大手ハウスメーカー各社の決算が発表されている。
TVCMや広告で目にするハウスメーカーは、やはり家を作ることで収益を上げているのだろうか。元証券アナリスト、キャリプリ&マネー代表 柴沼直美さんに大手ハウスメーカー8社の決算書をもとに、住宅市場の動向と各社の今後について考察してもらった。

(リビンマガジンBiz編集部)

(画像=写真ACより)

住宅業界全体の動向


国内における業界環境は極めて好調です。
超低金利環境、贈与税の非課税措置の拡充、消費増税の先送りなど政府による住宅取得支援策がプラスに働いています。それに加えて、高齢者数の増加に伴い今後のリフォーム需要の盛り上がりが予想されるため、マクロ環境もさらなる追い風といえるでしょう。数字で確認したいと思います。
2016年の新設住宅着工戸数が前年比6.4%増の96.7万戸と2年連続の増加となりました。内訳をみると、富裕層向けの注文住宅、中堅層向けの分譲戸建てともに好調でした。
こういった中で、ハウスメーカー大手8社の2017年の決算はおおむね増収増益となりました。
好調の背景についてまとめると、
①環境的要因で受注・販売戸数が増加している。各社商品の高付加価値化による単価上昇、それにともなう採算性の向上
②非住宅事業も利益の上乗につながった。
といった点があげられます。

業界1強の大和ハウス工業は戸建事業だけではない


各社個別の決算を見た際、特筆すべきは2期連続最高益を更新した業界最大手の大和ハウス工業(売上高3兆5,129億円)の好調ぶりでしょう。
「賃貸住宅事業」はセグメント別売上で9,772億円(売上全体の約28%)にものぼり、ほかにも「商業施設(売上5,997億円)」や「物流施設(売上8,284億円)」といった事業が好調です。

昨今、賃貸住宅の空き家問題が取り沙汰されていますが、同社の賃貸住宅受注は前期比9%増です。来期2018年3月期についても、同部門の営業利益を前期比11%増益の1,050億円と見込んでいます。この背景にあるのが、3%以下にとどまっている空室率とそれに伴う賃料収入の伸びです。加えて、コンビニエンスストアなど商業施設事業、老人ホームや病院、ホテルなどの建設需要も好調に推移しました。大和ハウスの賃料収入による売上は、2016年3月期の4,031億円から17年3月期は4,602億円と前期比14%増になっています。その要因として、テナントのきめ細かなニーズに迅速かつ柔軟な対応力を発揮できたこと、一括借り上げ方式が奏功したことにあったとみられています。加えて将来売却予定の物件についても7.5%と高いNOI利回りを実現できる優良物件であることも寄与しました。

大和ハウス工業は、他事業での躍進がとまりません。もはやハウスメーカーという枠を超えてきていると言えるでしょう。

(大和ハウス 「プレミアムグランウッド 神戸・芦屋の家」 ※プレスリリースより)

ハウスメーカーの進出市場は、戸建・賃貸住宅から海外事業まで

ハウスメーカー各社を見渡すと、戸建・賃貸に関しては人口流入が続く都市部での需要増や、相続税対策に対するニーズを取り込んでいます。例えば積水ハウスにおけるネット・ゼロ・エネルギー(ZEH)タイプの戸建や、セキスイハイムの太陽光発電システムと蓄電池の一体型といった省エネルギータイプの住宅、環境配慮機器を搭載したマンション着工、戸建てに強みをもつ住友林業によるリフォーム事業での新たな耐震補強技術の開発・提供などが各社の取り組みが消費者の需要を確実につかんでいます。

高齢化社会が進む中、国内における老人ホームなどの福祉施設への参入に取り組むハウスメーカーも多くあります。公共福祉事業ゆえ高い収益水準は期待できないものの、高齢者向け市場全体は2007年の6.4兆円から2025年には15.2兆円と137.5%増が見込まれていることから(厚生労働省の事業報告よりみずほコーポレート銀行産業調査部が試算)、確実に拡大が見込まれる市場への進出を積極的に推進しています。

また海外における事業拡大についても各社概ね積極的で、積水ハウスでは米国・豪州、中国、シンガポールにおける事業展開(海外事業売上高1,821億円・前期比103.4%増)、住友林業は米国・豪州での戸建て住宅事業の対象地域拡大、ベトナムにおける複合分譲マンション事業への参画も進めています(海外事業売上高2,478億円・前期比31.9%増)。パナホームは台湾、マレーシア、インドネシアなどアジア方面でのマンション建設・住宅事業(海外事業売上高66億円・前期比24.5%増)を進めています。

三井ホームは2×4工法のリーディングカンパニーとして設計・デザインでの強みを発揮しています。戸数の減少を単価上昇によりカバーできたようです。高遮音性能床を開発し、業界における独自性・高性能耐震性住宅メーカーというポジションはゆるぎないと思われます。

ミサワホーム(売上高3,998億円)も増収増益での着地です。
目立ったところでは、トヨタホーム(愛知県名古屋市)と新たな資本業務提携契約を締結し、2017年1月に連結子会社となるなど、積極的な業務提携やM&Aによる事業多角化の強化による事業強化です。生涯を通じて顧客とかかわる、という同社の方針が児童福祉施設動事業への参入という取り組みから垣間見えます(売上構成比4.4%)。

8社で唯一減収のパナホーム

そんな中、営業減益となったパナホームが気になるところです(営業利益118億・前期40億円減)。部門別にみると集合住宅・マンションは売上高、受注残高ともに前期比プラスとなっており、海外事業も堅調に推移しているものの、戸建てが前期比割となっています。その理由として、天候不順による工事の遅れで販売戸数が減少したこと、銀行の融資姿勢が厳格になったこと、そして営業体制が従来のシェア重視から効率重視にシフトしきれていないことが考えられます。また、ブランド力という点では、大手3社(大和ハウス、積水ハウス、住友林業)から遅れをとっていると認めざるを得ないところかもしれません。しかしこの点においては、2017年7月にパナソニックの完全子会社になることで新しいブランド戦略の起点ができるかもしれません。

例えば、旭化成ホームズにおいては、都市部でのマンション建て替えのノウハウを地方部に転用、セキスイハイムでは環境に配慮した環境・ライフカンパニーの商品力・提案力を活用したライフエネルギー自給自足率100%のモデルの提供など、それぞれの事業部門の強みのシナジーが活かされた決算となっています。

パナホームも完全子会社に伴い、パナソニックの住宅事業という位置づけになり、経営資源の効率化、パナソニック・ブランド、信用力の有効活用をバネに2018年は増益に転化することが期待されます。

パナホーム「カサート プレミアム」外観  ※プレスリリースより)

今後、ハウスメーカーの格差は広がっていく?

各社の結果から、大量供給されたビルの空室率はおおむね堅調ですが、地の利や利便性の質に大きく依存する傾向はますます顕著になっていくでしょう。「建設すれば全入する」ではなく、各社の戦略によりメーカーごとの売上・収益の格差は拡大していくことが予想されます。また、各社が多角化と海外展開を積極的に勧めていますが、業績が好調な間に次の収益の柱をどれだけ育てることができるでしょうか。競争激化による収益の下押し懸念にさらされることない独自性を確立できるかどうかによって格差は拡大するものと思われます。

 
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