皆様、こんにちは。相続コーディネート実務士の曽根惠子です。
「相続相談の現場から」として、相談に来られたお客様の事例をご紹介いたします。
今回は80代のUさんが、「自分の相続手続きについて」相談に来られました。
〇配偶者の特例を活かして自宅を妻には贈与
Uさん(80代・男性)は妻(70代)と2人暮らしです。40代、50代の娘2人は、結婚して別に暮らしています。
長女は夫と息子が一人、次女は夫婦だけで子どもはいません。
まだ、妻も元気なので、とくに娘夫婦に頼る必要もなく、当分は夫婦ふたりの生活をしていくつもりです。
Uさんは金融機関で仕事をしていたことから、法律にも関心があり、以前より税金については勉強をしていました。
バブル経済で不動産の評価が高くなった頃、配偶者の贈与の特例を生かして妻に居住用財産を贈与していました。
婚姻20年以上の配偶者に居住用の不動産を贈与する場合、2000万円までは贈与税がかからないという特例です。
この特例を利用して自宅不動産の2分の1は妻名義となりました。
〇対策しているが、改正後が気になる
そうした対策をして安心と思っていたのですが、昨年、相続税が変わったことから、
いままでの対策では足りないかもしれないと本を読み直し、相続税はどれくらいか、費用はどれくらいか、
確認のためにとひとりで、相談に来られました。
Uさんが読まれた本は、「いちばんわかりやすい相続・贈与の本」(成美堂出版)です。
Uさんの財産を確認してみると、自宅マンション3000万円と預貯金、有価証券を合わせて、
相続評価で6000万円となりました。
配偶者と娘2人だと基礎控除は4800万円で、「相続税quick診断」にて計算すると、
相続税は120万円となりました。
配偶者の特例や自宅の小規模宅地等の特例を計算すると納税の負担はほとんどありません。
この結果を伝えるとUさんは一安心されました。
〇共有の自宅を売って、単独名義の購入は失敗?
売却した自宅は、贈与特例を活かしてUさんと妻の共有名義にしていましたので、
売却して得たお金はその割合の2分の1ずつ取得します。
その後、現在の住まいのマンションを購入して、住み替えていますので、
購入も2分の1の割合で共有しておくのが普通です。
ところが購入の際、Uさんは妻の名義を入れることを失念したというのです。
結果、現在の自宅マンションは、Uさんの単独名義になってしまいました。
買い替えのときに、適切なアドバイスがなかったのが残念なところですが、居住用の贈与特例は一度しか使えず、
いまからでは、もう一度贈与することはできません。
前の自宅の売買代金の割合で、現在の自宅を購入すれば、妻の持ち分は2分の1となります。
この割合で購入していれば、現在のUさんの自宅の評価は1500万円となり、財産の総額は4500万円です。
こうしておけば、相続税の基礎控除4800万円の範囲内となるため、
Uさんの相続のときには申告も納税も不要になるところでした。
〇妻の相続知識では不安。専門家の連絡先を残しておきたい。
それでも配偶者は相続税の申告でも、税額軽減の特例が残されているため、相続税の負担は掛かりません。
まずは、妻にすべてを相続してもらい、納税の負担がない方法で、渡したいと考えています。
娘2人は仕事をしており、収入もあるので、生活に不安はなさそうですし、自宅を購入しているなどで、
Uさんの財産はあてにしなくてもいいと言っていて、遺産分割でもめることはなさそうです。
Uさんの残る不安は、「自分はわかっているが、妻は何もわからない」ということと、
収入のない妻が不安なく生活できるようにしておきたいということです。
そこで、自分が他界した後、妻でも手続きの仕方がわかるようにしておきたいと当社の本や会社案内を封筒に入れて、
妻がわかるように残しておくと言って、安心して帰られました。
当社もUさんの個人情報や相談履歴は記録してあります。
Uさんの相続は、これから何年も先になると思いますが、
本やパンフレットや封筒にある連絡先が役に立つ事を期待したいところです。
◆ 相続コーディネート実務士から
「自分はわかっているが、残された家族が困らないようにしておきたい」
と言われる方も多くいらっしゃいます。
一緒に相談に来て頂ければよしですが、サポートしてもらえるところの連絡先を
残しておくだけでも、違うと言えます。
◆ポイント
・自分の相続人に、内容を伝えておく
・頼める専門家を選んで連絡先を残しておく
・配偶者とは財産を分けておいたほうが節税になる