公益財団法人不動産流通推進センターの調べでは、2014年の不動産業の法人数は30万6280で、毎年増加傾向だ。コンビニエンスストア上位7社の全国店舗数の合計5万5612(2017年3月)と比較しても非常に多いことがわかる。群雄割拠の不動産業界において、独自のビジネスモデルや仕組みを持っている「面白い」不動産会社を、寿FPコンサルティング株式会社 高橋成壽代表に聞いた。(リビンマガジン編集部)

不動産会社と一口に言っても、実は色々な分野に分かれています。お客様が一般の会社や個人なのか、或いは不動産会社なのか。賃貸物件を扱っているのか、売買用の物件を扱っているか。他にも一般には見えてきませんが、対不動産会社との取引だけを行っている会社もたくさんあります。

不動産会社のイメージは未だに、良いものではありません。「高い物件を売られそう」「上手いこと言われて買わされそう」など、当の不動産会社自体も感じているのです。そんななか、興味深い取り組みを行っている不動産会社があります。京浜急行蒲田駅の駅近くにある、陽徳不動産です。代表は二代目経営者の田辺和弘さん。

聞いたことない会社?当たり前です、聞いたことのある会社は取り上げません。ただ、陽徳不動産にはこんな逸話があります。税理士業界で有名な資産税に強いとある事務所があります。そこは、一般的な税理士事務所では対応できない案件や、金融機関やハウスメーカーの言いなりでアパートマンションを建て自己破産寸前の方の駆け込み寺になっている事務所です。その税理士事務所が「不動産会社を紹介して欲しい」と相談を受けた際、紹介されるのがこの陽徳不動産の田辺社長なのです。

それは何故か?おそらく、およそ不動産会社とは思えないやわらかな物腰。売りつけようとしない人柄。自らも勉強熱心であり、クライアントの期待にこたえようとする経営姿勢があります。不動産コンサルティングマスター、相続対策専門士、宅建マイスター、相続アドバイザー協議会認定アドバイザー、CPM®といった資格を2013年からの4年間で取得されています。

紹介元の税理士事務所の品格を落とさない節度ある対応を保ちながら、顧客志向の提案ができるのです。私も、クライアントから不動産関連の相談があると、田辺社長にお願いします。

陽徳不動産は、もともと不動産管理を中心に運営しており、蒲田を中心としたオーナーのアパートやマンションの一棟管理を任されています。田辺社長は、今でこそ二代目として順調に見えます。しかし、その陰には並々ならぬ努力がありました。

賃貸経営において管理会社の経営者交代は死活問題です。先代社長のキャラクターを好んで管理を任せていたオーナーは、管理会社の事業承継とともに管理会社をチェンジすることがあります。一方で、オーナーの世代交代も管理会社にとっては死活問題です。古い世代と言っては失礼ですが、高度経済成長を経験したオーナーは、ある意味「お殿さま」であり、管理会社は「御用聞き」であるという認識の方々も多くいます。古い世代のオーナーから、インターネットで情報収集し、勤務先の会社でもバリバリ働いているような若い後継ぎにバトンが渡ったとき、古い手法の管理会社はバッサリ切られてしまうのです。

社会背景としては人口減少が始まっており、空室率も高止まりするなか、賃貸経営は構造不況と言っても差し支えないような環境です。そんななか、田辺社長が見つけたヒントは、このオーナーの世代交代にありました。

先述したように一般的な不動産管理会社は、オーナー御用聞きスタイルが多く、入居者の決まらない物件に対しては、「家賃を下げましょう」「リフォームしましょう」という提案をします。しかし、オーナーが判断する際にコストの「見える化」をしていないので、オーナーの選択肢が必ずしも経済的に合理性のあるものとはなりません。「何となく家賃を下げてみた」「何となくリフォームしてみた」そんな感覚です。結果、入居者が決まればいいのですが、決まらなければ管理会社へのクレームになります。

しかし、今時の若い次世代オーナーは違います。合理的な判断をするための情報が欲しいのです。ですから、陽徳不動産では、そういったオーナー向けの勉強会を開催することにしました。田辺社長の手腕が発揮されるのが、この勉強会です。

不動産管理会社多くが、オーナー向けのセミナーや勉強会を開催しています。表向きはオーナー向けのセミナーなのですが、実はリフォームやリノベーションなどを受注するための情報提供であるなど、セールス目的のケースが多いのです。

しかし、陽徳不動産は自分たちが講師にはなりません。

田辺社長自身が様々なセミナーに参加し、登壇してもらう講師を厳選します。講師には出演料を支払い、自社商品やサービスを売り込むようなセミナーは断っているとのこと。勉強会では、講師に専門的な話をしてもらったあと、オーナー同士のディスカッションの時間を設けています。

オーナー同士がお互いの忌憚ない意見を出し合います。ときには管理会社への苦言や、他の管理会社の情報が聞けたりします。そういったフィードバックや競合他社の情報を、陽徳不動産はうまく活用しているのです。結果として、オーナーがオーナーを呼び、2016年11月から計4回の勉強会で2棟の管理物件を預かるという、良い循環が生まれています。


勉強会の様子 (画像提供=陽徳不動産)

さらに田辺社長は米国の資格であるCPM®(米国公認不動産賃貸経営管理士)の資格を持っています。この資格を活かし、不動産管理についての提案が数字を活用することで、よりリアルにオーナーに伝わっているようです。

今後は、管理地域を拡大する意向はなく、あくまでも地元密着志向で進んでいくそうです。蒲田の地で、顧客志向の取り組みを続ける陽徳不動産と田辺社長から目が離せません。

 
  • line
  • facebook
  • twitter
  • line
  • facebook
  • twitter

本サイトに掲載されているコンテンツ (記事・広告・デザイン等)に関する著作権は当社に帰属しており、他のホームページ・ブログ等に無断で転載・転用することを禁止します。引用する場合は、リンクを貼る等して当サイトからの引用であることを明らかにしてください。なお、当サイトへのリンクを貼ることは自由です。ご連絡の必要もありません。

このコラムニストのコラム

このコラムニストのコラム一覧へ