不動産テックに関連する企業経営者や行政機関などに取材し、不動産テックによって不動産ビジネスがどう変わっていくのかを考えてみる。

 

今回は、個人の所有物をクローズドなコミュニティで貸し借りするプラットフォーム「Rentastic!(レンタスティック)」を提供するカローゼット(東京・港区)の内藤丈裕社長に話を聞いた。(リビンマガジンBiz編集部)


カローゼット・内藤丈裕社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

―カローゼットの事業内容について教えてください。

カローゼットは、2018年10月に電通グループの100%出資で設立された会社です。電通の社員だった私が社内ベンチャーに近い形で創業しました。

現在、「Rentastic!(レンタスティック)」というWEBプラットフォームサービスを運営しています。「Rentastic!」は、企業内やマンション内など一定の信頼関係のある人たち同士がクローズドなコミュニティ内で、個人の所有物(アイテム)を無料で貸し借りすることを支援するものです。事業者に従業員や住民間のコミュニティ醸成を目的に導入いただく、BtoBtoCのモデルになっています。

世の中には様々なシェアサービスがありますが、金銭支払いによって特定のモノを持っている人が持っていない人に貸すというものがほとんどです。しかし、それは本当の意味でシェアではないと感じていました。金銭授受なく互いに持っているものを貸し借りできる仕組みこそが、シェアと呼ばれるべきなのではないかと考えています。

―「Rentastic!」は、お金が介在しないシェアリングサービスとのことですが、どのような仕組みで運営しているのでしょうか?

自分の所有物(所持品)を貸した日数に応じて、「Renta!」というコミュニティ内で使えるコインが付与されます。そのRenta!を使って、他の人が貸出登録しているモノを、結果的に無料で借りられるという仕組みです。ギブアンドテイクのスキームと言えば分かりやすいでしょうか。


「Rentastic!」 画像提供=カローゼット

ユーザー登録時に5Renta!が自動付与され、貸すモノを登録するとさらに10Renta! が付与されます。またアンケートに回答することで追加のRenta!が貰えるなどの取り組みもスタートしています。それでも足りない場合には、誰かにアイテムを貸すことでRenta!を手に入れる必要があります。

Renta!を購入することも可能ですが、1Renta!=1000円と少し高めに設定しています。「相互扶助」のカルチャーを重視し、貸し借りの流れが自然と生まれるように配慮しているためです。

弊社では、この「自分の資産を貸した時間分だけ、他人の資産を借りる権利が与えられる」仕組みで特許を取得しました。当社独自のスキームとして展開できるのが大きな強みとなっています。

―モノの貸し借りのサービスをやろうと思い立ったきっかけは何だったのでしょうか。

当社は、もともと車を貸し借りするシェアリングサービスからスタートしたのですが、直後にコロナが起きて事業環境が急変しました。お出かけ需要が激減してしまったため、すぐに事業ピボットをし、サービス設計や開発、クライアント開拓など、さまざまな準備を経て、2021年1月に「Rentastic!」をリリースしました。

当初のサービス起案のきっかけは、私が車で雪山に行ったときの経験が原点になっています。スタッドレスタイヤを買うか、レンタカーを数日借りるか検討したのですが、どちらもそれなりのお金がかかってしまう。「たった数日だけなのに・・・何だかもったいない」と感じました。

そこで、ウィンタースポーツをやっている弟にお願いして、スタッドレスタイヤ付きの車を借りることにしたんです。代わりに弟には私の車を貸しました。

実際に貸し借りしてみて、すごく助かりましたし、お金をかけずにギブアンドテイクで解決できたことに感動すら覚えました。その瞬間にふと頭に浮かんだのが「向こう三軒両隣」という言葉で、隣人同士の相互扶助が当たり前のように行われていた時代は良かったんだろうな、と。改めて、これは日本人らしい素晴らしいメンタリティだと気づきました。

このときの原体験を、当社のビジョン「相互扶助という日本人らしいメンタリティに支えられた素晴らしい文化を、ITの力で現代風に蘇らせる」に反映させました。


カローゼット・内藤丈裕社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

―「Rentastic!」の収益モデルについて教えてください。

新築分譲マンション、賃貸マンションともに、事業者(デベロッパー、オーナーなど)に「1世帯あたり月額400円」をプラットフォーム利用料としていただいているのが基本的な収益基盤です。ただし、新築分譲マンションの場合、デベロッパーに永続的にお支払いをいただくわけにはいきませんので、当初の1年間に関して費用ご負担をお願いし、その後は利用者個人課金に移行していく、というようなイメージです。

