いつもの自宅がなんだか別の空間に思えたことがありませんか?
「不動産ショート・ショートの世界」では、あなたをほんの少しの時間だけ、不思議な世界にお連れいたします。
―不動産ショート・ショート仲介人
男の趣味は、事故物件サイトを見ること。
職業は新聞記者だった。
ある夜、新しい事故物件サイトを見つけた。
見てみると、建ったばかりの新築マンションで飛び降り自殺が起きていたらしい。
―日付は今日だ!
「何だこれ、自宅のすぐ近くじゃないか?」男は声を上げた。
新聞記者である男が、こんな近所で起きた自殺を知らないのはおかしい。
すでに時間は深夜だったが、かまわず男は部屋を飛び出し、現場に向かった。
走ると、2、3分で現場のマンションに着いたが、事件があったような様子がない。
不思議に思っていると、
――ドサッ
上から女が落ちてきた。女は頭から血を流しながら、わずかにうなったあと、苦しそうな顔で、やがて息絶えた。
あまりの驚きに、男は何もできなかった。
やがて近所の住人が気づき、騒ぎ出した。
死体を運ぶ救急隊を眺めながら、男はハッとした。
―あの事故物件サイトに載った出来事が、あとから現実で起きている…
それから男は熱心にサイトを見るようになった。
そして、新しい情報が追加されるとすぐに現場に向かい、事故の瞬間に偶然出会ったような素振りで特ダネ記事を書きまくった。
それは、あらかじめ事故が起きることが分かっている男にとっては造作もないことだった。
男は新聞社でも一番の特ダネ記者になった。
昇進し、冷め切っていた妻との関係も復活した。
さらに若い愛人もできた。
男は我が世の春を感じていた。
しかし、ある時からサイトの更新が止まった。
何度見ても、何日経ってもサイトの情報は過去のままだった。
男はすぐに特ダネの快感が懐かしくなる。
そして、周りからの期待に追い詰められていく。
ついには自ら特ダネになるような殺人事件を起こしてしまおうと考えつく。
―殺すのは、そうだ愛人がいい!
最近、愛人の行動が段々と大胆になっていたため、手を焼いていたのだ。
―これを機会に殺してしまえば良い。
そうと決まると男は、早速女の家に向かった。
女が出迎えると、男はすぐにナイフで腹を突いた。
女はその場にうずくまった。
床に血がひろがる。
―よし、もう長くはないだろう。
男は家に帰り、できたての特ダネを原稿にした。
しかし翌朝、新聞を見てもテレビを見ても昨日の殺人事件に関する報道はなかった。
事故物件サイトを見ても浮気相手の家は事故物件になっていなかった。
「なぜだ…あれは夢だったのか…。俺は頭がおかしくなったのか…?」男は独りごちた。
―厄介な女をこの世から消し去り、特ダネのプレッシャーから解放されると思っていたのに…
すると、そこで事故物件サイトが更新された。
「ようやく更新されたか!」
男は、すぐに画面を見た。
しかし、そこに書かれた住所は女の家ではなかった。
新しい事故物件は、男の家だった。
事故内容は「殺人事件」。
男は思わず振り返る。
腹にナイフが刺さった血だらけの愛人が、こちらに向かって何かを振り下ろす瞬間だった。
※このお話はフィクションです