遠くない将来、不動産テックによって不動産ビジネスは劇的に変化すると言われている。これまでの商慣習や仕組みが変わり、無数の新ビジネスが生まれるかもしれない。

今回は、不動産売買業務専用の物件情報管理ツール「RIMS(リムズ)」を提供するアクア(東京・新宿区)・倉田哲明社長に聞いた。(リビンマガジンBiz編集部)

アクア・倉田哲明社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

―提供されているサービスについて教えてください。

当社が提供している「RIMS」は、不動産売買業務専用の物件情報管理ツールです。

日本全国津々浦々、40以上のポータルサイトと連動しており、一括で出稿業務を完了することができます。物件情報や顧客情報の管理やウェブサイトの構築など、様々な機能が備わっています。

「RIMS」 画像提供=アクア

自社HPの個別カスタマイズや機能の拡充、最近ではハウスメーカーから場現ごとの特設サイトなどにも「RIMS」を活用いただいています。独自デザインのページの裏側に「RIMS」のシステムが連動しており、入力した情報が自動的に反映させることが可能です。

―物件情報の出稿・掲載の一元管理ソフトですね。

「RIMS」は、不動産事業者がユーザー目線になれるプラットフォームだと思っています。

不動産事業者は、自分たちの思いをそのまま直球で物件情報を発信しているような気持ちになっているところも多い。しかし、それでは不十分なケースもあります。

自社HPに掲載している物件情報でも、営業担当者の知識不足ゆえに、情報項目に不備があるケースもあります。

例えば、新築です。

竣工してから1年が過ぎていても未入居ならば新築だと思っている営業担当がいる。築後未入居は、どのタイミングで中古になるのか。

「RIMS」では、こういった情報もユーザーが本当の情報が知ることができるように、自動的に情報が変更される機能やアラートが出て気付けるようにしています。この機能で、出し間違いや公取違反を未然に防ぐことができます。

「RIMS」はエラーチェック機能の特許を取っています。ユーザーから必要とされる最低限の情報は担保されているはず。物件情報管理やコンバート機能、情報の正誤判定などは、不動産事業者の業務効率などにも貢献できていますね。

―「RIMS」はいつからあるサービスなのですか。

基礎になるシステムが2005年サービス開始し、RIMSになったのは2009年ごろからです。

売買領域のサービスでは、最も古いものでしょう。

全国の不動産会社に導入いただいていて、アカウントベースで1,000以上が稼働しています。

―公取違反の対象となるポータルサイトでの「おとり物件」は長らく問題になっています。

私の見解では、最近はありませんね。2~3年前までは、ちょくちょくあったと思います。

「システムのせいにして、更新できなかったことにできませんか?」と言われたことも1~2度ではありませんでした。

―「おとり物件」がなくなってきているのは、何かきっかけはあったのでしょうか。

多くの物件を扱う事業者の場合は、管理者を置くようになってきていますね。

今までは物件情報を公開するところまでアルバイトに任せていましたが、変わってきています。アルバイトを使っていても、リーダーをおくなどしています。会社や単価の高いポータルサイトの場合は、課長などの役職者が公開する物件を選ぶなど、ポータルサイトの戦略的な活用や効果的な方法を模索しているようですね。

効果のある物件を載せようとする意識が強いと思います。今まではアウトソーシングで物件入力を任せていた会社も、社内でも入力メンバーを増やしていこうとしているようです。

 

アクア・倉田哲明社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

―今では、ほとんどの会社が「RIMS」のような物件情報の一括管理サービスを利用していると思います。他社のサービスとの差別化ポイントはどういったところでしょうか。

各ポータルサイトが設定している「使用禁止文言」を、細かくチェックすることが可能な部分です。また、他社のシステムよりもHPの作り込みや自由度が高い点も差別化ポイントになります。デザイン会社が作ったページを「RIMS」に組み込む、といったことも多いので、決まったテンプレートなどに依存しません。

現在、「RIMS」はポータルサイトへの出稿側に関するプラットフォームになっていますが、売主反響の受け取り側もやりたいと思っています。ある意味サービスとサービスを繋ぐ「ハブシステム」ですね。

