今月9日、静岡県磐田市にあるアパートの一室でコンロ付近が約20㎡焼ける火災があった。(朝日新聞デジタル)出火当時、ペットの犬だけが部屋におり、状況から犬がコンロに火をつけた可能性があるという。このように、ペットが原因の火災が発生した場合、火災保険は適用されるのだろうか。家計に関する保険や住宅ローンに詳しいFP OFFICE 海援隊 重定賢治代表に聞いた。(リビンマガジンBiz)
(画像=リビンマガジンBiz編集部)
結論から言うと、もちろん支払われます。
読者のみなさんはきっと、いずれかの損害保険会社で、お住まいに火災保険をかけていることと思います。
「でも、火災保険ってどんな場合に補償されるんだっけ?」
こんな方、意外と多くないですか?
細かい話ですが、損害保険の場合は“補償”の漢字を使用します。
これに対し、生命保険の場合は“保障”です。
“補償”は、“補い、償う”、だから損害保険。
“保障”は、“障り(さわり)を保んずる(やすんずる)”、だから生命保険。
漢字を分解することで、保険のことが少し理解しやすくなります。
文字通り火災保険は、自宅が火事になった場合に建物や家財の被った「損害」を補償する保険です。でも、実を言うと、補償されるのは火事による損害だけに限られません。落雷や破裂・爆発、風災・雹災・雪災、水災、建物外部からの物体の落下・飛来・衝突、漏水などによる水漏れ、騒擾・集団行動にともなう暴力行為、盗難による盗取・損傷・汚損、その他不測かつ突発的な事故など、考えられる住まいの損害が補償されるようになっています。
今回のように、「ペットの犬が原因で火事が発生した」というケース。
犬がやったことだから保険金は支払われないだろう…と思ってしまいがちです。
私が務める事務所では、損保ジャパン日本興亜損害保険会社の保険商品も取り扱っています。
このような案件は非常に頻度の少ないレアケースであるため、念のため、確認したところ「支払われる」との解答をいただきました。なぜでしょうか。
火災保険が支払われる理由
ひとつ目の理由は、「わざとではない」からです。
人間がわざと(=故意に)火を点けたなら放火になるので、保険金は支払われません。
でも、犬には人間のような意思はありません。
つまり、わざと(=故意に)には該当せず、単純に「うっかり失火した」ということになるので、このようなケースでも火災保険から保険金が支払われます。
ふたつ目の理由は、「火災保険は、建物や家財が被った損害を補償する保険」だからです。
つまり、「モノ(建物・家財)」の損害額を“補う”ことを目的にした保険なので保険金が支払われます。
これは、自動車保険にある車両保険と同じ考え方です。自動車保険にある車両保険では、たとえば脇見運転で電柱に車をぶつけてしまった場合、修理にかかった費用が“補われます”。
このように、「モノ」の損害額を“補う”ための保険を、別名「モノ」保険と言います。
隣家が火事になり自宅が類焼した場合は、火災保険はおりる?
話のついでに、それでは次のようなケースではどうでしょうか。
隣の家が火事になり、自宅が類焼した。
火災保険から保険金は支払われますか?
〔答え〕
支払われる。
前述したように、火災保険は、建物や家財が被った損害を補償する保険です。
つまり、モノ保険であることから、保険金は支払われます。
でも、隣の家の人にその損害を賠償請求することはできません。
自分で加入している火災保険から建物や家財の被った損害額を“補償”してもらうことになります。
「えっ、これっておかしくない?隣の家からのもらい火なのに、その損害額を請求できないって…」
こう思うのも当然です。自分の犯した“うっかり”ミスじゃないですもんね。自分の火災保険じゃなくて、隣の家の火災保険で“償われる”べきって思っちゃいます。
これまで、損害を“補う”と表現していましたが、ここでは“償う”を使用しました。もらい火(類焼・延焼)の場合は、“補償”のうち、“償う”の意味で考えるとわかりやすくなります。
隣の家の失火が原因で、自分の家が火事に巻き込まれた場合、相手(隣の家の人)に対して損害賠償の請求をすることができません。
なぜでしょうか。
隣家の火災の類焼で、損害賠償請求ができない理由
これを理解するために、少し難しくなりますが、法律のお話をします。
損害を賠償する責任については、民法の第709条に定められています。
「故意または過失によって他人の権利を侵害したる者はこれによって生じたる損害を賠償する責めに任ず」
つまり、「わざと(=故意)」や「うっかり(=過失)」で、他人に迷惑をかけたときは、その損害を賠償する責任があるということです。法律を知らなくても当たり前のお話です。
でも、損害賠償責任については、ひとつだけ例外があります。
『失火の責任に関する法律(失火責任法)』
「民法第709条の規定は失火の場合にはこれを適用せず。但し失火者に重大なる過失ありたるときはこの限りにあらず」
失火の責任に関する法律、いわゆる「失火責任法」では、損害賠償責任を規定した民法第709条が適用されません。
つまり、隣の家の人が“うっかり”火事を起こし、自宅が類焼しても、相手に対し損害賠償を請求することができないということです。
この理由は、次のふたつです。
①日本では、民家が立ち並ぶ地域はお隣同士が狭い。
②これに加え、木造建築物が多い。
このようなことから、火事が起こると、火が隣近所に広がりやすくなるため、お隣の“うっかり(=過失)”による失火については、損害を“償う”よう求められても、経済的な負担がより多くかかる可能性があることから、「損害賠償責任はない」と明治時代に決められました。
確かに日本は、昔から木造の家がひしめくように建ち並んでいる地域が多いので、言われてみればなるほどと思います。
損害賠償ができるかは、その火事が「重過失」か「軽過失」か
ただし、失火責任法にある「重大な過失」があるときは、損害賠償を請求することができます。法律上の言葉はややこしいですね。「過失」とは、“うっかり”のことです。
“うっかり(=過失)”にも程度があって、「重いうっかりミス」と「軽いうっかりミス」があります。
前者を「重過失」、後者を「軽過失」と言います。
〔重過失の失火〕
・寝タバコが原因での火事など
〔軽過失の失火〕
・状況によりますが、ストーブの消し忘れによる火事など
このように、火災保険では、その内容を理解する場合、“補償”という漢字をふたつに分解し、“補う”と“償う”の両面から考えるとよりわかりやすくなります。
ペットが原因の火災事故はどういったものがある?
最後に、ここ近年のペットブームによる火災事故について見ていきます。
一般財団法人「消防防災科学センター」によると、動物を原因とする火災事故がこれまでと比べ多様化しているそうです。
■プレーリードッグによる火災。
室内で放し飼いしていたプレーリードッグがコンセントにつないでいたコードをかじってしまい、近くに散らばっていた紙くずに着火し、火事になったケース。
■イグアナによる火災。
飼育ケース内に設置していた保温用のスポットライトが落下し、下に敷いていたペット用のシートに接触したため、その熱により出火したケース。
こんなことある?!って思ってしまいますが、ペットの種類が増えると、それにともない火災事故のケースも増えるというのは、なるほどうなずけます。
ちなみに、これらの火事でも火災保険から保険金が支払われます。
意外と忘れがちな火災保険の補償内容。
今回は、飼っているペットが原因で火事が発生したという実際の例から、火災保険の補償内容について見てきました。
“補償”の二文字、“補う”と“償う”。
この違いを理解することで、火災保険についての“わからない”がグッと少なくなります。
この機会にちょっとだけ記憶にとどめておいてくださいね。