金融の世界でできていたことを、不動産の世界でできるようにする
不動産テックに関連する企業経営者や行政機関などに取材し、不動産テックによって不動産ビジネスがどう変わっていくのかを考えてみる。
今回は、RESTAR(リスター:東京・港)・右納響社長に話を聞いた。(リビンマガジンBiz編集部)
リスター・右納響社長 撮影=リビンマガジンBiz取材班
―提供されているサービスについて教えてください。
「REMETIS」(レメティス)は、事業用不動産の投融資での情報整備・検索・分析における課題を解決するプラットフォームです。
事業用の不動産を扱っている会社は、毎日仲介会社や関係会社から様々な物件紹介を受けています。通常は、物件情報を整理し、それをベースに社内向けの説明資料を作って、物件購入の判断を行い、購入します。
ところが、仕入れるための物件情報を調べるだけでも面倒です。対象物件の謄本取得や周辺の賃料相場などについて時間をかけて調査しなければならない。
また、社内で過去に別の担当者が同じような案件を担当したことがあっても、上手く共有されていないことが多い。共有フォルダなども整理されないため、検索することもできない。
そのため、毎回イチから調べものをしたり、社内ヒアリングをしたりして、毎回似たような資料を作っています。「REMETIS」では、様々な情報を一箇所でぱっと見ることができ、過去に社内で検討した情報も自動でデータベース化し、きちんと管理することができます。
自動データベース化は、名刺管理アプリのように、不動産情報のPDFファイルをアップロードすると住所や面積を読み取りデータベース化します。
このようなデータ蓄積や我々が提供している不動産・市況データを活かして簡単に資料作成をすることができます。
パブリックになっている不動産鑑定情報や地理関係の情報も、我々がフォーマットを揃えて、地図上に重ね合わせることが可能です。また、ユーザーが持っている情報もアップロードすることができます。
ユーザーがアップロードする情報は、機密性が高いため、当然他の企業は見られないようになっていますし、社内でも営業第1部と第2部では共有しないといった設定も可能です。
簡単にリサーチができるので、今までは都内23区限定でやっていたけれど、一都三県に商圏を広げてみようかといったときでもすぐに対応可能です。
物件仕入れに関わる資料作成の時間やリサーチの時間が1件につき約90%の時間削減可能です。
「REMETIS」 画像提供=リスター
―「REMETIS」にはどういったデータが集約されているのでしょうか。
REITの取引情報、行政等が公開している情報、やLIFULL HOME’S等の第三者から共有いただいている不動産データを活用しています。
単純にHOME’Sを見れば良い情報ではなく、特定のエリアで物件の種別や条件を絞り込んだデータを抽出や分析をすることが可能です。
―ポータルサイトはデータのスクレイピングなどを禁止していますよね。なぜ「REMETIS」は可能なのでしょうか。
確かに、各ポータルサイトはデータのスクレイピングやクローリングを禁止しています。対策もかなり行われています。
当社は、LIFULLと正面から交渉してデータを使用しています。
「REMETIS」の利用企業には、コンプライアンスに厳しい大手企業もいるので、グレーな情報ですと広く利用いただけないと考えています。データ元の信憑性があるのも、他社の不動産データサービスとは違いますね。
―競合サービスとの違いを教えてください。
2種類の競合があると考えています。
1つ目は、「REMETIS」にもあるREITデータなど、個々のデータを集計して販売している会社や、ポータルサイトをスクレイピングしてデータを販売しているようなデータ会社ですね。我々の取り組みとしては、そういった個々のデータをひとまとめにすることで利便性を高めているので、差別化が図れています。
2つ目は、最大の競合なのですが、大手不動産会社や金融機関が独自に導入している自社システムや基幹システムですね。大手メーカーに委託開発して作らせて数億円かけたシステムなどが実質的な競合サービスです。
そういったシステムは、古くなって使い勝手が悪くなったタイミングや、社外の情報を別途調べなければならない手間がある企業を中心に切り替えになっていますね。
―利用社数はどれくらいでしょうか。
現在数十社です。
銀行をはじめとした金融機関やデベロッパー、アセットマネジメントを行う会社や仲介会社に利用いただいています。
―簡単に物件リサーチができるようということは、業界歴が浅い人でも簡単に判断することができますね。
「REMETIS」の効果は2つあります。
1つ目は、経験の無い人や異動で来た人にとって、必要な情報をすぐに知ることができる効果です。部署として動いた案件の情報や過去の履歴が分かるので、仕事のクオリティが平均点以下だった人を平均点以上まで上げるような効果ですね。
2つ目は、ベテランの社員が自分の経験やナレッジを会社の中に蓄積して、次の世代に引き継ぐことができるということです。また、日々の案件の進捗状況や検討状況を管理できるようになっているので、部下がどんなことをやっているかがすぐに分かるので、毎週の定例会議などを行わずとも案件の管理が可能です。
―「REMETIS」を作ろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
私はもともと、コンサルティングファームのPwCで金融の観点から企業買収・M&Aに携わり、その後不動産投資ファンドであるアンジェロ・ゴードンに転職しました。