「RIMS」を様々なサービスと繋げ、不動産事業者が使いたいサービスを「RIMS」を通して使えるようにしたい。

―様々なサービスを一元で管理していますね。不動産テックに類するサービスについては便利と感じていても、いろいろなサービスを使うと管理画面が増えることがネックになって導入を見送るケースもあります。

そうですね。だから、「RIMS」によって管理画面をまとめられるのであれば、凄く便利でしょう。

―倉田社長は、2002年から10年間アットホームで働かれていますね。不動産テックという言葉が出る前からITサービスを提供していた立場から見て、現在の不動産業界に感じていることはありますか。

不動産業界のネット・IT化の基盤を作ったのはアットホームだったと思っています。アットホームにいたときは、あまり感じませんでしたが、今になってそう感じます。

現在の不動産情報のやりとりは、アットホームのネットワークを作ることが始まりでした。今は亡き、アットホームの松村文衞会長が不動産チラシを配り歩いて、「不動産情報は供給するべきもの」「買主も売主も利益を享受できる仕組み」ができたと思います。

それが、技術革新によってインターネットというネットワークによって、更に加速した。不動産とテクノロジーの関係についてなら、このように歴史を考えています。


アクア・倉田哲明社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

―不動産事業者の変化も肌で感じているのでしょうか。

皆さんがよく言われているように、不動産業界では様々な変化が生まれています。

その一方で、私が感じているのは、「業界は関わっている人が変わらないから温かい」ということです。

―人が変わらないから温かい?

不動産事業者とのコミュニケーションのなかで、「昔はこうでしたね」「今はどうですか?」という世間話が楽しい。「業界は狭い」とよく言いませんか。その狭さが楽しいと思うのです。

初めての人と話していても「あの会社にいらっしゃったのですか。あそこではこういったことでお世話になっていました」と言える。技術やITの変化が起こっている一方で、関わっている人が変わらないことが嬉しくて楽しいなと感じています。

これは、不動産テック企業も同じで、その温かさを感じているかどうかはサービスを提供する側として重要でしょう。

―そういう温かさについては感じていない企業のほうが多いと思います。

頭でっかちで商品化したものは、業界には定着しないと感じていますね。

これからのITや技術革新は、業界に魔法使いを生むんです。当然ですが…当社も不動産事業者を魔法使いにしたい。ただ、血が通っていないIT・テクノロジーサービスは、魔法使いにはできないでしょう。

―不動産サービスのハブになるという言葉がありましたね。不動産業界への役割はいろいろありますね。

当社の営業は、営業ではありません。

営業活動ではなく、あくまでディレクション活動、コンサルティング活動の一部だと思っています。御用聞きや相談にのるなかで、役に立ちそうであればサービスを使ってくださいというスタイルです。

いまだに、お声がけいただいても、むやみやたらに受注するのではなく、「今はまだサービスはいらないのではないですか」と、不動産事業者のことを第一に考えるようにしています。

そういった毅然とした姿勢を示していると「あのとき相談に乗ってくれたよね」と戻ってきてくれますから。これが業界の温かさです。

そのためには共通言語となるよう、不動産業界の知識や深い理解が必要です。大手のシステム会社が不動産事業者と話をしても会話にならないでしょう。システム会社としては一流としても、不動産業界に入ってくると二流・三流になってしまうんです。

―将来の展望はあるのでしょうか。

先ほどから言っているように、「RIMS」をプラットフォーマーとして、様々なサービスのハブになりたいと思っています。

引き合いがあれば、全国どんなポータルサービスでも繋いでいこうという意識です。

また、最近ではLINEと「RIMS」を繋ぐなど、ポータルサイトだけではない領域にも機能連携は広がっています。そのほかにも、当社のグループにある翻訳機を作っている会社などとも連携し、グローバル対応などもできるようにしていきたいと思っています。

不動産事業者のITやテクノロジー化のきっかけや、サービス導入の気づきを与えたいと思っています。

不動産事業者も、これまでのやり方に固執している数は少なくなってきています。しかし、だからどうすれば良いのかが分からない。そこに我々から気づきを与えたいと思っています。

 
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