コンテスト登壇の様子 PID・嶋田史郎社長 画像提供=PID
2021年3月、Plug and Play Japanが主宰するイベント「Winter/Spring 2021 Summit」が開催され、IoT部門でPID(東京・港)が優勝した。
Plug and Playは、シリコンバレーを本拠地としたベンチャーキャピタルで、年間1兆円以上を運営する傍ら、大手企業とスタートアップを結ぶアクセラレータープログラムを世界中で提供している。
「Winter/Spring 2021 Summit」は、3カ月に渡って行われたアクセラレータープログラムの成果を発表するというもので、スタートアップピッチや企業パートナーなど154人が登壇した。PID・嶋田史郎社長に詳しく話を聞いた。
―アクセラレータープログラムで優勝したサービスについて教えてください。
2020年12月にβ版をリリースした不動産コミュニケーションをDXする「Dicon(ダイコン)」というサービスです。「Dicon」のコンセプトは、「誰でも簡単に、どこでも、どの言語でも、いつでも、いっぺん」にです。賃貸管理会社向けの入居者とのコミュニケーションをSMS配信で行い、16言語に自動翻訳するというものです。
管理業務は、担当者1人当たりの管理戸数が数百戸といったケースも多く、入居者からの問い合わせ対応が非常に煩雑になっています。また、近年外国人の入居者が増えているなかでは、外国語対応もしなければなりません。
「Dicon」は管理会社が抱えている「伝えているのに伝わらない」という悩みを解消します。
―自動翻訳するチャットサービスとして、「PROPERTY CONCIREGE(プロパティコンシェルジュ)」というサービスも提供していますね。そちらとの違いは何でしょうか。
「PROPERTY CONCIREGE」は、AIを活用した自動応答やボット対応を目的としていました。しかし、不動産業務は企業ごとに対応が違ったり、業務範囲が異なったりと、自動することはとても難しかった。また、それよりも、コミュニケーション自体に課題を感じている企業が多かったんです。
「Dicon」は、多機能だった「PROPERTY CONCIREGE」から機能をそぎ落として、いかに使いやすくするかをテーマに開発しました。管理画面のデザインも、見た目だけでなんとなくできること、機能が分かるようになっています。
また、管理者は担当者が顧客とどのようなコミュニケーションを行っているかが一目で分かります。例えば、クレームが来て、チャットで返したメッセージは読まれているのか、クレーム対応が終わったのかなども、感覚的に状況が分かる仕様になっています。
―使いやすさをかなり意識しているのですね。
「Dicon」の管理画面を見れば、ほとんどの人が説明無しで使うことができるでしょう。「小学生でも使える」を意識して作り込んでいます。
「Dicon」の管理画面 画像提供=PID
今後は、業者とのチャットも追加予定で、管理会社と入居者のチャットのなかに、業者を追加することができるようになります。仲介会社が管理会社に行う物確や原状回復工事の進捗なども確認することができる。そして、これらが全て多言語に対応しています。
―多言語の自動翻訳という分野は、注目されていて競合もあると思います。
多言語への自動翻訳だけを見ると、実はもっと優秀なテクノロジーを活用しているサービスはたくさんあります。「Dicon」はテクノロジーで差別化を図るのではなく「とにかく使われる」ことに注力しました。
高学歴やハイスペックな人でも、ビジネスの現場ではあまり戦力にならないようなことがありますよね。また、その逆も然りです。
優秀な自動翻訳も同様で、できる機能がたくさんあるけれども、使いこなせない。我々は、機能をそぎ落とすことでコストを下げ、クライアントへのヒアリングを重ねることで使いやすさを追求しました。
ひとつひとつの作業について手間になることをそぎ落としています。
細かく手間を取り除くことで、管理業務を何百件も処理している担当者の時間が、数十分から数時間縮まりますから。
また、β版にも関わらず、数十社で導入されており、製品版を6月から販売する予定です。
PID・嶋田史郎社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部
―アクセラレータープログラムでは、どのような企業とのプロジェクトが進んでいるのでしょうか。
アクセラレータープログラムを通じて、電通との防災コンテンツの多言語化や東芝デジタルソリューションズとのIoTプラットフォーム連携、東急不動産とはスマートシティー領域での利用等、様々な検討が進んでいます。
今回一番進んだプロジェクトとして、三菱電機インフォメーションシステムズの「TELEO(テレオ)」というシステム認証サービスと「Dicon」の多言語チャットを組み合わせて、多言語セキュリティチャットサービスが実現しました。
結果として「Dicon」のサービスがシンプルな仕組みだったからこそ、様々な企業と連携しやすくなったのだと思います。これをきっかけに、不動産の課題だけでなく社会の課題へもチャレンジしていきたいと思っています。
―アクセラレータープログラムに応募したきっかけを教えてください。
大企業とのアライアンスを求めて、というのが正直な話です。
2020年8月にPlug and playのアクセラレータープログラムを見つけて応募し、書類選考や動画先行、Web会議などを経て2020年11月に採択されました。
―採択されてから3カ月間のアクセラレータープログラムが始まるのですね。具体的にはどういったものだったのでしょうか。
スタートアップに必要なプロモーションや資金調達、ピッチ登壇に関するセミナーなど、実務的な講習がありました。また、企業と連携するための勉強や契約書の書き方、協業に関してアクセラレーターを通じて稟議の進捗やプロジェクトの進め方に関してのアドバイスなどもいただきました。
―「Winter/Spring 2021 Summit」での優勝という結果を通して、将来の展望や目標はありますか。
スマートシティー領域における世界の不動産テックになろうと思っています。
今回、Plug and Play Japanが採択した20社のうち、半分がヨーロッパや北米の外国企業で、もう半分が日本企業です。つまり、このアクセラレータープログラムは海外進出の足がかりにもなると感じています。
以前の取材でもお話ししましたが、住まいにおける言語の問題は日本だけで起こっているわけではなく、世界で起こっています。そこを「Dicon」によって解決していきたい。
PID・嶋田史郎社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部
また、東芝をはじめとしたメーカーのIoTデバイスと連動することでの駆けつけサービス、例えばガラスが割れたときや水漏れを検知したら自動で発報するといった仕組みも検討中です。また、自治体のコミュニケーションにも使われはじめ、多言語に対応することで、世界中で使うことができますから。
「Dicon」は多言語で対応可能なので、入居者・管理会社・業者の国籍が異なっても、自動翻訳で結びつくことが可能です。そこで、タイムゾーンが違う方にチャット対応を任せるといった「リモート管理」などもできるかもしれませんね。