「相続」を「争族」にしないために
「うちは、もめるほどの財産がないから……」そう多くの方がおっしゃいますが、「相続」「争族」になってしまうのには必ずしも遺産額の大きさは関係しません。裁判所の資料によると、平成27年度の遺産分割事件8,141件のうち、遺産額が5,000万円以下のものが75.9%を占めています。遺産相続でもめるのは、何も数億単位の遺産がある場合に限られたことではありません。
むしろ、財産が一戸建ての家のみであるなど分割しづらい不動産がメインだったり、家業を営んでいたり、兄弟姉妹のうちの誰か一人が親の最期の面倒を見ていたり、兄弟姉妹のうちの誰かが家を建てるときに親から多額の資金を出してもらっていたり……といった場合に、もめることが非常に多いのです。
また、被相続人に離婚歴があり前妻と後妻の双方に子どもがいるケースや、内縁の夫や妻がいるケース、他の相続人の遺留分(法的に保護されている最低限の相続持分)を侵害した遺言が残されているケースでも、同様にもめる可能性が高くなります。
一般に「相続対策」というと、相続税の「納税資金対策」や「節税対策」ばかりを考えがちですが、それ以上に重要な3本目の柱として「遺産分割対策」が挙げられると思います。
これは相続税の納税義務のあるなしに関わりません。愛する家族が自分の死後、互いにいがみ合うことのないよう、遺産分割の基礎的な事項について知っておきましょう。
遺産分割には4つの方法がある
相続が発生して、遺言がない場合や、遺言があっても遺言通りに財産を分けない場合には、被相続人の残した財産を誰がどのように相続するか、相続人同士で話し合いをして分けることになります。そのための相続人全員での話し合いを「遺産分割協議」といい、その結果を文書にまとめたものを「遺産分割協議書」といいます。遺産分割の内容は相続人同士で自由に決めることができますが、相続人のうち一人でも欠けていれば無効となります。
遺産分割協議書は不動産の名義変更や預貯金口座の解約、相続税の申告などに添付書類として必要なものです。遺言がなく、遺産分割協議書を作らなければ、原則通り「法定相続分」で相続したことになります。
遺産分割の方法は、主に「現物分割」「代償分割」「換価分割」「共有分割」の4つがあります。これらを理解しておけば、遺産分割が進めやすくなるはずです。それぞれを簡単に説明すると、以下の通りです。
現物分割……土地は長男、預貯金は母親というように、特定の財産を特定の相続人に分ける方法です。一つの土地を物理的に分割する場合もこれに含まれます。最も多く用いられる基本的な分割方法です。
代償分割(もしくは代物分割)……例えば遺産が家業を行っている不動産だけといった場合に、長男一人がその不動産を相続する代わりに、次男にはその不動産に見合う価値の代償金(代物の場合は物)を支給する分割方法です。
換価分割……不動産等の一部(もしくは全部)を売却して得た代金を分け合う分割方法です。独居していた親が亡くなり、誰も住む人のいなくなった家屋がある場合などによく用いられます。
共有分割……遺産の一部または全部を、相続人が共同で所有する方法です。不動産を共有した場合、相続人はその不動産をそれぞれの持ち分に応じて所有することになります。
遺産分割の際は上記の4つうちのいずれか、あるいは複数の方法を組み合わせて行うわけですが、安易に判断してしまうと、後々思わぬ落とし穴に遭遇することもありますから要注意です。
次回はそれぞれの分割方法のメリット・デメリットについて詳しく説明していきたいと思います。