―サービスを提供されて気づいた業界の問題点などはあるのでしょうか。
不動産業界全体で明らかに足りてないなと思うのは、データサイエンティストです。
内覧や物件確認などの膨大なデータを集積して、仮説を立てて「こういうふうにやったら電話での問い合わせが何件減るかな」とか、「ああ、こう変わるんだ、じゃあもうちょっとこうしてみよう」といったことができる人材です。
データが集まっていれば、本当なら「賃料を1,000円下げると、1カ月以内の成約率が何%上がる」ということを論じられるはずです。
しかし、今は経験に基づく勘でしか話ができない。
だから、不動産業界ではコミュニケーション能力が高くて、人脈を作れる人が上のポジションに行く傾向がありますよね。頭を使って、ロジカルにものごとを進めていくタイプの人はそこまで上に行けていない気がしています。
金融業界で活躍する人は、データサイエンティストのように考える人がたくさんいますよね。でも、不動産業界には全くと言っていいほどいないというのも変な話です。
優秀な人材が金融に集まる一方で、金融と同じくらい市場規模の大きい不動産が、そういう才能を集められないことは大きな課題だと思います。
そのためにも、全ての記録を残すことができるスマートロックが必要なのだと思います。
―データサイエンティストやデータ活用の文化が入ってくると、不動産業界はどのように変わるのでしょうか。
「感覚でなんとなく決めるもの」が減ります。
大家さんに「家賃を1,000円下げていただかないと厳しいです」と家賃引き下げ交渉していて、「何が厳しいの?」と聞かれたとき、現状の内覧件数すら答えられないということが普通にあるんです。
「入居が決まらない理由は、賃料が高いからなんですよ」と説明する時、「感覚的に少ないですね」では、納得してくれませんよ。せめて周辺の物件と、問い合わせ数や内覧数を比較して報告するべきだと思います。
賃料の値下げやADといったものを、いくらに設定したらどのようになるのか、といった予測値を作ることができるようになれば賃貸業界の透明性が高まり、属人性がなくなります。
―属人性をなくして均一化した方が、業界的にも良い影響を与えると。
賃貸物件に関しては、完全にそうだと思います。
売買に関しては、値段がどこまで正しいかは、買いたい人が納得するならば別にそれで良いんですよね。買主の理由やニーズで価値が変わりますから。
でも、賃貸市場には常にたくさんの物件があり、空室もどんどん出ています。
以前はホテル業界も近かったのですが、現在ではダイナミックプライシングなどの価格変動が一挙に普及しています。価格を自動で決定して、そのまま広告の出し方まで進化しています。
ホテルを新築する時も、こういったデータが活用されていて、最新の設備を入れると稼働率がいくら変わるとか計算するようになっている。客室の大きさもデータで計算されています。
賃貸住宅ビジネスで使われているデータとは比べものになりません。
―賃貸業界は水をあけられた。
そうです。
週1回部屋を清掃するといったサービスを標準で付けたら賃料を上げられるんじゃないか、といったことを企画して、データを蓄積していけば、賃貸ビジネスはどんどん進化するはずです。
しかし、データを蓄積してそれを生かしていくという発想がないので、進化がまったく感じられない。
―管理会社に求められている価値はそこにあるのかもしれません。
まさに、オーナーにどのような価値を提供できるかです。
データに基づいた報告をするというのは、今後当然になってくると思います。その先の部分としては、富裕層の人が何を求めているのかをどんどん提案していくことになるのではないのかと思っています。
それは、賃貸仲介営業も同じです。
今後、お客がネットで物件を探して、勝手に自分の足で物件を見に行けるようになれば、仲介の価値は何か。やはり最高の部屋探しや、生活を提供してくれるコンサルティング力になってきます。
―将来的な目標や構想はあるのでしょうか。
賃貸業界においては、データがきちんと活用されることで、属人性や勘に頼ることがなくなる世界を目指しています。
もう一つは、物件の価値が上がるサービスを提供していきたいと考えています。
今は内装のリフォームに何百万円もかけることが珍しくありません。しかし、それだけでは、生活が豊かになったとは言えないと思っています。
やはり便利・快適な生活はソフト面で充実しなければいけない。その点から物件価値が向上の役に立つことできればと考えています。
いつも言っていますが、空室の看板や使われていない土地を見ると悲しい気持ちになるんです。不動産の価値を上げて、不動産ビジネスがもっと世界の役にたつように貢献したいです。