みなさま、こんにちは。相続コーディネート実務士の曽根惠子です。
「相続相談の現場から」として、相談に来られたお客様の事例をご紹介いたします。
今回は80代のTさんが、自分の相続について相談に来られました。
〇 家業を継いだ長男が、不動産も相続してきた
Tさん(80代・男性)は、家督相続の時代ではありませんでしたが、40年前に父親が亡くなった時、
長男として、不動産などの財産の大部分を相続しました。
Tさんは6人きょうだいの長男で、2人の弟は会社員として他の仕事について家から離れており、
姉と妹も嫁いで家を出ていますので、結果、家業の会社と不動産を相続するのはTさんでした。
また、ずっと両親とも同居してきましたので、きょうだいのなかでそうした暗黙の了解がありました。
〇「相続税quick診断」で1500万円と算出
それから40年。Tさんも80代となり、今度は自分が親として、子供に相続させる立場になりました。
自分が父親から相続したときと同様に、会社はすでに代表を退き、長男に引き継ぎが終わっています。
また、長男家族と同居し、次男と長女は家を離れましたので、以前と同様になんら問題がないと思ってきました。
けれども、それでは不安だと、40代の長男から言われて、親子で相談に来られたのです。
長男からすれば、Tさんがなにも相続対策をしないことが不安だというのです。
Tさんの財産は不動産、預貯金、同族会社の株などです。
相続人は妻と長男、長女の4人で基礎控除は5400万円です。
財産の評価をし、「相続税quick診断」をしてみると相続税が1500万円かかる計算になりました。
〇不動産は課題だが特例は使える
不動産は20筆ほどあり、空き地のままで利用する予定がない土地、無道路の土地、
貸宅地で収益が低い土地など、いくつかの課題が見つかりました。
利用しない土地は、売却して整理したほうがいいとアドバイスしましたところ、
Tさん親子もそうしたいという考えでした。
自宅の土地は長男が同居しており、小規模宅地等の特例が使えますので、
80%評価減できるので、納税はまだ減らせます。配偶者の特例も使えるとすれば、
Tさんの時の相続税は納税がいらない選択肢があります。
よって不動産の売却などは時間をかけていい買主が現れるのを待ってもいいというアドバイスもしました。
〇会社に貸付金が残っている
それよりも、課題と言えるのは、会社にありました。
ひとつは、会社への貸付金が5700万円あり、これも相続財産になるのです。
この貸付金がない場合の相続税は300万円ほど減額します。
Tさんに聞いてみると、会社からの返済は期待していないとのこと。
会社の業績は悪くないのですが、現金返済をするほどの余裕もありません。
よって、会社の経営状況によって、債権放棄、あるいは債権の贈与にて解消することをお勧めしました。
しかし、法人は債権免除益を得ることで法人税を負担するようになるため、
経営が赤字のときに処理をするなど、あるいは経費を増やしてバランスを取るなどの工夫が必要になります。
〇弟2人も株主になったまま
2つ目の課題は、会社の株主にTさんの弟ふたりが入っていることです。
先代の相続財産として分けたのでしょうが、今後のことを考えると、
会社の経営者である息子家族に集めたほうがいいでしょう。
株評価が低いうちに、弟ふたりから、息子へ贈与をしてもらうことをアドバイスしました。
〇揉めないためには遺言書
こうして、会社の貸付金や株の贈与などを受けて、財産の整理、節税対策のめどをつけたあとは、
遺言書も必要だということも説明しています。いのまところ子ども3人は円満だということですが、
あとを子どもたちに託すということでは、Tさんの意思は残りません。自分の意思で節税対策を決断し、
公正証書遺言を作成してもらい、息子さんの期待に応えて頂くべく、サポートしていきます。
◆ 相続コーディネート実務士から
長年、帳簿に残っている「貸付金」。同族会社の経営者ならよくあることです。
自分が運営する時代なら、回収をめざせばいいのですが、退いたなら「債権放棄」が
節税になります。
◆ポイント
・法人の貸付金も財産になる。返済の必要がない場合は債権放棄すれば節税になる。
ただし、法人は利益になるため、法人税の負担が発生するので注意する。
・経営者以外の株主からは贈与を受けるか、買い取って整理しておく。