不動産の売買を考えている方の中には、
会社から転勤を言い渡されたためという事情の方も少なからずいらっしゃることでしょう。
そうではないとしても将来、転勤ということになったらどうしようと気になる方は多いと思います。
今回は転勤に関する労働判例をご紹介します。(最高裁S61.7.14)
Yは大阪に本店をおく塗料等の製造販売業の会社で、全国に営業所があります。
Yの就業規則には、
「業務の都合により異動を命ずることがあり、社員は正当な理由なしに拒否できない。」
と定められており、実際に転勤が頻繁に行われていました。
労働者Xは大学卒業後、営業担当者として、勤務地を限定することなくYに採用されましたが、
入社して約8年間、勤務地は大阪近辺でした。
こうした中、YはXに対して神戸営業所から広島営業所への転勤を内示しましたが、
Xは家庭の事情を理由に転居を伴う転勤を拒否しました。
その後Yは、Xに名古屋営業所への転勤を命じましたが、Xはこれを拒否しました。
そこでYは、この転勤命令拒否が就業規則の懲戒事由に該当するとしてXを懲戒解雇したところ、
これに対してXは、転勤命令および懲戒解雇の無効を主張して提訴しました。
一審および二審は、本件転勤命令は権利濫用で無効であるとし、Xの請求を全面的に認容したのですが、
最高裁は二審判決を破棄し、労働者側の敗訴となりました。
最高裁の判旨の概要は次のとおりです。
①就業規則等に転勤を命ずることができる旨の定めがあり、
②実際に転勤が頻繁に行われていて、
③入社時に勤務地を限定する旨の合意がない、
以上の場合は、使用者は本人の同意がなくても転勤命令を行うことができる。
しかし、特に転居をともなう転勤は、労働者の生活に影響を与えるものであるから、
使用者の転勤命令権は無制約に行使できるものではなく、これを濫用することは許されない。
具体的には、
①業務上の必要性がない場合、
②嫌がらせ等の不当な動機・目的によるものの場合、
③労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである場合、
このような理由による転勤命令は権利の濫用になる。
ただし、業務上の必要性は、
当該転勤先への異動が、他に誰も候補者がいないといった高度の必要性に限定することは相当でなく、
企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、肯定すべきである。
以上から最高裁はこの転勤命令には業務上の必要性が優に存在し、
Xに与える家庭生活上の不利益も通常甘受すべき程度のものであるから、労働者側敗訴としました。
Xの家庭の事情とは、妻、長女、母との4人暮らしで、母は元気でしたが高齢で、
また妻は保育所で働いていて辞められる立場ではなかったそうです。
この事情を考慮しての判決ですが、
最近は育児・介護休業法で子の養育または家族の介護状況に関する使用者の配慮義務や、
労働契約法でも使用者が仕事と生活の調和に配慮すべきとの規定が定められています。
そのため、転勤命令を発する場合、会社側は労働者の事情をよく鑑みる必要があり、
どうしてもその労働者に応じてもらわないと困る場合は、
単身赴任手当の増額や、家政婦の手配といったサポートも検討する必要があります。
「転勤命令と家庭の事情」についての判例は、最近増えていますので、今後ご紹介していきたいと思います。