2022年9月、業界最大級の賃貸管理ソフト「賃貸名人」を提供するダンゴネット(国分寺市)が、M&Aによって不動産テック企業のイタンジ(東京都港区)の子会社になっていた。
業界紙や業界ニュースサイトなどでも取り上げられることはなかったようで、当メディアも23年4月末にダンゴネット社の社長交代の案内の折り、その連絡で知ることとなった。
賃貸不動産テック業界のビッグニュース、M&Aに至った経緯やダンゴネットの今後についてダンゴネット・松川聖子新社長に話を聞いた。
-松川社長は、松川竜也前社長のご令妹です。まず、ご経歴を教えてください。
ダンゴネットは、私の父・松川 雄二が1998年に創業した会社です。
私は、学生時代からアルバイトとして、創業間もない当社を手伝っていました。そして、学校を卒業した翌年には、正社員として働き始めています。
そこから22年間、ダンゴネットが私のキャリアです。
最初は事務の手伝いから始まり、カスタマーサクセスや顧客ヒアリング、商品改善などに携わり、取締役、常務取締役を経て、23年3月に代表取締役に就任しました。
-提供している「賃貸名人」は今や業界最大級の賃貸管理ソフトですね。
現時点で、延べ5,500社の不動産会社に導入いただいています。
契約内容や物件情報、入居者情報などを一括で管理し検索できるため、業務効率化に活用いただいています。
-確実にシェアを広げられています。それにもかかわらず、今回のM&Aに至った経緯は何だったのですか。
管理ソフトだけではなく、さらに事業を拡大させる方法を3年ほど前からずっと議論しており、その方法のひとつにM&Aがありました。
イタンジとは2019年に業務提携を結んでいて、懇意にしていたこともあり、こちらから話を持ちかけ、そこから1年2年と調整を続けてきました。
2022年9月1日の時点で当社株式の80%を譲渡し、23年1月に100%子会社になり、2022年12月にイタンジの親会社であるGA technologies(東京都港区)の通期決算発表会で発表しました。
-イタンジとの交渉で重要視された点はどういったものでしたか。
手前味噌ですが、ダンゴネットという会社名は賃貸業界でブランド力があると思っています。顧客を安心させるためにも残してほしいということは伝えました。
-M&Aを社内に伝えたときの反応はどうでしたか。
9月1日に全社に伝えました。
かなり驚いていたと思います。大きな会社の傘下になるなかでは、期待や不安もあったかもしれませんね。
-子会社になって半年近く経ちましたが、変化はありますか。
正直まだありませんね。これから様々な変化があると思います。
私自身、23年3月に社長に就任したばかりです。ようやく、先月からイタンジとのシステム統合をどうするかといった計画を進めているところですから。
来期から大きく動いていけると思っています。
-事業を成長させる前向きなM&Aだと感じています。イタンジの傘下になることで、どのような効果・事業シナジーを期待していますか。
イタンジは我々が持っていないものを持っています。リーシングのテック分野ではNo.1です。また、大企業もサービスを導入している実績があります。
一方、我々は中小企業をメインとした物件管理サービスが主軸です。
それぞれの穴を埋め合わせることができれば、より総合的にサービスを展開していけると思っています。
なによりも、いま「賃貸名人」を利用いただいている顧客に対して、イタンジのサービスが連携することで、さらに便利になるような環境を作れると思っています
-ダンゴネットの強みを活かすことができるのですね。
「賃貸名人」という基幹システムを持っていることは、当社の強みです。
不動産業界に限りませんが、基幹システムはリプレイスのハードルが高く、他社のシステムへ移行するのはなかなか難しいです。そういったなかで、イタンジのサービスと連動を強化できれば、さらに便利になり、顧客により高いパフォーマンスを提供することができます。
また、イタンジには開発やクリエイティブのリソースが潤沢にあることも魅力的です。
これからどんどんシナジーが生み出せるのではないかと思います。
-松川社長は、不動産向けのサービス業界に20年以上いらっしゃいます。事業を通じて感じる業界の変化はありますか。
我々が「賃貸名人」を作った当初は、当然ながら不動産テックといった言葉はありませんでした。
不動産のDXやITが本格的になったのは最近です。感覚的ですが、コロナの直前、2017年か18年頃だと思います。
それまでにも様々なサービスが生まれ、当社の競合となるようなシステムもありましたが、ほとんどが撤退したり終了したりしていました。サービスが定着し、利用されるものが増えてきたのは、ここ5年6年ですね。
-最近になってDXやIT化などを意識する不動産業者が増えた。潮目が変わった理由は何だと思いますか。
不動産は、世間一般から5年10年遅れていると言われています。
ITやテックといった言葉も5年遅れて不動産業界に入ってきた。そのタイミングがここ数年だったのではないでしょうか。
また、コロナの影響も大きいと思います。非対面や非接触が求められるなかで、イタンジが提供するウェブサービスも一気に広がりましたから。
-M&Aや社長交代を経て、ダンゴネットの今後の展望はありますか。
ユーザーが使いやすい商品を適正な価格で提供したいというのは強く思っていることです。
また、イタンジの商品を我々が取り扱うといった相互の取り組みを進めることで、総合的なサービスを幅広く提供できればよいと思っています。
23年5月には、イタンジが物件管理システム「ITAND管理クラウド」の提供を開始し、当社も同サービスをどれだけ伸ばしていけるかを模索していきます。
ダンゴネットはなくなりません。イタンジと関わることで、両企業が切磋琢磨し、さらに事業を成長させていきたいと思っています。