―不動産事業者との取り組みも広がっているようですね。以前の取材時には東京建物との提携を紹介いただきました。不動産事業者にはどういったニーズがあるのでしょうか。
各社、狙いは本当に様々です。
例えば、東京建物とは、様々なアセットタイプにおいて取り組みさせていただいていますが、そのひとつは、分譲マンションのラウンジを住人以外の第三者も利用できるようにするという実験的なものです。そして、収益をマンションの修繕費用に充当していく仕組みです。マンションの修繕費用が不足しているのは、社会問題化していますから、そこに新しい解が導かれる可能性もあります。
大東建託は、賃貸併用住宅のように、レンタルスペース併用住宅をプロデュースしています。これも実験的な取り組みですが、1つの建物に多様な用途が混在するわけで、成功事例が出てくれば、商品化できるでしょう。
―賃貸住宅として貸すより、「スペースマーケット」に掲載した方が、利回りが高いケースもありますね。ある意味では物件の最有効使用を再定義することもできる。
そういった事例はかなりあります。
特に築古物件では、一般に築年数が経つほど賃料が落ちますが、レンタルスペースなら築古であることがそこまでネガティブではないので、継続的に稼働できる。
また、賃貸住宅は立地が賃料に大きな影響を与えますが、2~3時間のスペース利用ならあまり影響はありません。それよりも内装や使い勝手、その空間のストーリーやレビューの方が重要です。
―建物の居住性というか、利用価値がダイレクトに評価されるわけですね。面白いところでは、鉄道会社との取り組みもありますね。
京王電鉄とは、高架下の飲食店・店舗撤退後のスペース活用でも協力しています。次のテナントが決まっていない、決まっていても入居できるまでに期間があるといったケースで、「スペースマーケット」が役に立っています。こういった遊休不動産に関する問い合わせは多いですね。
鉄道会社は、沿線活性化が至上命題です。しかし、保育園やサ高住建設などは、コストや時間がかかってしまう。「スペースマーケット」なら、空きスペースがあればすぐに始められ、結果も出ます。社会性のある取り組みとしても意義を感じていただいています。
沿線にシェアスペースを作れば、周辺の商業施設やスーパーでの消費が増える傾向にあることも分かりました。近くの商店街や商業施設で少し贅沢な食材やお酒を買って、スペースで飲食する人も多いようです。
―不動産業界や事業者のスペースシェアに対する関心や捉え方に変化があったのでしょうか。
不動産取引に、シェアリングという新しい取引形態が生まれ、徐々に大きくなってきている。また、最近ではWeWorkやOYOといった企業が日本に参入して、これまでにない空間の使い方を実感し始めたのだと思います。
また、「働き方改革」などの影響もあるでしょう。
「フレキシブルオフィス」といった概念は、今後必ず伸びていく分野と思っています。今もコロナウイルスの影響で、多くの会社が時差通勤やテレワークを始めていますね。
―働き方の変化もスペースシェアに影響を与えているのですね。
2011年の東日本大震災以降、オフィスのカジュアル化が進みました。ビジネスマンがスーツを着なくなりました。
今回もそれに近いと感じています。
オリンピック期間中、大企業はテレワークやリモートワークをするよう提唱しています。「フレキシブルオフィス」や当社が「ソロワークスペース」と呼んでいるような1人〜少人数で作業・仕事をするスペースへのニーズも高まっていくでしょう。
今回のコロナウィルスの影響を受け、スペースマーケットにも、安心して使えるワークスペースを探している方からのお問い合わせや利用をいただいています。これらも、今だからこそできるスペースシェアの貢献の形だと考えています。
そこで、スペースを貸し出しているホストへ協力を呼びかけたところ、テレワーク用の安いプランを多くの地域で提供できることになり、「テレワーク応援特集」をスタートしています。
今後、感染の広がり方や政府の方針等によって、働き方やテレワークにおける課題も多様化しするでしょう。その状況に応じて、皆さんが工夫される中でうまく「スペースマーケット」を活用いただければ幸いです。
撮影=リビンマガジンBiz編集部 スペースマーケット・重松大輔社長
―スペースマーケット社は、メインはスペースシェアのプラットフォーム事業ですが、それに付随し、スペースを活用した法人向けのプロモーション支援の事業も行っています。いわゆる、賃料・スペース利用料以外でのマネタイズポイントを作るという点では、WeWorkやOYOに近しいものがあります。
スペースに企業の商品を設置し、”体験できる”広告媒体として活用する事業です。
「スペースマーケット」は、ユーザーターゲットがセグメントされており、特定少数でのイベントや会議利用が非常に多い。
つまり、コミュニケーションを取りながら商品を使ってもらう機会が多い。そういった体験は、道ばたでサンプルを受け取るよりも効果的です。一緒に共通の体験をすることで、ブランドや新商品の定着率が上がります。
例えば、家電です。
量販店では説明は受けられても、実際に動かして深く体験することが難しい商品もあります。「スペースマーケット」なら、実際に使ってみる、調理するといった体験も可能です。
あるキッチンメーカーでは、立派なショールームがあるにも関わらず、電気が通っていなくて、従業員もシステムキッチンを使ったことがなかったそうです。そこで、当社のレンタルスペースにキッチンを設置し、そこで従業員が接客するといったことも行われています。
新しい体験型マーケティングです。
―スペースシェア業界に感じている課題はありますか。
継続して取り組んでいかなければならないのは、安心と安全を担保することです。
もしも事故が起きたときの保険サービスや困った時のカスタマーサクセス、サポート体制をこれまで以上に整える必要があると考えています。
また、データの集積・分析も重要です。
不動産の売買や賃貸に関するデータは、既に膨大にありますね。しかし、時間単位でのレンタル情報や、利用目的、エリアごとの平均利用金額といったデータは、まだ少ない。ですが、蓄積しているデータからきちんと整理して活用を加速していきたいと思っています。
―今後の展望はありますか。
売買・賃貸というメインの不動産取引形態に加えて、時間貸し(シェアリング)という文化を確立していきたいと思っています。
駐車場が月極から時間貸しにシフトしていったように、あらゆるスペースが時間単位でシェアされることで、遊休スペースがもっと活用されるようになる。遊休不動産が稼働することは、不動産業界の活性化になる。
不動産シェア・スペースシェアを当たり前にしていきたいですね。
そのために、2019年12月にスペースマーケット パートナーズを立ち上げました。
これは、スペースシェアの体験価値を上げるための取り組みの一環ですが、当社だけでは出来ることに限界があります。周辺事業の事業者の皆さんと一緒に市場を広げていくことで、共に成長していきたいと考えています。物件の開拓やオペレーション、内装やICTといった、スペースシェアを取り巻く様々なプレイヤーと、一緒にソリューションを作り、あらゆる場所にスペースシェアがある世界を作っていきたいと思っています。