―どういった経歴でフォトシンスを立ち上げたのでしょうか。
私は、鹿児島県の種子島で育ちました。
それが、ビジネスの原点だと思っています。
自然豊かな環境で暮らし、親が理科の教師で、年がら年中、自然の研究をしていました。私も自然が大好きで、マングローブで1日中遊んでいました。
しかし、近年はゴルフ場の開発などで、どんどんマングローブが減っている。環境破壊といった大きな問題ではなく、私には単純に「遊び場が減っていく」といった感覚が強くて、それをどうにかしたいと考えていました。
筑波大学に入学したのも、エネルギー問題に取り組むためでした。化学の世界に進もうと思ったんです。環境問題に取り組むためには、テクノロジーの研究か環境ビジネス、もしくは政治のどれかだと考えており、そこで出会った学生団体が環境問題をビジネスの切り口から解決するサークルで、私は代表も務めました。
そういった経験を通して、テクノロジー研究は不確実さが大きい。国の研究予算が減らされるなど、自分の力ではどうにもならない要素が多かった。しかし、ビジネスであれば自ら仕組みを作り、直接社会貢献することができると思い、大学卒業後、起業家排出企業と呼ばれるガイアックスに就職しました。
―ガイアックスは、ITやマーケティングが事業の会社です。環境問題とも、スマートロックとも縁遠いと感じます。
ガイアックスには3年半務め、新規事業に携わりました。
そのかたわらで、個人的にいろんなことにチャレンジしました。
例えば、障害を持った方を雇用し農場を経営するNPOの立ち上げや、スマートフォンアプリの制作、保険系のウェブサービスなどあらゆることに取り組んでいました。
そのなかに家庭向けの「Akerun Smart Lock Robot」がありました。
最初は、土日だけでやっている趣味のような活動の1つでした。
ある時、日本経済新聞で試作品の「Akerun Smart Lock Robot」をたまたま取り上げていただくことがありました。
すると「出資したい」「業務提携したい」や「製品を買って使いたい」といった話がたくさん来ました。本当にちょっとした趣味でやっていて、量産する予定もなかったのですが、あまりにもニーズが強かったので起業したというのが実際のところですね。
―環境問題がきっかけとなりビジネスを学び、企業に繋がったのですね。
そうですね。
環境については、常に頭の中にあって、実はフォトシンス(Photosynth)は「光合成」という意味です。
現在も、省人化や空間に人がいないときのエネルギー消費を抑えるといったことに取り組んでいます。将来的にはもっと直接的に環境に関わるビジネスをやっていきたいと思っています。
―「Akerun」でセキュリティレベルが上がったオフィスは、物件のバリューアップに繋がるという考え方もできると思います。しかし、不動産会社や管理会社は導入に積極的ではないようです。どういった理由はあるのでしょうか。
まず、東京都内を始めとして、オフィスの空室率が非常に低いという理由があると思います。
物件の価値を上げなくても、埋まっているという状況です。ホテル業界も同様ですが、差別化しなくても客が来るなら新しいことに取り組む意欲は出てきません。
しかし、よく言われるようにオリンピック後も、この空室率が続くかどうか。
空室率が下がったとき、差別化しなければ入居が付かない時代が来ると思います。
今は強気で賃料交渉を行っていても、数年後には必ず変化を求められます。
また、管理会社が「どういったテナントが入っていて」「どういった事業を行っているのか」といったデータを持っていないこともクリティカルな課題です。管理会社が分かっているのは企業名ぐらいで、どういった世代や性別の人が何人ぐらい出入りしているのかといったことを把握していません。
―事業用不動産は、居住用に比べて賃料が高く、滞納などが発生すると損失のインパクトが大きい。そういったなかでは、テナントのデータを活用した与信審査など、非常に活用できるシーンが多いと思います。
与信をもっと厳しくして、敷金を下げるといった方策もあると思います。
例えば一般的な「オフィス物件の敷金12カ月分」というのはビジネス側にとっても大きな負担になりますよね。与信と敷金のバランスを取るためにデータを活用することも有効だと思います。
与信審査レベルが低いと、その分だけ敷金が高い。もっと経済を促進させるためには、逆でなければならないと思います。
―将来の展望を教えてください。
当社のビジョンは、全てのカギをクラウド上で管理できるネットワークを作って行くこと。現在は、まずオフィス向けに取り組んでいます。
働いている人は多く、取り扱うカギの種類も多い。
まず、働く人たちのカギを置き換えることに徹底的に取り組んでいきたいと思っています。
今、個人情報や働き方に関する法律の改正などが追い風になっています。国をあげて推進している状況は、「Akerun」にとって大きなチャンスです。