「チクショー!」と奇声を上げる芸者姿のお笑い芸人。セクシーな衣装で世のお父さん方を悩殺(古い!)し、その後はバラエティーでも活躍したタレント。「あの人は今」といった番組で久方ぶりに顔を拝見すると、共通してこんなやりとりがあるものだ。
「最近は何で収入を得ているんですか?」
「不動産を持っていて、家賃収入があるんです」
かつてテレビを舞台に一世風靡(ふうび)したタレントやお笑い芸人。そう、世に言う「一発屋芸人」には、この不動産経営で食いつなぐ人が実に多いのだ。
なぜなのか、かつてモデル事務所に所属し、自身も芸能活動をしていたファイナンシャルプランナー NOBU氏に聞いた。(リビンマガジンBiz編集部)
不動産を愛し!不動産に愛された男…(撮影=リビンマガジンBiz編集部)
一発屋芸人が賃貸住宅経営や不動産投資をする理由は大きく分けて、2つあります。ずばり「税金対策」と「収入の安定化」です。順を追って説明しますね。
売れた芸人の有名税!?高額な課税。でもそんなの関係ねぇ?
まずタレント活動などで得られる収入が対象になる所得税は「累進課税制度」をとっています。つまり、所得が高いほど所得税率も上がります(住民税等含める)。
それまで薄給だった芸人が、ある年に大ブレイクして年収が4,000万円になった場合、課税税率は約55%となり、課税額は2,200万円にも上ります。特に住民税は前年の収入を計算され課税されます。人気が持続せず、その芸人が一発屋になってしまった場合、翌年の住民税を支払う能力があるかどうかはわかりません。
そういった高額な所得税の節税として始めるのが、不動産投資です。
これは、アパートやマンションといった建物割合の大きな不動産を取得することで、多額の経費を短い期間で計上して、タレント活動で得た利益を圧縮し、所得税住民税を節税するというものです。
例えば、年収4,000万超の高額所得芸人が中古建物の木造建物(22年の耐用年数を過ぎると簡便法により4年で減価償却可能)を、購入価格1億円で購入した場合。建物割合を8割とすると、8,000万円をわずか4年で償却できます。つまり、毎年減価償却2,000万円を損金計上できることになります。そうすると、年収4,000万超の所得税率は55%ですから、毎年2,000万円×55%=1,100万円もの税金対策となるんです。(不動産投資で収益が800万円を超えるようになった場合、法人化したほうが節税対策の幅はさらに広がります)。
芸人憧れの安定収入。夢見てゲッツ!投資物件
そして、よくご存じの通り、芸人はごく一部の大物芸人・タレントを除いて、需要がいつまで続くかわからない「収入の不安定」があります。
一時的に需要があり、その年は収入が増大しても、翌年には仕事がパッタリ、といったことは本当によくある話です。しかも、芸人は所属する事務所との契約は、ほとんどが歩合制。余程の有望株か実績のある芸人でなければ給与制は取っていません。しかも、給与制契約でも採算が取れなければ、契約解除になる可能性は大いにあり得ます。とにかく不安定なのです。
私も事務所に所属して、芸能活動をやっていました。ジャンルは違えど、同じ芸能の道を目指す仲間は多かったです。昔のことですが、当時は悪役劇団員をやっていた知人の相談に乗ったことがあります。役者を辞めて芸人になるよう勧めたのです。のちに、文字芸で話題を呼んだお笑いコンビなのですが、今でも給料は歩合制だとのこと(さすがに、劇団員時代のアルバイト生活より、はるかに稼いでいるみたいですが…。私のアドバイスのおかげかな!?笑。ちなみに売れてから、中目黒で焼肉をおごってもらいました)。
また、ほとんどの芸人が売れるまでの間(短くても5年~10年)、バイト生活をしています。都内某大手プロダクションでは所属タレントの98%は売れない芸人、大阪のお笑い専門大手プロダクションは漫才コンビの芸人予備軍だけでも500組ほどいるそうです。本当に厳しい世界なのです。
仮に売れたとしても、人気や健康状態によって、いつ以前と同じような経済状況になるかはわかりません。いつ若手に人気を奪われるかもしれない。まさに生き馬の目を抜く世界では不安が尽きないでしょう。
さらに、芸人はほとんどが自営業扱い(国民年金加入者)です。そのため65歳以降にもらえる年金は、一般サラリーマンよりはるかに少ないです(中には国民年金保険料を払っていない方も多いと聞きます。正確には「払えない」のかもしれません…?)。
平成27年の平均年金受給額は、厚生年金加入者は14万5,305円に対して、国民年金加入者は5万5,157円と1/3程度。さらに、厚生年金の受給権をもっていない人は5万826円です。(出典:厚生労働省年金局「平成27年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」)
そういった漠然とした不安から「不動産投資を始めて、安定した固定収入を得たい」と思うことは、よくわかると思います。既婚で、子供がいる芸人であれば、なおさらです。
往年の名コントに興じる弊社社員(撮影=リビンマガジンBiz編集部)
芸人の不動産投資は甘くない。でもやるぜぇ~ワイルドだろぉ?
このように、芸人が不動産投資を始める理由は、「節税対策」「安定収入」などです。しかし、私の知人でアパマン経営をしていた芸人は、空室が出てきたことと、自宅を担保に取られているという不安から、熟考の末に不動産を売却しました。
不動産投資はノーリスクではありません。現在の自分自身の状況や、今後の不動産市況などを考えると、手放すことも時には選択しなければならないのです。空室対策や修繕費計画など、やるべきことはたくさんあるのです。芸人の中には「気軽に不動産投資を始めて安定収入」と考えている人もいるかもしれませんが、それでは「ダメよ~ダメダメ!」なのです。