遠くない将来、不動産テックによって不動産ビジネスは劇的に変化すると言われている。
これまでの商慣習や仕組みが変わり、無数の新ビジネスが生まれるかもしれない。
ダイヤモンドメディア(東京都港区)の武井浩三社長に話を聞いた。(リビンマガジンBiz編集部)
―武井さんは不動産テック協会の代表理事を務められています。テクノロジーと不動産ビジネスの距離を感じている人が多い。双方の認識に差が生まれているからでしょうか。
不動産は常に土地や建物など現物があるので、ステークホルダー(利害関係者)がとても多いですね。
建物を建てるところから含めると、施工業者がいますね。出来た建物を所有するREIT、AM・PMのプレイヤー、一棟のコミュニティ管理会社、BM(ビルマネジメント)・FM(ファシリティマネジメント)、そして仲介、その間にもあらゆる業者が存在しています。
このように1つの不動産に対して、いろんな人が関わってくる特徴があります。
なかでも不動産流通という領域だけを考えれば、不動産というよりも情報が流通していると捉えられます。
情報のユニーク性・個別性が高く、一般的な物流(ロジスティクス)のように、決まった商流がありません。Amazonのように、倉庫に在庫を溜めて翌日すぐに届ける、といったことができません。
そういった特性がある中で、日本の不動産流通は賃貸・売買ともに発展し、成熟してきました。こうした構造に課題点を指摘する見方が多いですが、特に賃貸流通・管理においては世界でも一番と言っても良いくらい、サービスの質や業界構造が発達しています。
実際に、韓国は日本の賃貸不動産ビジネスの構造をかなり参考にしており、よく視察に来ています。それぐらい、実は素晴らしく発展してきた業界だと思っています。
賃貸管理業界はビジネスとして確立されてから、歴史にして30~40年ほどしか経っていません。それをITがない時代にここまで成熟させたと思うと、素直に凄いと思います。
―テクノロジー・IT化が遅いという課題もあります。
課題点は、2種類あると思っています。
1つ目は法的な側面、これは民間ではどうにもできない部分です。
法規制によって不動産事業者や不動産テック事業者の行動が規定されていることが発展を阻害しています。
例えば、賃貸仲介では、ポータルサイト→オンライン内見・VR内覧→IT重説→電子申込までできます。しかし、後で重要事項説明書を紙で交付しなければいけませんでした。オンラインの流れが切られてしまいます。
これは法律で定められているので、どうにもできません。だから、不動産テックに取り組む事業者も局所的なサービス展開をせざるを得なかった。
しかし、2019年秋頃から重要事項説明の電子化実験がスタートされます。これが法的に可能になると、電子申込・電子契約の領域が飛躍的に伸びます。こういった流れが加速していくと、不動産テックは大きく発展していくでしょう。
2つ目は民間が健全化しなければいけない部分です。
ここ1~2年は不動産事業者の不祥事が毎日のように報道されています。これは、「業者が悪い」といった単純な問題ではないと思います。健全な競争環境や、健全な市場環境が整っていないことが問題ではないでしょうか。
ITがない時代に高度なインフラを作ってしまったため、情報の非対称性を前提とした流通構造になっている。人口が増え続けて住宅が足りない時代の借地借家法や、宅建業法、マンション管理組合法がそのままにされ、それに沿った商慣習が踏襲されています。
例えば、空き家問題については頻繁に話題に挙がるのに、家を建てる量を管理しようという方向性にはなかなか進まない。現実に即した決まりが必要だと考えています。
こういった環境が、不動産事業者を短期的な利益に駆り立てさせてしまっている原因なのです。
ダイヤモンドメディア・武井浩三社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部
―官民が現在の不動産業界の習慣を生み出しているのですね。
2018年にはアパートメーカーの不祥事が続きました。でも事業者は利益の最大化を追い求めてしまうのは当然のことです。
やはり、住宅総量の管理や都市計画を規定しなければなりません。また、所有者の権利が強く、これだけ自由に建物を建てられる国は、先進国では実は日本くらいしかありません。
アメリカやヨーロッパの方が、個人の権利が強いと思っている人は多いです。でも、アメリカでは意外なほど地域コミュニティを守ろうとする力が強い。特定の区画やブロックに入居するときには、そこのコミュニティの承認が必要ということも多い。
一方、日本ではゴミ屋敷があっても勝手に触ると不法侵入や器物損壊といった刑罰が発生する可能性もある。コミュニティの価値が毀損されているといった感覚には鈍感です。
借地借家法を見ても、入居者の権利が強くなりすぎている。そういったゆがみを解消しないことには、発展は難しいですね。
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