遠くない将来、不動産テックによって不動産ビジネスは劇的に変化すると言われている。これまでの商慣習や仕組みが変わり、無数の新ビジネスが生まれるかもしれない。
不動産テックに関連する企業経営者や行政機関などに取材し、不動産テックによって不動産ビジネスがどう変わっていくのかを考えてみる。
今回は、月極駐車場のポータルサイト「at PARKING」を運営するハッチ・ワーク(東京都港区)・増田知平社長に話を聞いた。(リビンマガジンBiz編集部)
ハッチ・ワーク・増田知平社長 画像提供=ハッチ・ワーク
―提供しているサービスについて教えてください。
当社が提供している「at PARKING(アットパーキング)」は、月極駐車場のポータルサイトです。「at PARKING」は月極駐車場の検索から、契約までを最短30分でオンライン完結させることができます。
月極駐車場を探している方は、駐車場の看板を見て問い合わせすることも多い。そのため、看板にQRコードを付け、駐車場が空いたら通知が来る「アキマチ®」というサービスも提供しています。今、「アキマチ®を導入している駐車場の7割に予約が入っています。多いところでは、1つの駐車場で120人が空きを待っているケースもあるんですよ。
―120人も待っているとは驚きます。月極駐車場のポータルサイト以外にも取り組んでいることがあるそうですが。
2018年から、クラウド月極駐車場管理システム「 at PARKING 月極パートナーシステム」をリリースしました。我々の知る限り、日本で最初のサービスです。
これは、通常管理会社が行っている月極駐車場の業務に関わる募集から契約、審査、保証、督促、解約といった業務をアウトソーシングで行うサービスです。当社の調査では、月極駐車場の管理業務を最大で95%削減することができます。
―集客としてのポータルサイトと、月極駐車場業務支援サービスを提供しています。月極駐車場向けのサービスを始めたきっかけを教えてください。
「at PARKING」は、私が月極駐車場を契約しようと思った際、ネットで調べても物件情報が出てこなくて、見つけられずとても手間がかかったことがきっかけで生まれました。ホテルのようにオンラインで予約できないことを非常に不便に感じ、2010年に月極駐車場の支援事業を立ち上げました。
当初から、インターネットで探せて、オンラインで申込みができ、審査も自動でできるというサービスを理想にして考えていました。
そこで、まずはインターネットで検索できるデータベースを作るために、オーナーや管理会社から情報をもらおうとしました。しかし、そう簡単に情報はもらうこともできず、アルバイトを100人以上雇い、都内の主要三区から月極駐車場のデータを集めるローラー作戦を行いました。
しかし、データが集まっても集客ができません。サイトに公開しても反響がないんですね。
もうダメかなと何度も思いまいたが、データが1万件を超えたタイミングでアクセスが徐々に増え始めました。ユーザーが集まってきたら管理会社に価値を感じていただけるようになり、データを提供してもらえるようになりました。
―まずは、月極駐車場のデータを集めたわけですね。そこから事業者とユーザーを繋ぐポータルサイトやオンライン契約サービスの提供に広げていった。サイトへのアクセスが増えてからは、順調だったのでしょうか。
単純にはいきませんでした。
2016年頃に、自社でオンライン契約のシステムを開発しました。
当時は、当社で借り上げている駐車場で、テスト的にオンライン契約を始めてみると、非常に業務効率が良くなりました。
それを駐車場の管理会社に提案したのですが、実は業務のもっと深いところに課題があった。「at PARKING」がユーザーを送客することはウエルカムですが、契約業務だけをオンラインで解決しても、管理会社の本当の困りごとはそこではないことが分かったのです。
―どういった部分が管理会社の課題だったのですか。
確かに、オンライン契約によって紙の契約書をやりとりするといった物理的な不便を解消することはできました。
しかし、管理会社が本当に困っていたのは、契約した後でした。滞納が発生したら電話をして回収しなければならない。また、駐車場に設置した看板からは「満車でも空きは無いですか」の電話がかかってくる。月極駐車場の管理は複雑で負担の大きい大変な業務だったんですね。
契約後にこうした一連の業務負担に悩みがあることを知りました。オンライン契約だけを切り離してサービスとして提供しても、業務効率が大きく改善することはなかったのです。
そこで、月極駐車場の業界をオンライン化させるために、遠回りするべきだと考えました。月極駐車場管理に関する業務全部にソリューションを提供するということです。集客とコストダウンを両立し、管理会社にとっても売上が上がっていく仕組みです。それが「at PARKING 月極パートナーシステム」です。
集客は「at PARKING」から行います。そして、来たユーザーをオンライン契約で完結させます。ユーザーにとっても契約が楽になることはメリットです。
ただし、ここにも1つ問題がありました。それは審査です。
管理会社にはオーナーへの責任があります。何かあったときに責められるのは管理会社です。その審査を我々に預けることはリスキーでした。しかし、我々が審査をやらなければ、シームレスでオンライン完結することはできない。
そこで、審査を我々がやると同時に、家賃債務保証の提供も行うことにしました。
―月極駐車場に家賃債務保証があるとは知りませんでした。
駐車場の家賃は賃貸住宅と比べて少額ですから、悪気はなく支払いの優先順位が下がってしまい、ついつい忘れていたなんてことがよくあります。金額に関わらず、管理会社は督促しなければならないわけですから、管理会社にとって月極駐車場の滞納回収は負担の多い業務なんです。
そこで当社で保証をするわけですが、家賃債務保証をするなら、我々の与信が問われます。そこで信託保全という仕組みを作りました。私たちが預かった保証料金は、一旦信託銀行に入って保全されて、それが保証に充てられる。もし、当社に何かあっても管理会社やオーナーに不利益がない仕組みを作りました。
また、現地で何かトラブルがあっても、電話による一次対応は我々が行います。
このように、10年の時間をかけて月極駐車場に関する全ての仕組みを作り込んでいきました。
自分たちが使って便利だったオンライン契約をマーケットに出してから、全ての業務に関してプロトタイプを作り、1年以上テストをして、世に出していくことをずっと繰り返しています。