【連載記事】
はじめに、直近10年間の試験データを見てみます。
一般財団法人不動産適正取引推進機構発表による
この直近10年間の推移をみてどんなことが読み取れるでしょうか?
平成29年宅建本試験総評
その前に、まずは直近平成29年宅建本試験の総評から見直してまいります。平成29年の宅建試験は、昨年とほぼ同様に基礎基本事項からの出題や過去の出題項目からの出題も多く見られましたが、一方で新規出題項目等からの出題も見られ、得点しやすい問題と得点しにくい問題がバランス良く織り交ぜられた出題構成となっていました。
また、例年「問1」で出題される民法の条文規定問題が「問4」で出題される等、例年と異なる順序で出題したり、比較問題等出題の仕方を工夫して受験生にゆさぶりをかけている点が平成29年の特徴の1つと言えます。
基礎基本事項及び過去出題項目を確実にした上で、予想出題項目からの問題や新規出題項目からの問題等への問題対応力と、ますます多様化する出題形式・出題表現に対応できる応用力をどれだけ身につけ、得点を積み上げられたかが合否を分ける結果となりました。また、正誤の個数を選ばせる「個数問題」は、昨年と同様6問出題され、その全てが宅建業法からの出題(昨年は権利関係1問、宅建業法5問)となり、特に宅建業法の知識の正確性が引き続き要求される試験となっています。
直近10年間の試験データから見えるもの
まず、毎年の合格基準点はその年の受験生の出来具合により変動する「相対評価」であります。つまり、毎年決められた点数以上の得点者を一律に合格させるという「絶対評価」ではありません。従って、単純にその年の受験生全体の出来が良ければ(難易度が易)合格基準点は上がり、出来が悪ければ(難易度が難)合格基準点は下がります。
しかし、「合格基準点」はあくまでも結果論であって、合格を目指す場合の意識すべき数値は「合格率」であります。
「近年の宅建試験は難しくなった・・・」とよく言われますが、いつから?どうして?宅建試験は「難化傾向」になったのか?
特徴的な年は平成22年の合格基準点36/50点、さらに翌年の平成23年も同様に36/50点である点です。実は、平成22年の試験問題の形式面・内容面ともに前年までの平成21年と大きく変わっていません。つまり、問題のレベルは特別易しくもなく、難しくもない例年通りの難易度でした。それにも関わらず7割(35点)の得点でも不合格となっています。この年と翌年の2年連続で、それまでの「宅建=7割35点」の言われ方が瓦解したのです。
理由は様々ありますが、ここでは大きく2点挙げます。
まず1つ目には、この頃から試験実施団体により宅建業界に質の良い合格者を送り込みたい思惑が「合格率の絞り込み」に影響されています。2つ目には、この頃から受験生側のレベルが格段に上がってきています。
では、理由の2つ目にフォーカスしてみます。
当時の各予備校での使用教材、講義内容、市販の教材などはほとんど変わっていないにも関わらずなぜ受験生のレベルが上がったのか?
・インターネット環境が充実し、あらゆる情報が容易に入手出来るようになった
・就職、転職に向けて本気で学習に取り組む受験生が増えてきている
・上位資格の受験生が宅建試験の受験にさらに多く流れてきている
一般的に過去にも現在においても、試験実施団体ではゴールである合格基準点は32~33点近辺で落ち着かせるべく作問しています。
しかし、平成22年は試験実施団体の予想を大きく覆し、受験生の出来が非常に良かった…。36点で合格率15.2%なのです。
もしも合格基準点を35点に引き下げたならば、合格率はさらに跳ね上がり、宅建試験という国家試験の体裁が取れなくなってしまいます。
基準は「合格率」を優先させるため、結果的に36点であったまでです。しかし、それまでの宅建試験の通説が通用しなくなった結果だったのです。この平成22年の結果を踏まえ翌年平成23年の出題内容は多少得点しにくい問題を増やしてはいたのですが、やはり昨年同様に試験実施団体の予想を大きく覆すほどに受験生全体の出来が良く、合格率16.1%で36点。
もしも35点にしたならばやはり合格率で宅建試験の体裁が取れなくなってしまうのです。つまり、平成22年、23年は結果的に合格基準点が「36点になってしまった」という、試験実施団体による作問の大失敗と言っても過言ではないのです。
受験生のレベルUPが予想以上に捗っていることを見誤ったのです。この2年間の結果を踏まえて、翌年平成24年宅建本試験から急激に難化傾向が始まりました。この年の難化は各予備校も想定の範囲内でしたが、それ以降毎年のように難化傾向に著しく拍車がかかり、平成27年が宅建試験では過去最高の難度での出題となったのです。
具体的に何がどう難しくなったのか、合格するためにはどの様に対策を講じるべきかは次回の記載に委ねます。再認識しなければならないことは、平成21年までの宅建試験と平成22年からの宅建試験では大きく変わってきています。
以前と以降とでは、ネット環境の充実により独学者でも十分な情報収集が可能、予備校での質の良い講義・教材が充実し学習環境が充実、受験生の就職、転職、昇進等の受験動機が明確であり本気で努力している。。。
この様な背景により、試験実施団体でも平成24年以降からは試験問題の形式面・内容面ともに従来とは全く違う作問となっている事を認識しなければならないでしょう。
合格を目指すためには「正しい学習方法」と「継続的努力」が極めて大切です。
既に過去問至上主義の様な学習では到底本試験には対応できない内容に変わっております。そして意識するべき数値としては「合格率」が大切です。受験者数全体の内、トップ15%に入る事を目指す競争試験です。試験実施団体でも想定しているのが、「トップ15%=毎年の合格者約3万人を確保」が宅建試験の合格圏です。
「合格基準点」は結果論ですから意識する必要はありません。
宅建試験は決して難関資格ではありませんが、油断をすれば何年経っても合格に及ばない点が厳しい資格試験と言えます。
しかし、しっかりと「正しい学習方法」で「継続的努力」を実行すれば、年齢・学歴・職歴に全く関係なく合格を果たせる資格試験です。私自身約10年大手資格試験予備校で講師をしながら大勢の受講生様とご一緒していますが、まさに年齢・学歴・職歴に全く関係なく、毎年努力している方から合格を果たしていることは既成事実ですし、その様に断言できます。
次回は、宅建試験の内容を科目別に具体的に見ながら、取り組み方や注意点、独学で学ぶコツなどを記載します。
【連載記事】
(平成30年度の受験申込の受付期間について)
☆試験実施団体 一般財団法人不動産適正取引推進機構
☆インターネット申込み 平成30年7月2日(月)から7月17日(火)21時59分まで。
☆郵送申込み 平成30年7月2日(月)から7月31日(火)まで。
☆受験料 7,000円
☆試験日 2018年10月21日(日) 午後1時から午後3時までの2時間
(登録講習修了者は、午後1時10分から午後3時までの1時間50分)
☆合格発表 平成30年12月5日(水)
【執筆協力】
FFP不動産コンサルティング(株) 代表取締役
【 現在の所属・加入団体・等 】
■不動産業(自営業)
・公益社団法人 全日本不動産協会
・公益社団法人 不動産保証協会
・公益財団法人 不動産流通推進センター
(公認 不動産コンサルティングマスター)
・NPO法人 日本ファイナンシャル・プランナーズ協会
・一般社団法人 家族信託普及協会
・証券外務員
■大手資格試験予備校(宅地建物取引士試験合格講座講師)