企業買収と投資不動産、どちらも何十億や何百億の高価な買い物という意味では、似たようなことをやっています。
似たようなことをやっているのに、不動産の世界はアナログでした。少なくとも金融の世界でできていたことを、不動産の世界でできるようにしても良いのではないか、と感じていたことに加え、前職の投資会社で物件の情報収集などを私自身がやっていて「こんなことやってられない」と感じたことがきっかけです。
元々は自分の業務を楽にするために考えたサービスだったのですが、サービスの開発が楽しくなり独立しました。
―M&Aと不動産ではそれほど差があったのですか。
「Bloomberg」で調べれば、各会社の売上や営業利益がすぐに出てきますし、競合の会社の情報なども知ることができます。
例えばトヨタの売上推移や、そのなかで自動車事業だけの利益の推移がぱっと出てくる。しかも、ホンダや日産の同様の数字をすぐ横に並べることができる。
そんなことに1時間や2時間もかけません。10分でできます。
同じようなことに、不動産業界ではとても時間がかかっています。調べれば分かることに何時間も時間をかけたくないはずです。アクセスできるのに、アクセスできることが分からない。特に若い人はそれが分からず右往左往している。若い人にとっての修行と考える方もいるかもしれませんが、毎回同じようなことをするのは時間の無駄ですね。
社内の情報共有や管理なども、金融業界であればセキュリティの関係上クラウドで、誰がアクセスしたのかもログで残せるようになっています。不動産業界では紙やFAX管理されているためそういったことも分からない。FAXの方が安全だと思ってらっしゃる人もいるようですがどう考えても安全ではありません。それに、情報の整備情報が悪いことにより、出てくる資料やレポートのクオリティも低い。
当然、プレイヤーがこれまでに培ってきた勘や経験、クローズな人的ネットワークの価値は、金融の世界にもあります。それ自体の有効性は変わりません。しかし、金融業界で必要とされている仕組みは、本質的に不動産業界にもあってしかるべきだろうと考えています。
―次の世代にナレッジを残すというのは、不動産業界ではなかなか浸透していない部分ではないでしょうか。
そこまで社内での情報の共有に否定的な会社は少ないですし、仕入れ情報のルート整理はむしろほとんどの会社がおこなっています。ただ、仕入れ情報のルート整理すら行っていない会社は「REMETIS」は導入してもらえないかもしれません(笑)。
大きい会社でも部署間の情報共有は使っていただいています。
―2021年4月にはオーベラス・ジャパン(東京・港)が提供する「the REMS」との連携を発表されていますね。そのきっかけはなんだったのでしょうか。
顧客ターゲットが似ていて、お互いの足りないものを補っていると感じたからです。
最初の物件情報を入手するというのは「the REMS」が取り組んでいる領域なのですが、その後の行程、社内での情報を管理や、きちんとした物件資料作りは我々の領域です。そういった部分でシナジーを感じました。
こういったあらゆるサービスと連携していくことで様々な機能をひとつのサービスとして使えた方が良いと思っています。「the REMS」に限らず、例えば物件を購入した後の期中管理、毎月の収支や修繕履歴を管理するようなサービスとの連携なども考えています。
「そういった機能をつけて欲しい」という要望やその他の様々な細かいニーズがあるなかで、そういったことに1社が対応するのはとても難しい。
各社の強みや弱みがあるので、そこを上手く補い合って、上手なエコシステムを作り上げられれば、使う側からしても便利だと考えています。
―「the REMS」とはどういった連携を行ったのでしょう。
2021年5月は、レムスで物件を検索すれば、周辺の情報や謄本が取れるような機能を追加しています。相乗効果を期待して、これが利用者に好評であれば、さらに機能を追加していきたいと考えています。
―不動産テック企業には、自社で網羅的にサービスを提供していく会社と、様々なサービスと連携すること機能の幅を持たせていく会社、この2種類に分かれている印象があります。
もっと不動産テックマーケットが成熟していかなければどうなるかは分からないですね。そもそも、ITソフトウェアを導入する不動産会社もまだ少ないですが、今後導入が増えていく中でどういった会社のサービスが残っていくのかの見極めが必要かと思います。
―不動産テック自体がまだ不動産会社に受け入れられていない部分がある。
営業上、苦労するケースが多いですね。
サービスを買ってくれる人と買ってくれない人がいるのは、業種や規模などではないと感じています。
既に何かのソフトウェアを使っていて、業務が上手くいった経験や慣れている人は、理解が早くすぐに買ってくれます。「とりあえず使ってみて、上手くいかなければそのとき考える」という姿勢がある会社ですね。
それに対して、そもそも使い方が分からない、恐い。上手く使いこなせるか不安、昔使ってみたことがあるけれど、誰も使わなかった、のようなそもそもパソコンを触る気がない人たちは一定数います。そういった会社は導入に時間がかかる印象ですね。ただし、どんどん世代交代していくなかで、流れとしてはソフトウェアを利用して生産性をあげていかなくてはいけない時代になってきていますので、最初のハードルさえ乗り越えれば、使い続けてもらえると思っています。
我々のようなサービスを使っていかないと競争に負ける、サービスを使った方がより儲かるという状況を作らないといけないと思っています。