“健康長寿時代” 不動産と僕らの時代。
今回は「中古住宅のこれから」についてお伝えしていきます。
連載をスタートしてから、個人的に住まいについて今まで以上に考える時間ができました。
「住まう」とは、すなわち「自分が生きる、その先の人生まで考えること」。
つまり、人生の歩みの出発点と終着点が一本の線でつながっていて、その線上にいろんな人との関わりがあり、幸福度が高まっていく場を設定する行為。
これが住むという意味なのかもしれないと思うようになりました。
幸福度については、ここ近年、国の政策面でも大きく取り上げられています。
ブータン国王が来日し、国民総幸福度(GNH:Gross National Happiness)という指標が注目されるようになりました。
これから我が国では、成熟型社会という言葉で表現されているように、お金でもなく、モノでもなく、地位や名誉でもなく、もっと大切な何かに幸せを感じる、つまり価値が置かれる世の中になっていくと言われています。
住まいについても、かつてのマイホーム神話のような夢の産物ではなく、より現実的に幸せを求めるひとつのツールという位置づけに変貌していくことでしょう。
「住まう」という行為が個々人の幸せを実現するためのツールにすぎないとするならば、第8回「子育て世帯とマイホーム ⑤購入のポイント(新築? or 中古?)」でお伝えしたように、住宅を選ぶ際は、新築がいいのか、中古がいいのかは、価値尺度としてはほとんど意味をなしません。
なぜならば、その前に「どのような人生を過ごしたいのか」に人々の関心が向いてくからです。
そうは言っても、現金な話は必要不可欠。
先立つものがなければ「住まう」という幸福度を満たすことができなくなります。
つまり、重要なことは、幸福度の追求と現金な話をいかにバランスさせるかということですが、そこで出てきたのが「中古住宅」を「リノベーション」して「住まう」という発想です。
個人的にはこれが好きなんですが、「住まいを自分なりにカスタマイズできる」=「自分で自分の人生をコントロールできる」ようにも思え(必ずしも100%自分で自分の人生をコントロールすることは不可能ですが)、これがしやすくなるからこそ、生活をベースに、家族のこと、地域のこと、この国のことを考え、自分なりに行動してみようと、より思えるようになるのではないか、そんな気がしています。
国は、住まいの発想を、これまでの新築住宅重視の政策から中古住宅を流通させる政策に方向転換させています。
高齢化社会が深まっていくという問題と子育て世帯の所得環境がかつてと比べ悪化しているという問題を現実的に解決する策がこれですが、時代の流れを受け止めていると、こうなるのも必然的なことかなと思えます。
よく言われる「空き家問題」は高齢化社会の副作用とも言えますが、高度経済成長期に分譲された家屋が老朽化し、手放されずに放置され続けている危険性が指摘されています。
つまり、防犯・防災面が懸念されているということですが、空き家をどのように活用すべきかに政策の力点が置かれるようになり、そこで出された空き家問題のひとつの答えが「リノベーション住宅」と呼ばれるものです。
リノベーション住宅は、言い換えれば、ちょっとオシャレな中古住宅。
人々の「住まう」という幸福度をより満たし、また、価格面でも新築住宅を購入するよりも安く済みます。
子育てをされている若年世代にとっては、より「economy」であり、より「ecology」。
環境先進国を目指している我が国にとっても、一定の基準を満たす必要があることから、新たに住宅を建てるよりも、既存の住宅を活かす方が国の利益に合致するとういことです。
“健康長寿時代” 不動産と僕らの人生。
歴史をたどっていくと、戦後の高度経済成長期からバブル期までの日本は、本当はイレギュラーな時代だったんだと思います。
冷静に考えれば、この国にはもともと中古住宅という住まいの価値観が存在しました。
日本人の心の中には、モノを大切に扱うという発想が当たり前のように存在するので、建てた家を大事に使い、後世に残し、伝えていくという考えが普通にありました。
このもともとの日本人の考え方を再認識し、「住まう」という幸せについてもう一度見つめてみようというのが、これから始まる中古住宅に関わる国の施策です。
次回は、国土交通省が主導している「中古住宅」にまつわる政策について見ていきたいと思います。
⇒“健康長寿時代”不動産と僕らの人生(10)子育て世帯とマイホーム⑦購入のポイント(中古住宅に関する国の政策)