不動産テックに関連する企業経営者や行政機関などに取材し、不動産テックによって不動産ビジネスがどう変わっていくのかを考える。
今回は、買主、売主すべての反響対応や追客を丸投げできる「楽トス」を運営するROUND TOSS(ラウンドトス:京都市)の代表取締役CEOの畦﨑弘之氏と、取締役CCOの原田信平氏に話を聞いた。(リビンマガジンBiz編集部)
――ROUND TOSS社が提供している「楽トス」について教えてください。
原田CCO:「楽トス」は、不動産の売買仲介における、反響対応のアウトソーシングサービスです。
ポータルサイトや一括査定サイトから購入や売却の反響や、不動産会社がお持ちの休眠客のリストに対して、電話やメール、ショートメールの自動配信などを活用して、アポイントを取得します。
――導入状況について教えてください。
原田CCO:2024年3月にサービスを正式リリースし、2024年10月現在で全国40社以上に導入いただいています。そして、月間約800件の反響に対応しています。
購入・売却、どちらに対しても提供しているのですが、売りにお悩みを抱えてらっしゃる企業が多く、まずは一括査定サイトなどからの売却反響を対応させていただきながら、購入客も任せていただくといったケースも多いですね。
――反響対応のアウトソーシングという部分では、競合するサービスも多いです。「楽トス」の強みや支持されている部分はどういったところになりますか。
畦﨑CEO:まず、我々自身が不動産の出身であることが大きいと思います。業界の課題を肌で感じていたからこそ、本当に必要とされているサービスを提供できている。業界を理解しているからこそ、一見するとちょっとしたことなんですが、仲介業者にとってはすごく欲しかった機能をすぐに提供できる。
また、自社でコールセンターを持っていることも強みです。サービスを提供するうえで、現場の温度感や肌感も感じていたいですし、外部委託だと新しい対応方針を決めてから実際に運用されるまでに時間がかかります。
その点、当社の場合は翌日からでも新しい方針で対応できます。また、不動産業界の知識を持ったスタッフが対応することで、より専門的で質の高いサービスを提供できるというメリットもあります。
――月間で800件の案件対応をするなかで、見えてきた顧客の傾向などはありますか。
原田CCO:一括査定サイトの売主反響の対応において、いくつかの傾向が見えてきました。
査定サイトの性質上、「価格が知りたいだけ」のエンドユーザーは一定数います。一方で、全体の10~20%は、本当に売りたいユーザーで、そこをきちんと対応していくことが反響対応における第一のチャンスです。
残りの70~80%のユーザーは、一旦価格さえ知れれば、こちらから電話をしようがメールをしようが、何の反応もないという”停滞層”になるということが経験上分かりました。
しかし、停滞層のユーザーに対しても、何かしらのアプローチをし続けなければなりません。不動産会社であれば、昔はチラシを定期的に打っているところも多かったですね。
私たちは、定期的なメールマガジンやAI査定システムなどを駆使し、ユーザーと定期的に接点を取り続けます。そして、再度売却を検討したタイミングを見極め、アポイントを獲得しています。
再び売却意欲が高まったタイミングを”セカンドアポチャンス”と呼んでいるんですが、実はセカンドアポチャンスのユーザーというのは売却意欲がかなり高い。そのアポイントをしっかりと取っていくというのも「楽トス」の特徴です。
――導入している企業には、どのような効果や成果があらわれていますか。
畦﨑CEO:少人数でやられている仲介会社も多いため、我々が初期対応を行うことで、業務効率が良くなったというお声は、とても多いですね。
原田CCO:今まで漏れていた訪問査定のアポイントが取れるようになってきたというお声もいただいています。
単に価格を知りたいだけというユーザーに対してのアプローチにおいて、当社の場合、無理にアポイントを取ろうとするのではなく、まずは要望に応えるように対応します。その方が、お客様との信頼関係が築けて、結果的にその後の対応がスムーズになることが多いんです。
お客様に寄り添った対応で、顧客のニーズを深掘りしていくことで、訪問査定がポロポロと取れるようになってきている企業もあります。
――「楽トス」のサービス提供に至ったきっかけについて教えてください。
畦﨑CEO:私や原田をはじめ、当社の経営陣は、不動産フランチャイズの本部出身です。私は本部直営の不動産事業の代表を務めていたのですが、コロナになる前に退職して、不動産会社を経営していました。
反響に対して、初期対応と追客の重要性は理解していたのですが、なかなか現場の営業に徹底させるのが難しかったんです。そこで、インサイドセールスを社内に1人置いたのですが、通電数もアポイント数も増えて、かなり手応えを感じました。
しかし、その担当者が退職してしまったことで、業務が回らなくなりました。インサイドセールスの会社を探したのですが、なかなかいいところが見つからず、だったら自分たちで作ろうと思ったことがきっかけです。
――不動産業界に長くいらっしゃるなかで、業界に感じる課題や問題点はありますか。
畦﨑CEO:営業現場や経営側の課題としては、なんといっても人材不足ですね。採用がなかなか厳しいと感じています。テクノロジーやアウトソーシングで業務改善を行い、生産性を向上していくっていうのが、これからのキーになるんじゃないかと感じています。
原田CCO:個々のスキルを上げるための教育にも課題があります。媒介を取らないと売上に繋がらない一方で、そこまで育てるためには時間をかけなければならない。働き方改革が推し進められている現在では、昔のように夜遅くまで働くこともできません。
そういったなかで、従業員の定着率が低いという問題もある。フランチャイズ時代にも見てきた課題です。
畦﨑CEO:アナログな業務が多いので、アナログが大事だって思いすぎている人が多いことも問題です。コロナ禍によって、ある程度のオンラインも不動産業界に広まりましたが、まだまだです。
しかし、アナログな不動産業界で、いきなり完全なIT化・DX化は難しいでしょう。段階的に変化していく中で、当社はそのグラデーションに合わせたサービスを提供していきたいと思っています。
――将来の展望や目標を教えてください。
畦﨑CEO:取り急ぎ導入企業を100社、1,000社と広げて行きたいと思っています。
原田CCO:サービスの拡充も重要だと考えています。不動産会社とのコミュニケーションのなかで、顧客管理をしっかりと行っている不動産会社が案外少ないことが分かりました。
そこで、今年中にはお客様の顧客管理をサポートできるCRMを提供する予定です。当社が対応していない顧客の情報も登録できるようにして、一元管理ができるようにします。単なる業務の一部をアウトソースするのではなく、業務プロセス全体の最適化につながるようなサービスを目指しています。
畦﨑CEO:私たちの会社名のROUND TOSSは、直訳すると「丸投げ」という意味です。不動産会社の困ったところを丸投げしていただいて、それを解決するということを徹底的にやっていきたいと思っています。