「HULIC(ヒューリック)」。街を歩いていると、頻繁に見かける青いマークがある。どれも駅近の立派なビルの最上階に張り付いているではないか。気になって調べてみると、何やらこの会社、最近やけに羽振りが良いらしい。今では、三菱・三井・住友といった財閥系の不動産会社に次ぐ4位の時価総額があるというから驚きだ。では、ヒューリックとはどういった会社なのだろうか?元証券アナリストで、キャリプリ&マネー代表 柴沼直美氏に聞いた(リビンマガジンBiz編集部)。
ヒューリック本社 (撮影=リビンマガジンBiz編集部)
ヒューリックは、オフィスビルや商業施設を中心とした賃貸業や、不動産投資用の建物を開発する不動産会社及びディベロッパー企業です。その他にも保険代理店業のヒューリック保険サービスや、ホテル経営・運営のヒューリックホテルマネジメントなどがあります。平成28年12月期には売上高2,157億円で、時価総額は7,346億円と財閥系不動産会社に次ぐ第4位(2017年6月現在)、従業員数は149名と少数ながら、着実に業績を伸ばしています。最近では、4月にオープンした「GINZA SIX」の区分所有権の取得や、心斎橋プラザビルを買い上げるなど精力的な動きを見せています。
ヒューリックは、昭和32年に「日本橋興業」という富士銀行(現みずほ銀行)系の不動産会社として設立されました。銀行系列ですので、広い意味で「芙蓉グループ」に属する会社です。商号をヒューリックに変更したのは2007年、東証一部への上場は翌2008年です。築年数の古くなった都心の不動産や銀行のテナントの建て替えを手がけ、さらに新規物件の取得を通じて賃貸面積を増やし成長してきました。最近は、高齢者住宅、商業施設、観光用ホテルへ軸足を移行していることが注目されています。
ヒューリックを一言で表現すれば「日本企業らしくない筋肉質企業」でしょうか。
ヒューリックのビジネスモデル
その理由の1つは、ビジネスモデルが収益性を追求している点です。
同社のビジネスモデルは、
1.グループ会社の銀行から引き受けた負の資産や、古くから保有する銀行店舗などの不動産を賃貸しながら、老朽化した物件を立て替え、賃貸可能面積の拡大を図る
2.建て替え期間中の利益減少を食い止めるために、不動産を積極的に取得し、機動的にファンドやREITへの売却を図る
にまとめられます。この企業経営方針のため、取得物件の駅からのアクセスにこだわります。さらに超大型物件・海外投資にむやみに参入せず、資本力のある財閥系とは真っ向からの戦いを回避する、といった明確かつ厳格な基準を設定しています。
その結果、空室率は1%未満という超低水準を続けています。また、バランスシートの膨張や収益性の悪化を未然に防ぎ、高収益と健全な財務体質の両方を実現しています。売上高では中堅クラスであるものの、時価総額では財閥系に次ぐ第4位というポジションを確立していることからも収益性・財務健全性・企業戦略の観点から高く評価されていることが読み取れます。
ヒューリックの「人財」
2つ目は、人材を「人財」ととらえる姿勢です。
ヒューリック社の福利厚生の充実ぶりは、さまざまなメディアで取り上げられています。その一部を挙げれば、
・住宅ローンの金利1%を超える部分は会社が負担(上限あり)
・事業所内保育所の設置
・資格手当や留学にかかる費用は会社が全額負担
・本社ビル内の朝食、昼食などの費用を会社が負担
など、優秀な人材を惹きつけるには十分なパッケージが提供されています。また、従業員の構成の内訳で、銀行出身者の割合が高くないことからも、グループ会社の金融機関とは一線を画しており、不動産会社としてのプロフェッショナル集団を意識していることがうかがえます。
このような経営方針をみて、ヒューリックはどんな企業になろうとしているのだろう、どこへ向かおうとしているのだろうと考えました。筆者が持った印象は、人間でいえばシックスパック実現に向けて健全な食生活と筋トレに励んでいるような、「超筋肉質企業」でしょう。
超筋肉質の理由は「理念と具体的なゴールを明確に掲げ、ゴールに到達するための透明度の高い企業経営方針と、それを動かす人財運営を意識している」ことにあります。
売上拡大に向けて新しいフィールドへ乗り出すことよりも、勝算が高くリスクを冒さない堅実な運営をすることは、難しい決断の連続です。しかし、むやみに海外で勝負をしない点や、財閥系と勝負を避ける点などは、筋肉質企業をめざす同社の徹底したこだわりの証左といえます。
海外で勝負しないというのは、過去の経験を踏まえているからです。
2012年に、同社は英国ロンドンでオフィスビルを諸経費含め2,300万ポンドで取得しました。これを賃料引き上げおよびテナント入れ替えによって、3年後の2015年に4,000万ポンドで売却し、大きな利益を得ています。
しかし、この成功経験も、当時のロンドン中心部の不動産価格上昇と、円安による押し上げ効果が大きく、ビギナーズラックと冷ややかにとらえています。為替をはじめとする不透明要因に左右されるビジネス環境で勝負を続けることを、あえて放棄するという選択肢をとっているのです。
今年4月に発売されたヒューリック社会長による書籍
西浦 三郎・著『ヒューリック ドリーム』 日経BP社 (撮影=リビンマガジンBiz編集部)
今後のビジネス展開について興味深く見守りたい
良い点ばかりではなく、やや苦言も呈してみたいと思います。
同社では今後、観光ホテル、高齢者住宅という分野を意識しているようです。少子高齢化が加速する国内のマクロ環境や、REIT市場でもヘルスケアリートのシェアが上昇している状況を鑑みても、同社に限らず当然の流れかと思われます。
ただ、ヘルスケアリート・高齢者住宅の将来性や収益性に関して、筆者はやや冷ややかな見方をしています。長期的な需要増が見込まれるため安定性および成長性については疑問の余地はありません。高齢者住宅であれば厚生労働省、ヘルスケアリートであればこれに加えて金融庁の監督があり、情報開示の観点からも透明性は担保されるでしょう。
しかし、収益性はどうでしょうか。福祉事業である限り高収益を追求するのは難しいかもしれません。また同社のこだわりであるアクセシビリティという立地条件は生かされるものなのでしょうか。
現在堅持されているビジネスモデルが、今後ターゲットを拡大することによって投資家へのアカウンタビリティ(説明責任)、あるいはコーポレートガバナンスについてどう舵を切っていくのか、個人的に興味深く思っています。
※2017年6月21日14時 一部加筆