2019年の創業以来、企業不動産(CRE)分野に特化したDXサービスを展開してきたククレブ・アドバイザーズ(東京都千代田区)。2024年11月の東証グロースへの上場を機に、さらなる成長ステージへと歩みを進めている。
同社が手がけるのは、企業が保有する工場や研究所、物流施設といった、これまであまり売買の対象とならなかった「コンパクトCRE」と呼ばれる不動産分野だ。AIを活用した企業分析やマッチングプラットフォームの提供など、テクノロジーとリアルビジネスを組み合わせた独自のポジショニングで、500兆円規模とされる企業不動産市場の活性化を目指している。
上場後の戦略や今後の展望について、宮寺之裕社長に話を伺った。
――上場おめでとうございます。前回の取材から約8カ月が経過しましたが、サービスや事業内容に変化はありましたか。
事業自体は大きく変わっていません。しかし、CRE(企業不動産)を取り扱う企業の資本効率を上げていくという東京証券取引所「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」を公表依頼、CRE戦略の必要性への高まりを感じています。
当社は、「コンパクトCRE」と定義しているおよそ20億円以下の不動産で、かつ工場や研究所、物流倉庫といった、あまり不動産会社が取り扱わない分野にフォーカスして事業を展開しています。これらは従来、事業法人が自社ビジネスのために使っていた不動産なので、不動産の売買マーケットで流通しておりませんでした。
しかし、最近は東証からの資本効率の改善要請などによる後押しもあり売買などを検討する企業が増えています。その一方で、新しく拠点を出す際にも、土地をどう確保するかという課題もあり、そこを当社がお手伝いしています。
また、AIを活用して企業のCREニーズを可視化する「CCReB AI(ククレブエーアイ)」や、事業用不動産に関する売買・賃貸等のあらゆるCREニーズをマッチングさせる「CCReB CREMa(ククレブクレマ)」も、順調に伸びている状況です。
――CREという特殊な領域なので、ククレブ社が何をやっている会社なのかという点が、外部からは理解されにくい部分もあると思います。上場されたことで業界内外での認知に変化はありましたか。
不動産業界内においては、それなりに認識していただけるようになってきました。ただ、上場後は個人投資家の方々とのコミュニケーションの中で、「ビジネスの内容を教えてほしい」「何をやっているビジネスか」とのご質問をいただきます。
なんとなくいいことをやっているんだろうとは思っていただけるものの、実際にどのように収益を上げているのかなど含めて、今後メディアを通じてしっかりと発信していかなければいけない部分だと考えています。
――2019年の創業で、2024年に上場です。最初から上場は見据えていたのでしょうか。
そうですね。元々起業した時に、企業から5年後に上場するという事業計画書を作っていました。
もちろんIPOはゴールではありませんが、当時ご出資いただく際には「5年で上場します」と説明していました。
――コロナ禍の影響はなかったのでしょうか。
創業した翌年にコロナが来ましたが、結果的には世の中のDX化が進み、業務効率を上げなければいけないという流れができました。CRE業界の営業現場でも、当社のサービスを利用いただくことで、非対面でも業務に取り組めたり、営業のリスト作成ができたりといった部分で、むしろポジティブな影響がありました。
CREに関する提案をする際は、紙とマーカーを使って開示資料を調査・分析するような作業が一般的でしたが、コロナ禍を機に世の中の価値観が変わり、世の中全体がサブスクリプションモデルへの抵抗感がなくなりました。特に若手、中堅の担当者は「紙だけでやるのは限界がある」と感じ、その上の管理職の方々も「さすがにこのままではマズい」という流れになってきたことが、当社のサービス利用の追い風になったと感じています。
――改めて、上場の目的について、教えてください。
CREビジネスは法人営業で、企業を相手にしています。私自身前職では会社の看板による信用力などでビジネスを進められていると感じているところもありました。起業後は、何もない状態からのスタートであり、上場に伴う社会的認知、信用力を得たうえで、CREビジネスの事業を加速していくというのが、IPOを目指した最大の理由でした。
上場から2週間ほど経ちました(2024年12月16日に取材)が、ホームページへのアクセスは圧倒的に増えています。
これまでの人脈や繋がりのある企業だけでなく、私たちのことを知らない人もたくさんアクセスしています。様々な人たちに会社を知ってもらいたいと感じています。
――人材採用の面での効果はいかがですか。
早速、足元の採用でもその効果が表れており、「上場企業に勤められる」というのが入社の決め手になったケースもあります。特にCREの分野では、一般の不動産会社とは異なる人材が必要で、ある程度の実績や実務経験を持った方々に来ていただきたいと考えています。
――テクノロジー分野への投資について、具体的な計画を教えてください。
2025年に新しいサービスやバージョンアップを予定しています。現在の「CCReB AI」は中期経営計画と有価証券報告書を分析対象としていますが、企業はその他にも、サステナビリティレポートやESGレポートなど様々な資料を開示しています。以前は中期経営計画だけ見ていれば大体わかっていたのですが、今は違う観点での情報開示も増えているので、分析対象となる資料の範囲を広げていく予定です。
また、単に網羅性を高めるだけでなく、一元化されたプラットフォームとしての価値を高めることも目指しています。不動産業界だけでなく、企業分析をしている会社などにもサブスクリプションモデルで提供できると考えています。
――不動産テック分野でIPOする企業が少しずつ表れています。現在の不動産テック業界全体について、どう感じていますか。
正直、まだまだスケールしている企業が少ないと感じています。プラットフォームが分散し、データも同じようなものを使っているサービスが多いのではとの印象です。
当社としては、テクノロジーを単なるツールとしてではなく、それを活用できる業界を見つけ、業務効率を向上させていくことに注力しています。
当社自身、我々は不動産会社だとは思っていないんです。私がよく言っているのは、たまたま商材がCREなだけで、マッチングプラットフォームで言えば、究極的には人間だってマッチングしているわけです。企業が抱えているニーズや悩みがあれば、それに応じてビジネスを展開していきたいと考えています。
――今後の成長戦略について、具体的な数値目標などはありますか。
対外的にお伝えしているうちの一つとしては、人員計画に関して3年で営業社員を3倍にするというものです。現在のフロント営業は5名ですので、15名まで増やす計画です。ただし、単純に人数を増やせばいいというわけではありません。社内インフラも整ってきて、チャットボットを活用した営業支援ができるようになるなど、テクノロジーを活用した生産性向上にも取り組んでいます。
200名、300名という大規模な組織を目指すのではなく、少数精鋭で1人あたりの生産性を高めていくことを重視しています。
――今後の展望についても教えてください。
企業が保有する不動産のストックは524兆円とされています。我々はまだ入り口に立ったばかりです。
今後は、より多くのプレーヤーが参入してくることで、マーケット自体が拡大していくだろうと考えています。重要なのは企業側の意識改革で、自社の不動産をより効率的に活用できる可能性に気づいていただくことです。
まだまだデジタル化が進んでいない部分も多く、例えば契約関係などは今でも紙と印鑑が主流です。特に大手企業ほど電子契約への対応が遅れているケースもあり、そういった部分でのイノベーションも必要だと感じています。
我々としては、単にテクノロジーを提供するだけでなく、実際のビジネスニーズに応えながら、業界全体のデジタル化を推進していきたいと考えています。