登記簿データは新しいビジネスチャンスにつなげられる
不動産テックに関連する企業経営者や行政機関などに取材し、不動産テックによって不動産ビジネスがどう変わっていくのかを考えてみる。
今回は、登記簿情報などの不動産ビッグデータを活用したサービスを提供する、TRUSTART(東京・港)・大江洋治郎社長に話を聞いた。(リビンマガジンBiz編集部)
TRUSTART・大江洋治郎社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部
―TRUSTARTは、どのような経緯で設立されたのでしょうか?
TRUSTARTは、私が在籍する三菱UFJ信託銀行とベンチャーキャピタルファンドが組み、2020年5月に設立された会社です。ベンチャーキャピタルファンドがスタートアップを立ち上げ、三菱UFJ信託銀行の人材がそのスタートアップに出向して事業の立ち上げを行う「出向起業」の形態を取っています。経済産業省の出向起業スタートアップ補助金の第1号として採択されました。
―TRUSTARTが提供しているサービスについて教えてください。
不動産データ提供サービスと不動産調査サービスを展開しています。不動産データ提供サービス「R.E.DATA(リデータ)』は、2021年5月に本格的にリリースしました。大量に集めた不動産登記情報をデータベース化して利活用することで、事業者の新たなビジネス機会につなげていくサービスです。
「R.E.DATE」 画像提供=TRUSTART
例えば、相続が発生した場合。我々が不動産名義変更の情報を取得し提供することで、各専門事業者が相続人に直接アプローチしていただけるようにしています。司法書士や税理士なら家族信託や二次相続対策、還付請求など、リサイクル・リユース会社は遺品整理、不動産会社は売却・賃貸・リフォーム・建て替えなどですね。
相続以外でも、お客様とディスカッションしながら必要なデータを見極めご提供しています。不動産売買、抵当権設定・解除、商業謄本など様々なセグメントの登記情報を取得します。
―そもそもどんな情報を取ったらいいか分からないケースもありそうですね。
そのような場合、ご要望に合わせてデータベースを整理して、リスト化するサービスをご提案しています。たとえば、延床5,000平米以上だけ調べたい場合は、全部事項からエリアごとの売買案件や相続案件を抽出してリスト化しています。
他には、取得したデータの使い方がわからないというニーズも結構ありますね。不動産会社が相続発生後にアプローチしたり、ゼネコンが法人の仕入れた土地に入札を入れたりしたい場合などです。ご要望に応じて、当社がマーケティング施策立案から実行までサポートしています。その1つがDMやチラシ、LP制作などのクリエイティブ支援です。お客様のリソースがなく、できない部分を当社にお任せいただいています。
TRUSTART・大江洋治郎社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部
―登記データは、自社で新規に取得をして蓄積していっているのですか。
そうです。ある程度登記データが蓄積されれば、移動や変更があったデータのみ取り直せばいいのですが、網羅的に取得するのには莫大なコストがかかるので、どの企業でもまだ実現できていないのが現状です。当社ではニーズの高い東名阪をメインに蓄積しています。
―このサービスを考案したきっかけは何だったのでしょうか。
私自身が三菱UFJ信託銀行の現場で感じたことがきっかけになっています。例えば、金融機関では融資時に、売買仲介でも物件調査時に各担当者が謄本を取得して、稟議書に添付して再利用されないままになっています。これをデータベース化して利活用すれば、金融や不動産以外の業種にも新しいビジネスチャンスにつなげられるのではないかと思ったんです。
―もう1つの不動産調査サービスは、どういうものになりますか。
「R.E.SEARCH(リサーチ)」は、今年の8月か9月に正式にリリースする予定で、現在クローズドで試行している段階です。不動産売買取引で必要になる調査業務を低コストでスピーディーに代行するサービスです。時間を取られ負担の大きい不動産調査を当社にアウトソースすることで、業務効率化を実現したり、他の重要度の高い業務に集中できたりすることを目的としたサービスです。
また、「R.E.SEARCH」が活用されると、物件の調査時に登記も取得できるため、その登記情報を「R.E.DATA」のデータベースに蓄積していっています。
―「R.E.DATA」リリース後の手ごたえはどうですか?
かなり反響いただいています。「こういう切り口でデータを使えば良いんですね」と新たな気づきを得られる事業者様が多いです。これからはデータを使っていかないといけないという機運があるのを肌で感じますね。
―不動産業界でのデータ活用は、まだまだ発展途上なのではないでしょうか。
データの使い方やマーケティングについては、1からご説明する必要性があるケースがあります。例えば、チラシ1つとっても、予算の半分を折りこみ、残りをDMにして数件反響が取れたら良い、といようなアバウトな施策をしている会社が多かったりします。1,000件送ったら開封率はいくつなのか、そのうち成約率はいくつなのか。それによって1件獲得の広告費用を算出する。こういうベーシックなマーケティング施策が抜け落ちていたりします。
―不動産データ活用の市場は、盛り上がっているのでしょうか。
当社の競合にあたる企業はありますが、まだ市場はできあがっていない状態だといえます。先ほどもお話しましたが、登記簿謄本を取得するには資本力が必要なので、突き抜けている企業がまだ存在しないです。だから、まずは市場を作ることが先決だと思っています。10社くらいが出てきて、最終的に3社くらい残っていくみたいなイメージでしょうか。登記データは間違いなく他の業界も使える情報の宝庫ですから、当社が業界に一石を投じられる存在になれればと思います。
―どこがイニシアチブを取って進めていくかも重要そうですね。
大手不動産会社が旗を振るのが良いと思いますが、変化するには時間がかかりそうです。私がいる金融業界、例えば、3メガバンクで合弁を作って進めていくのも有効かもしれません。全部あわせると年1,000万件くらいは登記データを取得していますから、データがスピーディーに集まっていきますよね。
―今後の展望を教えてください。
まず1都3県のデータを蓄積していくことが目標です。そのために資金調達する必要がありますね。その資金でトライアルでのニーズのある区からどんどん取得していこうと考えています。
データを網羅して、不動産業界の健全化や幅広い業種のビジネスに活用できるようにサービスを拡大していたいと思います。
TRUSTART・大江洋治郎社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部