また、顧客のファンコミュニティにおいてのご活用事例においては別の料金体系をご用意していますが、プラットフォーム利用料を企業にご負担をいただく、という基本的な考え方は変わりません。

―現在、ユーザー数はどのくらいですか。また、どんなアイテムの貸し借りが多いのでしょうか。

リリースからまだ2ヵ月足らずというタイミングですので、1,000名~2,000名というレベル感です。

アイテムで人気があるのは家電です。特にキッチン家電が多いですね。低温調理器やホームベーカリーなどが目立ちます。外出が制限されているため、家で楽しめるモノの需要があるのではと推測しています。その他では女性の利用者も増えているので、美容家電、またDIY系(ケルヒャーや台車など)も人気です。また、子ども服などでは「レンタルで気に入っていただいたら、そのまま差し上げます」という当初の想定外の利用ケースも結構あって興味深く見ています。企業における従業員間利用でのユニークな例では、都心にある自宅の駐車場を登録されているケースなどもあるんですよ。

「Rentastic!」には、メーカー企業などが新商品など自社製品を無料で貸出する「プロオーナー」という仕組みがあるのも特徴です。プロオーナーは、自社商品をモニター的に使ってもらい、アンケート回答やSNSでのPR協力を依頼することができます。利用者にとっては、試しに使ってみたい商品を無料で使えるのがメリットです。プロオーナー出品のアイテムはとても人気があって、ユーザーのアクティブ率向上にもつながっていますね。

―「Rentastic!」利用者の反応はいかがですか。

利用満足度95%と、想像を遥かに超えるレベルでご好評をいただいています。「購入に踏み切れなかった商品を試すことができた」、「暮らしに彩りが出て楽しい」、「コロナ過で外出がし辛い週末の家族の遊びの候補になった」、「同じコミュニティ内の人同士の助け合いという考え方に共感した」など、様々な観点からの感想がありました。

企業内での利用では、近隣に住まわれている人同士の貸し借りでないケースが大半ですからアイテムの受け渡しに宅配便を使う方が多いと予想していたのですが、電通グループ内のデータを分析すると、対面での手渡しが約6割と予想以上に多かったんです。社内で面識のない人同士でも、貸し借りを通じて会話や交流が生まれているようですね。

カローゼット・内藤丈裕社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

―不動産事業者は、どのような期待があってサービスを導入しているのでしょうか。

「地域住民間の豊かなコミュニティ形成につながる」と期待いただいています。ハードを開発するだけでなく、いかにソフトで付加価値を付けるか。これがコミュニティ醸成には重要だというお話で盛り上がることが多い印象です。

それから、導入済みのデベロッパーには「向こう三軒両隣」の理念に共感いただけていることがサービス導入の大きな鍵になったと感じています。「新しいことだからやってみないことには分からないけど、理念に共感できるから応援したい」と決定いただいたのは、とてもありがたく思っています。

―不動産業界での導入にあたって、ハードルだと感じる部分はありますか。

基本的に、新築のプロジェクトを中心に話を進めています。でも、新築案件は導入までの時間が長い、というのが資金繰りに難のあるベンチャーには辛いですね。

また、個人同士のレンタルにおけるトラブルリスクへの懸念は事業者の導入における最大のハードルです。クローズドなコミュニティにおける運用であること、さらに破損や盗難などのトラブルをカバーする保険を保険会社と共同開発して、登録ユーザーに一律自動付帯しています。

―今後の展望について教えてください。

BtoBtoCサービスなので、エンドユーザーに満足いただくのはもちろんのこと、導入事業者にも喜んでいただけるようなサービスとして成長を続けていくことが大前提だと考えています。

、ユーザー数やユーザーのアクティブ率を重視しながら、先ずは様々な導入ケースを増やしていくことが目標です。コミュニティ内の「相互扶助」のカルチャー醸成を通して、事業者と顧客の関係がより良いものになるように尽力していきたいですね。

将来的には「Rentastic!」を活用して、様々な社会課題の解決にも貢献できればと思っています。例えば、多くの世代が暮らすニュータウンで「共働き世帯の子どもを高齢者世帯が預かる」、「運転できない高齢者を車に乗せて買い物をサポートする」など、モノ以外でも労働力のギブアンドテイクができたらいいね、とある事業者さんと共感したこともありました。

 
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