不動産テックに関連する企業経営者や行政機関などに取材し、不動産テックによって不動産ビジネスがどう変わっていくのかを考えてみる。
今回は、gooddaysホールディングス(東京・品川)小倉弘之副社長に話を聞いた。(リビンマガジンBiz編集部)
gooddaysホールディングス・小倉弘之副社長(画像提供=gooddaysホールディングス)
―gooddaysホールディングスは、どんな事業を展開しているのでしょうか。
暮らし領域のメディア事業とリノベーション事業、IT事業の3つの軸で展開しています。
メディアとリノベーション事業は、グループ内のグッドルーム(東京・渋谷区)が管轄しています。サービスとしては、リノベーションやデザイナーズ賃貸物件を紹介するWebメディア「goodroom」、賃貸リノベーションの企画・施工・募集までワンストップで提供する「TOMOS」を提供していますね。
IT事業は、オープンリソース(東京・品川区)が担当し、賃貸の申し込みや契約の電子サービスの開発・販売などを行っています。
幅広く事業をやっていますが、当社は、不動産テックやDXの文脈というよりか、暮らしに関わる領域を上流から下流まで手掛ける会社と位置づけています。特に、家を購入する前の35歳頃までの層をメインターゲットに「心地よい暮らし」を実現するサービスに注力しています。
―小倉副社長は、もともと2009年に賃貸リノベーション事業で創業されましたね。創業時からIT事業を行う構想はあったのですか。
IT事業をやっているオープンリソースは、私の父が経営している会社ですが、創業当時は事業でマッチする部分がなく、協業することは全く考えていませんでした。
ところが、賃貸のエンドユーザーとの接点をつくるためメディア事業をスタートしてから、自社でもエンジニアや技術のリソースが必要になったんですよね。ならば協業した方がよりシナジーが生まれると判断し、2016年にホールディングス化して今に至ります。
―お部屋探しメディア「goodroom」について教えてください。
2014年に立ち上げ、2021年1月時点でユニークユーザーは130万ほどのメディアへと成長しました。リノベーション物件やオシャレな物件に住みたいユーザー層に浸透してきたと思います。
紹介している物件の約95%が他社の管理物件で、5%が自社施工の物件になります。単に物件情報を掲載するのでなく、当社が取材して、その物件ならではの魅力を打ち出しているのが特徴です。暮らしに関するコラムなど独自コンテンツも作っています。
一般的なポータルサイトでは、ユーザーの多くは「築年数」を重視するので、築古物件ははじかれてしまいがちです。その点、「goodroom」では、築年数関係なく入居が決まるケースがほとんどなので、管理会社さんからは「選ばれにくい物件でも決まるので助かる」と重宝いただいていますね。
WEBサイト「goodroom」(画像提供=gooddaysホールディングス)
―掲載する物件のレギュレーションを独自に設けているのでしょうか。
特に設けてはいません。基本的には依頼いただいた物件を掲載していますが、ユーザーファーストの観点から、ユーザーに人気のある物件を上位表示させています。結果、なかなか上位に上がって来ない物件がどうしても出てきてしまいますね。管理会社さんにはそれを了解いただいたうえで掲載しています。
―オフィスやホテルの掲載もありますね。この領域も注目しているのですか。
そうですね。シェアオフィスやコワーキングスペース、リノベーション済みのオフィスや、長期滞在向けのホテルなど、対象物件の幅が広がりました。
「goodroom」に多くのユーザーが集まっていること、そして彼らの住まい方、働き方が多様化していることから、領域が拡大してきています。
―7年近くメディアを運営してきて、ユーザーのリノベーションに対するイメージはどのように変わってきたと感じていますか。
「goodroom」を立ち上げた当初は、「デザイナーズ物件」という言葉が主流で、リノベーションに対する認知度は今よりずっと低かったです。
ところが、現在「デザイナーズ」の検索数と比較して、「リノベーション」というワードの方が2倍くらいのボリュームになっています。ユーザーの中でも、リノベーションはブームを超えて、住まいの選択肢の1つになっていると感じますね。
―不動産業界がより良くなるには、どうあるべきと考えていますか。
当社は、どの事業でもユーザー目線を重視しているのですが、業界全体も「ユーザーが何をどう感じるか」の視点をより意識する必要があるのではないかと思っています。
例えば、「goodroom」の物件紹介では、物件の良いところだけではなくマイナスな部分も書いています。部屋を選ぶユーザーは、プラス面もマイナス面も含めフラットな情報を知りたいと思うからです。
ところが、事業者側からすると「マイナスなことを書くと、反響につながらないのではないか」という意見もあります。理解できるのですが、業界目線の利益だけでなく、ユーザーの視点も取り入れて融合させていくのが、業界発展には大事なことだと思います。
様々な領域に拡がる事業内容 (画像提供=gooddaysホールディングス)
―確かにそうですね。一方で、ユーザー側の知識が不足しているケースもあると思います。
ユーザーも何を求めているのかが分からない場合があるでしょう。私たちの役割は、潜在的なニーズを汲み取って、「こんな暮らしはどうですか?」と投げかけ、気づいてもらうことにあると思っています。暮らしの選択肢を提示することは、今後も大切にしていきたいですね。
―リノベーション業界に対して感じる、課題や改善点はありますか。
当社でもそうですが、施工に関しては、まだまだ生産性が低いのが実情です。少し前まで、現場の職人の方との連絡手段は電話でした。今はLINEを使っていますが、別のコミュニケーションツールやシステムを使えば、より早く便利になると思います。改善できる余地は多々ありますね。
リノベーション業界では、大手不動産会社や工務店以外に、私たちのように新規参入のベンチャーが徐々に増えてきました。こうした企業が積極的にITを活用していけば、業界全体の生産性が高まっていくのではと思います。
現場では、ツールを使いたくないのではなく、昔ながらのやり方を続けているだけだったりします。しっかり説明して慣れていけば、 浸透していくと思います。
―不動産テック企業において、成功する・しないの違いは何だと思いますか。
「どの市場、どの領域でサービス展開するか」は、とても大事だと思っています。
当社の場合ですと、既存の賃貸市場に「メディア」を掛け合わせて、事業拡大してきました。このように、すでにある程度出来上がっている市場の「負」を取り除いたり、付加価値をつけたり、切り口を変えることで、事業を育てる方がうまくいきやすいと感じます。
一方で、ゼロから市場をつくるのは、時間がものすごくかかります。その分、資金面やリソース面で苦労する可能性が高くなると思うんですよね。VRやIoTなど最先端のテクノロジーは私も興味があるのですが、市場に導入するタイミングの見極めは冷静に判断したいところです。導入が早すぎれば、コストが高くついたり、全く必要とされないこともありますので。
―今後の展望について教えてください。
まずは、地に足をつけて既存事業を伸ばしていくことですね。さらにサービスを磨き、利用者を増やしていきたいと思います。
特に、メディア事業は、多数のユーザーを集めていることが強みとなり、他の事業へと波及させることができたので、引き続き注力していきます。
一方で、長期的な目線も重要です。現在、グループ全体で売上高60億円ほどの規模ですが、10倍以上事業を伸ばしていくにはどうしたらいいか?という観点でgooddaysホールディングスの今後をつくっていけたらと考えています。