2019年9月5日、弁護士ドットコム(東京・港区)とマイナビ(東京・千代田区)主催の「令和時代を生き抜く、不動産テック活用術」セミナーが開催された。
不動産テック協会代表理事の武井浩三氏をはじめ、賃貸仲介大手ハウスコム(東京・港区)田村穂社長など、不動産テックや不動産業界の有力者たちによるパネルディスカッションも行われた。今回は、その様子を紹介する。
IT世代の引っ越し動向
マイナビ 住まい情報事業部 コンテンツマーケティング部 部長 前田勉氏
マイナビ 住まい情報事業部 コンテンツマーケティング部 部長 前田勉氏
新入生や新入社員といった若い世代の部屋探しや引っ越しの動向変化についてマイナビ 住まい情報事業部 コンテンツマーケティング部 前田勉部長が紹介した。
同社が新入生や新入社員を対象に行ったインターネット調査では、女性を中心に部屋探しの手段がより「スマホ化」し、TwitterやインスタグラムといったSNSで地域情報が収集されており、多様なスマホサービスが部屋探しに活用されているといった傾向があったという。
また、「今後、物件の契約に関して、ネット上だけでお部屋探しから契約までを終えたいですか」という質問には、新入生の約4人に1人、新入社員の約5人に1人が「はい」と答える結果となった。
前田氏は、「消費者に対してVRの内見やIT重説の認知が進み、いち早く取り入れる不動産会社が増えれば、消費者が不動産会社を選ぶ大きな要素となるだろう」と語った。
IT重説×電子契約で変わる 不動産会社の働き方
弁護士ドットコム 取締役 クラウドサイン事業部長/弁護士 橘大地氏
弁護士ドットコム・橘取締役
弁護士ドットコムが提供する「クラウドサイン」は、50,000社以上が導入している電子契約サービスだ。日本国内で行われる電子契約の約85%を占める。
同社・橘取締役は、2019年9月にリリース予定の新サービス「クラウドサインNOW」が、同サービスが賃貸業界にどのような効果を生み出すのかを紹介した。
「クラウドサインNOW」はiPadを使った対面式の契約・署名サービスだ。手書きで入力された文字を自動で読み取り、リアルタイムで活字に変換されていく。例えば、賃貸仲介業における「来店カード」や「顧客カルテ」などに活用できる。
橘取締役は、顧客に書いてもらった「来店カード」や「顧客カルテ」の情報を電子化している不動産会社は全体の2割程度だと語る。しかも、データ化するには手書きの情報を転記する手間が発生し、膨大なコストや時間が発生していた。
「クラウドサインNOW」を使えば、手書き入力された情報が即時にデータ化され、分析することが容易になる。
データの蓄積と分析の重要さを会場の参加者に説いた。
パネルディスカッション:
「令和時代を生き抜く、不動産テック活用術」
パネルディスカッションでは、ハウスコム・田村穂社長、不動産テック協会・代表理事 武井浩三氏、弁護士ドットコム・橘取締役が登壇した。
不動産テック協会・代表理事 武井浩三氏
武井氏は「これまでのように、お金を払って広告を出し集客していた―いわゆるお金でお客さんを買う時代は終わった。付加価値を生み出さなければならない」と、これからの賃貸業界に対しての課題を語る。不動産テックが不動産業界に与えるのは、「コスト削減」と「付加価値提供」の2種類だ。本来、無駄が発生していた業務が不動産テックによって効率化されれば、属人的な部分だけが残ることになる。そこではじめて不動産会社同士がどう付加価値を高めることができるかを問われる時代がやってくるかもしれない。
弁護士ドットコム・橘取締役
橘取締役も、「電子契約をはじめとした不動産テックサービスは、不動産会社ではなく消費者がどう感じるのか、何を求めているのかが重要だ」と語る。消費者がより便利なサービスや仕組みを求めていくのであれば、それは不動産テックサービスの活用は不可避なことだという。
ハウスコム・田村社長
AIによる物件紹介やVRサービスなど、不動産テックに積極的なハウスコム・田村社長も「不動産テックを活用することは、お客様目線の追求と密接に関係している」と述べる。同社が不動産テックに取り組みだした3年前から、業績は連続伸長している一方で、田村社長は「思っているより生産性が上がっていない」と感じている。旧態依然の商習慣やマインドは、あまりにも不動産会社都合な部分が多く、顧客がないがしろにされている部分は多い。不動産テックを活用して、本当に便利なサービスを追求することで、顧客が満足する付加価値を提供できると語った。