欠かせない、「小規模宅地の特例」にも触れておきましょう。
個人が相続などで取得した財産のうち、被相続人が居住していた宅地等は、条件を満たすことで一定割合が減額されます。要件を満たした親族が自宅を相続すると相続税が80%減額されます。
相続の際に、特例が適用される親族がそのまま居住するというのは、とても合理的なことだといえるでしょう。ただ、親と住んでいれば自動的にこの特例が適用されるわけではないので、注意が必要です。
二世帯住宅に居住していても、この特例は使えますが、構造上区分されていても、区分所有建物登記がされている場合は除かれます。二世帯住宅の場合、この特例を使うために登記の工夫が必要なのです。
いずれにせよ、子供を育てる上で実家暮らしを考えた時には、メリットのみに目を向けるのではなく、ダブルインカムで働くなど、できるだけ借金を少なくする工夫をすること。相続では将来起こりえる二次対策まで考えた、他の兄弟とのバランスをふまえた対策を怠らないこと、これらが必須だといえるでしょう。
親とお金の話をざっくばらんに話し合えるご家庭は少ないものですが、実家や敷地での暮らしを考える際には、家計の見直しも含めて親子でお金の話をしておくべきなのです。